表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔導帝国の英雄譚 〜そして少年は英雄になる〜  作者: 愚者
2章 学院生活編(中)~黒の剣団と獣の少女~
68/133

60話 背中合わせの戦友

 

 雲に覆われた暗天の下、港湾都市オセアーノ北西沿岸部を経ったアクトは、前を行くグレイザーに導かれるまま、魔導工学研究所の位置する山間部中腹に向けて鬱蒼と茂る樹海の中を疾走していた。


 夜の樹海は、外からの景観から見たとおり酷く不気味だった。濡れ葉から零れ落ちる小雨を効果音に、魔物が躍るような木々がどこまでも連なっている。その隙間を深淵に続くかのような暗く深い闇が満たし、微かに霧も出ているのか、空気は重く湿っぽい。


 加えて、昨日の大豪雨によって樹海には半ばから千切れるように薙ぎ倒された木々が無数に転がり、足の踏み場も無いような悪路を形成している。地面も酷くぬかるんでおり、満足な明かりも無いままにこれを征くには最悪の条件と言えた。だが――


「どうした? 息が上がりかけてるぞ、アクト」

「やかましいわ! こういうのは久しぶりなんだよ!」


 アクトが必死の形相、グレイザーが涼しげな表情と余裕の度合いに差はあるものの、二人は端から見ていれば惚れ惚れするような見事な体捌きで、地面の激しい起伏と林立する木々の隙間を、身軽に踏破していく。


 その様は、まるで樹木の間を不規則に吹き抜ける一陣の風のようだ。


「……ん? おいグレイザー、さっきから一体、何処に向かおうとしているんだ?」


 駆けながら、アクトが先を行くグレイザーの背中に問いを投げる。


「ヴォルター=エバンスが黒幕なら、魔導工学研究所に殴り込みをかけるんだろ? にしては、研究所へ向かう道とは微妙に方向がズレてきているような気がするんだが? それに、こんな道なき道を無理して通らんでも……」


 二人が疾走する樹海の深度はより濃くなっていき、鼻を刺すような緑の匂いは、足を進める度に強くなっている。まさか、進めど進めど変わり映えのしない景色が続く原始の樹海で迷ってしまったのかとアクトが懸念するが、


「馬鹿か、お前は。研究所自体は、れっきとした帝国の公的機関だぞ? そんな所に少女を連れ込めば、一発で露見するだろうが」

「ぐっ……そ、そんな事分かってるよ。言ってみただけだ!」

「だと良いがな」


 まったくの杞憂であった。そんな会話を交わしながらも、二人は闇の樹海を臆することなく猛然と突き進む。小さな川を挟んで道の途切れた丘をひとっ飛びに向こう岸へ渡り、地面から突き出した根っこを足場に、複雑な悪路もまったく速度を落とさず踏破していく。


「知っているような素振りだったから敢えて聞かなかったが、そもそもお前、どうやってアイリスの居場所を見つけ出したんだ? アイリスに仕掛けたっていう魔力信号はとっくに解呪されちまったんだろ? だったら、手掛かりなんて無いんじゃ……」

「後で話してやる。今は黙って付いてこい」


 アクトの問いを一蹴し、彼を突き放すようにグレイザーは足に込める力を強め、突風の如く疾走する。


 むっ、とアクトの眉の端が吊り上がるが、別段、迷っているという訳でも無いらしい。アクトは黙って従い、地を蹴る足に更なる力を込め、グレイザーに追随するのだった。


 ――街を立って山に入ってから、およそ半刻は経っただろうか。魔法の光だけを頼りに闇が満たされた樹海を走り続け、感覚の一部が徐々に狂い始めてきた頃、風に乗って潮の香りが微かに流れてきたかと思えば、二人の行く手に立ち塞がる樹海が尽き、視界が一気に開けた。


