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魔導帝国の英雄譚 〜そして少年は英雄になる〜  作者: 愚者
2章 学院生活編(中)~黒の剣団と獣の少女~
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61話 鋼鉄の兵士

 

 アクトが突入した大穴の奥――秘密研究所は、元は天然の大洞穴を掘り進めたような構造をしていた。天井に吊り下げられた魔石灯が放つ淡い光の下、壁に空いた幾つもの穴から伸びる通路が、迷路のように複雑に絡み合っている。


 所々に自然の痕跡が見られるものの、殆どの通路が資材で人工的に補強され、洞穴の中に関わらず近代施設の中に居るかのようだ。


 さらに、この土地の霊脈すら施設の動力として利用しているのか、研究所内のいたるところから人工的に錬成した魔力や、天然の魔素の気配が強く感じられる。魔力濃度も非常に高い。


(この施設内に他のルクセリオン共が潜んでいる気配は無い。だが、その代わりに……ッ!)


 その時だった。足元がぼんやり照らされた直線の廊下を全力疾走するアクトの前に、突如として立ち塞がる無数の影――()()は、人ではなかった。


 大小無数、人間の体長を大きく凌ぐ巨躯の物もあれば、それよりずっと小さな物もある。そして、人ならざる体躯を覆う、魔石灯の光を反射して輝く金属の光沢。


「戦闘用の自動人形(オート・ゴーレム)、か。大盤振る舞いだな、オイ……!」


 感情がまったく籠っていない無機質な視線を自分に向けてくる機械仕掛けの人形に、アクトは聖剣を正中線に構え鬼気迫る表情で睨み返す。


 立ち塞がる自動人形には幾つかの種類があり、標準的な人型に獣のような出で立ちをした四足型など、一般にはあまり見られない種類も散見される。


 ――道すがら、アクトがグレイザーから聞いた話では、黒幕のヴォルター=エバンスはかつて軍事用の自動人形の研究開発の第一人者として、それなりの名声を得ていたらしい。


 オセアーノ魔導工学研究所所長に就任してからは、成果らしい成果を上げることはなかったようだが、裏で研究を続けていても何らおかしくはない。


『対象ノスキャンヲ開始……完了。不正規ノバイタルデータヲ検知、侵入者ト判断』

『同系列指揮系統ニ通達。第一種戦闘行動ヘ移行、侵入者ノ殲滅ヲ開始シマス』


 どうやらこの施設に登録されていないアクトの存在を敵と認識したらしい。割れた雑な機械音声を上げ、機械眼球(カメラアイ)を緑・黄・赤の順に変色させた自動人形達は、小型魔力炉から駆動音を轟かせ、アクト目掛けて一勢に襲い掛かる!


「俺には時間が無いんだ……だから、どけぇええええええッ!!」


 圧倒的な質量で迫り来る機械仕掛けの人形の軍勢――アクトはそれに微塵も臆することなく全力放出した魔力を聖剣に纏わせ、床を蹴り砕き一陣の風となって鋼鉄の波と相対する!


『侵入者、排除』

『排除、排除』


 真っ先に仕掛けて来たのは人型の自動人形二体だ。人の二倍はあろうかという長さ・太さの巨大な腕を持ち上げ、羽虫を叩き潰すかの如くアクトに振り下ろす。これに対し、アクトは地を蹴る前に残しておいた加速をかけて二体のうち一体の懐に入り込み、振り下ろされる前の巨腕を、鋼鉄をも易々と切断する聖剣で斬り落とした。


 体勢を崩し転倒した自動人形に目もくれず、間髪入れずにアクトは魔力放出で跳躍という行動を強化、天井近くまで跳び上がる。直後、半瞬前まで彼が立っていた場所に、もう一体の巨腕が振り下ろされた。


 砕ける床、上がる砂塵、不明瞭になる視界。そんな中でも、攻撃を躱したアクトはそのまま床に叩き付けられた腕に着地。それを伝って腕が引き戻される前に自動人形の顔面と同じ高さまで登り、


「シッ!」


 一穿。纏った魔力を切っ先に集中させ、突き出した聖剣で自動人形の堅固な胸部を貫いた。ずどん、と「機械眼球」から光が消え失せ、自動人形は後続の仲間達を巻き込んで背中から倒れ込み、ピクリとも動かなくなった。


 自動人形の弱点は、筐体内に埋め込まれた「核」だ。小型の魔力炉としての機能も持つ自動人形にとっての心臓を破壊すれば、どのような自動人形であっても即時機能を停止する。アクトも当然、それを心得ており、霊的な視覚を研ぎ澄ませて魔力が集中する自動人形の「核」を探し当て、正確に破壊したのである。