「此処は……」


 其処に広がるのは、周囲を深緑の樹木や山岳に囲まれた広大な入り江だ。海岸が海水による侵食作用で陸側に抉り込み、終点の砂浜には闇に溶けた波が小さな満ち引きを繰り返している。もし日が高く雲が晴れていれば、陽光を反射して水面が燦然と輝く、さぞや美しい秘密の絶景スポットになっていたことだろう。……今はとてもそんな気分では無いが。


 この場所は他よりも海からの影響が強いのか、上下の高低差は非常に激しく、音を立てて二人の総身を吹きつける潮風は強い。二人はその入り江の、切り立った断崖の天辺に出たのである。


「見ろ。下だ」

「……え? あ、あぁ……」


 時間的にはさほど経っていないにも関わらず、真っ暗闇の樹海からの突如、現れた幻想的な景色に感無量といった様子でアクトが惚けるが、魔法の光を消したグレイザーの鋭い声でふと我に返る。言われたとおりに崖の下を覗くと、海岸が狭まり始める入り江の入り口には、ごく普通の形の中型船舶が二隻停泊していた。そして、


「……ッ!」


 居た。めらめらと淡い光を放つ松明を携え、暗がりでも分かる白き装束と外套に身を包み、積載されていたらしい小型の舟を漕いで次々と浜辺に上陸していく不気味な様相の人間達――間違いない、ルクセリオン構成員だ。


「事は単純な話だ。お前に接触して都市を立つ少し前、俺はもしもの為に早く都市に先行させていた団員から、所属不明の不審船二隻が、洋上を不自然な航路で運航しているという観測報告が上がってきていた」

「……なるほどな。アイリスを誘拐した後、都市の港から出ていくのは流石に怪し過ぎるし、記録も残る。陸路を辿れば、追っ手の攻撃を受ける可能性が高い。そこで密航船ときたか。けど、よく連中の船だと分かったな?」

「ただでさえ光源に乏しい夜に加え、昨夜の嵐で波が荒れている海を航海するなどという杜撰な真似を、商会所属の船舶がする筈が無い。そして、俺は観測班に遠隔型の魔力信号の付呪を命じておき、それを追って此処に辿り着いたという訳だ」

「はっ、自分達の不手際でこの事態を招いたって言ってたが、ちゃっかり二重・三重の予防策を張ってるじゃねぇか。相変わらず抜け目ねぇ奴だな……って、ん?」


 あらゆる事態を想定して、常に幾つもの布石を打っておくグレイザーの計算高さに呆れながら驚くのも束の間、アクトの視界の隅に、不意にある物が入った。目を凝らしてよく見ると、崖の壁面部分には大人でも余裕で入れそうな大きな穴がぽっかり口を開け、その入り口を鋼材で補強した門が覆っている。


「恐らく、あれが目的の場所だ」

「あの穴は……」

「魔導工学研究所に流れる資金の齟齬から大体の察しはつく。奴らはどうも、極秘裏で秘密の研究施設を造っていたようだ。この場所から研究所まではそう遠くない上に、あの穴はここ数ヶ月以内に作られたような物では無い。ヴォルターは研究所所長として活動する裏で、秘密の研究を長年に渡ってずっと続けてきたのだろう」


 その事実に、アクトは軽い戦慄を覚えた。遠くないとはいえ、穴の奥が魔導工学研究所近くまで続いているとするなら、施設としては相当な大きさの物になる。しかも、隠蔽性を上げるために空調設備などを除いた他の施設は、全て地中奥深くに踏められている筈だ。いくら最近の技術が進歩してるといっても、そんな規模の工事を誰にも気付かれずに成し遂げるなど可能なのだろうか。


 それだけではない。人目を忍んで研究所を造らなければならない点や、テロリストの手を借りなければならない時点で、世間には到底見せられないような禁じられた研究か何かを行っているのは明らかだ。そんな事をしてまで一体、何を画策しているのか。その計画に何故、アイリスの身柄が必要になるのか、謎は深まるばかりである。


 ……いや、考えても仕方のない事だ。全ては乗り込んでみれば分かるのだから。気合いを入れ直すべく、アクトは頬を叩いて適度な緊張を巡らせる。


「さて……連中が船から上がって来ているのを見ると、まだアイリスは船に連れ込まてはいないようだな。となると、アイリスが居るとするなら、あの穴の奥か……」

「ああ。だが、これだけの人数となると、奴らに気付かれず中へ潜入するのは難しいぞ」


 グレイザーの言うとおり、浜辺には身を隠しながら近付けるような遮蔽物が一切無い。透明化の魔法を使うことも出来るが、地盤が砂では足跡がくっきり残ってしまうし、魔法を維持するための消費魔力も馬鹿にならない。複数人に対しての認識操作結界を展開するには、時間も手間も掛かる。選択肢はかなり限られていた。


「ていうか、仮に入れたとしても、もし気付かれたら中に居るであろう奴らの仲間と外の連中とで挟み撃ちにされる可能性が高いよな……だったら、やる事は一つだけだろ?」

「……そうだな。不本意だが、やるしかあるまい」


 ニヤリと不敵に笑うアクトの提案に、グレイザーが不服そうに了承する。


 刹那、断崖から二人の姿が忽然と消えた。



 ◆◇◆◇◆◇



「――【気高き雷神よ・其の携えし眩き尖槍以て・――がっ!?」

「【雄々しき炎獣よ・激しき――ッ!?」


 夜闇に輝く雷槍を放とうとしていた白外套の男が、暗闇を斬り裂いて迫る銀閃の前に倒れる。


 砂浜を焼き払う火炎流を放とうとしていた白外套の女が、それよりも圧倒的に速く放たれた雷槍に打ち倒される。


 ルクセリオン構成員が上陸した入り江の浜辺は、小波が満ち引く音だけが聞こえる静謐な空間から一転、剣戟と魔法が織りなす戦場と化した。


 全ての発端は、白外套達の頭上からいきなり降ってきた二人の侵入者――アクトとグレイザーの手によるものだ。やり過ごすのは不可能、出来たとしても挟撃される可能性がある。そういう訳で彼らが選んだのが、小細工抜きの正面突破である。


「五之秘剣――《迅風閃》ッ!!」


 飾り気の無い武骨な片手剣を構えて斬りかかって来た三人の白外套達を、体勢を低くして地を軽やかに蹴ったアクトがすれ違いざまに斬り捨てる。エクスの《慈愛》の権能が乗った聖剣は彼らの肉体を一切傷付けることなく、意識だけを瞬時に刈り取った。


「【穿て雷槍】――【穿て】――【穿て】」


 そんなアクトを遠距離から魔法で仕留めようとする敵は、背後に控えたグレイザーが魔法技巧の数々を駆使し、この暗がりの中でも驚異的な命中精度で淡々と打ち倒していく。


 ――次の瞬間、突然踵を返したアクトがグレイザーに向けて聖剣を突き出し、そのアクトに向けてグレイザーが左指の先を構え――背後からグレイザーに斬りかかろうとしていた敵の胴体を聖剣が突き刺し、アクトの死角から呪文を唱えていた敵を雷槍が打ち倒した。


「後ろがお留守だぞ?」

「お前もな」


 軽口を叩き合いながらも、二人は自分の視覚外に居る敵にも警戒を怠らず排除していく。その時、アクトが自分達から完全に視線を切った隙を突き、二人の白外套がアクト達目掛けて迫っていく。だがそれすらも、


「無駄だ」


 彼らの手に握られた二振りの剣を、グレイザーが()()()()()()放った二条の雷槍が正確に打ち落とした。


瞬時展開(ゼロ・トリガー)」。予め深層意識領域(エリア)の心象風景に構築・待機させたおいた魔法を任意のタイミングで発動させる高等技法。優れた才覚と並々ならぬ努力がなければ習得不可能なこの技を、グレイザーは事もなげに放ったのである。


「よし、後は任せろ。六之秘剣――《渦旋刃》ッ!」


 剣を弾き飛ばされ無防備になった白外套達を、アクトの全力で聖剣を振りかぶった渾身の回転斬りが容赦なく地面に叩き付ける。当然、彼らに外傷は一切なく、意識だけを刈り取った。


 鎧袖一触。白外套の殆どは、元は《静かなる狂気》で洗脳され、仮の心象風景を植え付けられた罪なき一般市民だ。それを《慈愛》の権能で殺傷の心配が無いアクトの獅子奮迅の如き暴れっぷりと、グレイザーが手足の如く操る圧倒的な魔法技巧の数々が、人数差の不利を瞬く間に覆していく。


 戦闘開始から僅か三分。二人が浜辺に広がっていた殆どの敵を制圧した――その時だった。


「「――ッ!!」」


 二人の背筋を撫でる寒々とした殺気――刹那、入り江に停泊していた船舶のうちの一隻から、高密度に圧縮された炎・氷・雷の矢が、雨あられと浜辺に降り注いだ。攻撃の気配をいち早く察知した二人は、それぞれ左右に散って猛烈な魔法の弾幕をやり過ごした。


「新手か」

「今の攻撃、味方まで……!!」


 今しがた浜辺を蹂躙した魔法の暴威は、二人が制圧した白外套や、まだ戦闘行動が可能な者まで問答無用で巻き添えにしていた。またしても目の前で消えていった命を悔やむ間もなく、アクトが攻撃が放たれた方を敵意の眼差しで鋭く睨むと、丁度、船舶から飛び出した三人の人影が浜辺に降り立った。


「ほう……これだけの人数をほぼ瞬殺か。軍の犬にしては、中々腕が立つようじゃねぇか」

「ですが、あの程度の力しか持たない彼らを制圧しただけで、私達の実力を勘違いしてほしくはありませんわね」

「そうそう。彼らは結局、僕達の崇高な目的を全て理解出来なかった愚かな人間だからね」


 白外套とは真逆の、血のように赤黒いローブを身に纏った新手の魔道士は、いかにも粗野で野蛮な雰囲気を感じさせる大柄の男、慈母のような笑みとは裏腹に得体の知れない狂的な何かを感じさせる妙齢の女、ヘラヘラと見る者に不快さを与えるような笑みを浮かべる長身痩躯の青年、と三者三様であった。


(コイツら、《静かなる狂気》で洗脳された連中じゃねぇ……つまり、ルクセリオンの正規構成員、正真正銘の外道魔道士!)


 しかも、アクト達が今まで相手取っていた白外套達とは圧の格がまったく違う。これ見よがしに纏っているローブの色からしても恐らく幹部クラスだろう。


「テメェら……味方まで巻き込んでおいて、その言い草は何だ!? 味方死なせといて、何も思わねぇのかよ!?」

「あ? そこら辺の雑魚が何人死のうが死ぬまいが、知ったこっちゃねぇんだよ。どうせ奴らは消耗品、その気になれば幾らでも替えが利くんだからな」

「冥土の土産に教えてあげるけど、《静かなる狂気》は組織内ではもうかなり簡略化が進んでる術式なんだよ。いつかは道行く只の一般人をいきなり強力な魔導兵に作り替える、なんて事も出来るかもよ?」


 人を人とも思わないルクセリオン構成員の嘲るような言動と視線に、アクトの中でプツリと何か切れるような音がした。魂の奥から烈火の如き怒りがこみ上げ、対照的に思考はどこまでも研ぎ澄まされ冷たくなっていく。


「……エクス、《慈愛》の権能を解除しろ」

『マスター……よろしいのですか?』

「構わない。コイツらは、俺がこの手で叩っ斬らないと気が済まねぇ……!」


 押し黙ったエクスの思考がアクトの頭を凄まじい速度で流れ…‥数瞬の後に聖剣から《慈愛》の権能が解除された。ただ何かを‟斬る”ために剥き出しとなった白刃が、松明の光を受けて鋭利に輝く。


 慈悲は無い。これ以上不快な言葉を並べられる前に、一刻も早く目の前の敵を肉塊にせんと、魔力を漲らせたアクトが地を蹴り砕いて駆け出そうとするその時、


「アクト、お前は先に行け」

「……なに?」


 肩を掴んでアクトの突撃を制止したのは、グレイザーだ。普段と変わらず氷のように落ち着いてはいるが…‥アクトの肩を掴む手には、妙な力が籠っている。見れば、敵魔道士達を睨む瞳は普段よりも数段鋭さを増しており、怒りに燃えるアクトですらぞっとするほどだ。


「この外道共の相手は、俺が務める。お前は力と魔力を温存して、先に進め」

「らしくないな。手練れの魔道士との戦いで、可能な限り人数差の不利はなくせって、昔、俺に教えたのはお前だぞ?」


 怪訝な表情を浮かべるアクトの問いに、グレイザーは敵から視線を切らすことなく応じる。


「奴らの狙いが少女の身柄だとするなら、何故少女を攫った後、直ぐに離脱しなかった? 確証は無いが……少女の身柄を利用する為の『何か』がこの先にある可能性は高い。この連中がやって来たタイミングを考えれば、今この瞬間何かが行われているのかもしれん。駆け付けた頃には、既に手遅れになっている可能性は否定出来んぞ」

「……ッ!」

「お前の目的は、あのような取るにも足らん雑魚共を斬り捨てる事だったのか? 己の目的を見失うな」


 グレイザーの冷たくも感情の籠ったその言葉が、アクトの中で煮え滾っていた怒りを急速に冷ました。それと同時に、怒りで忘れかけていた自分達の作戦とは別の、もう一つ大事なことを思い出させる。


「……了解、此処は任せた。けど、一つ頼みがある。お前はそいつらを片付けたら、研究所の方……『アイツら』の所へ向かってほしい。多分、この状況で一番お前の力が必要なのは、『アイツら』だ。詳しく話している時間は無いけど……頼む」


 突然のアクトの頼みに、今度はグレイザーが怪訝な表情を浮かべる番だった。だが、彼の真剣な眼差しの奥にただならぬ何かを感じ取ったのだろう。


「……詳細は知らんが、良いだろう。その代わり、お前は必ず少女を助けて奴らを一網打尽にしろ。失敗は許さん」


 グレイザーはこの頼みを了承するのだった。


「勿論。全てが終わったら、麓でまた会おう。……背中は任せたぜ、相棒」

「抜かせ、誰が相棒だ」


 途端、構えを解いたアクトが駆け出した。目指すは十数メトリア離れた先にある秘密研究所に続いていると思わしき大穴。何の迷いもなく、ただ一直線に駆ける。


「っておい、何処に行きやがる! 【紅蓮に染まれ】――」

「【やらせるか】」


 当然、アクトの進行を妨害しようと呪文を唱え始めた大男の魔道士に先んじて、グレイザーが対抗《回帰霧散(バニシュ・ゼロ)》で無力化。結果、何の妨害も受けることなくアクトの姿は大穴の奥に消えていき、後にはグレイザーとルクセリオン構成員三人が残った。


「貴様らの相手など、俺一人で十分だ」


 グレイザーは何事もなかったかのように、淡々とその掌を構成員達に向け、鋭い視線で睨み据える。対する彼らは、苛立ちを隠そうともせずに肩を大きく震わせる。それは敵をみすみす逃してしまった事に対する後悔よりも、この状況下で自分達の事を雑魚と一蹴するグレイザーに対する怒りの方が強かった。


「はっ、良いぜ! テメェをさっさと片付けて、あのガキも仕留めてやらぁ!!」

「よくよく見れば、中々素敵な殿方……フフフ、貴方の矜持や誇りごと、全て地に這いつくばらせてあげますわ――ッ!!」

「そのすまし顔、直ぐに恐怖と絶望でぐちゃぐちゃに染めてあげるよ!!」


 敵意と憎悪を剥き出しにし、構成員達はそれぞれ呪文を唱え始め、


「来い、外道共。【赫灼たる業火よ】」


 グレイザーと外道魔道士、一対三の壮絶な魔法戦が展開された。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