 恐るべき手際の早さで二体の自動人形を無力化したアクト。されど、機械仕掛けの人形は仲間が打ち取られてもまったく動じることなく、倒れた仲間の亡骸を踏みつけ侵入者の排除を再開した。


「……ッ、おでましか!」


 刹那、圧倒的質量を持つ鋼鉄の波を掻き分け、いち早く侵入者に肉薄せんと飛び出す三つの小柄な影があった――例の四足獣型だ。


 恐らく狼か何かの魔獣を元にして作られているのだろう。尻尾や耳に付けられた標的を探知するセンサー、硬質化の魔法が付呪(エンチャント)された強靭な牙を以て、自動人形達は本物と比べても違和感の無い俊敏な動きで、壁や天井を蹴ってアクトへ迫る。


 その連携も見事、どれに対処しても残りの二体に仕留められるという布陣だ。魔獣狩りに慣れているような者ならいざ知らず、四足歩行という人間が相手をするには戦い辛い形態に加え、この縦横無尽な高速機動を前に普通ならまともに対応出来ず喉元を喰い千切られるだろう。


 ……だが、アクト=セレンシアはこのような未知の敵が相手であろうとその場その場で戦略を立て、己が最善を尽くすのみ。この程度の苦境も乗り越えられないようでは、「魔道士殺し」は今、この場所に立ってはいないのだから。


「八之秘剣――《八岐大蛇(やまたのおろち)》ッ!」


 半端な装甲なら容易に噛み砕く牙が眼前に迫ろうかという距離まで引き付けての瞬間八連撃。高速で揺らめく白刃はそれぞれ襲い来る自動人形の胴体を正確に捉えるような軌道を描き、聖剣は軽量かつ堅固な合金装甲をバターよろしく一刀両断した。


 胴体を切断されれば「核」も何もあったものではない。斬り捨てられた自動人形は、物言わぬ只のガラクタと化して床に散らばった。難易度の高い技を正確な斬撃と合わせて繰り出し、アクトが微かな疲労感と共に残心する――その時だった。


『マスター!』

「――ッ!?」


 精霊の警戒と同時に彼の視界に映り込んだその存在、けたたましい()()を立てて天井近くに陣取り、進行する鋼鉄の波を見下ろしている……何と、現れたのは蜂型の自動人形だ。ただし姿形は似ていても、自然界のそれよりも巨大な機械仕掛けの昆虫である。


(あ、あんなモンまで開発されてたのか!?)


 ぎょっとして目を見開くアクトに向け、自動人形は軽金属に繊維を織り交ぜた羽をはためかせ、宙を自由自在に翔ける。速い、それに地を駆けるだけの四足獣型よりも遥かに複雑な動きを、「特定動作」で技を出し終えたアクトには捉えきれない。


(この匂い……毒!)


 人の腕ほどもあろうかという自動人形の針には、大型魔獣でさえ即死させる魔法毒が込められている。何とか斬り落とそうとアクトが剣を振るうものの、作り出される剣の結界をすり抜けた自動人形は必殺の一撃を彼の無防備な肌に突き立てんとし――


 ガキンッ! 


 ――その直前、ほぼゼロ距離まで接近したアクト達の間に割って入る物体があった。衝突する鋼と鋼、響き渡る金属音と盛大に散る火花、横から入った謎の物体を嫌な音を立てて削る針の先から、黒みがかった緑色の液体が床に滴り落ちる。


「チッ、危っねぇなぁ!!」


 その物体の正体は、今しがたアクトが斬り落とした自動人形の腕だ。咄嗟に床から拾い、盾替わりとして利用したのである。攻撃の失敗を認識した自動人形は即座に飛翔して離脱しようとするが、毒づきながらアクトが投擲した鋼鉄の塊が激突した。


「フッ!」


 装甲は他の種類より遥かに薄いとはいえ、この程度で壊れるほど(やわ)な造りはしていない。だが、要たる羽の動きを阻害されて動きが鈍った一瞬の隙を突かれ、鋭い気迫と共に振るわれた聖剣に両断された。


(ったく、次から次へと……! 実用的な戦闘投入が可能な自動人形の開発ってのは、まだまだ先の技術だったんじゃ無いのか!? なのにコイツらの動きときたら、立派に戦場で人形と同じ働きが出来るぞ!? 死に対する恐怖も皆無、おまけにこの種類と数……これは、あっちの方が当たりクジだったか……!?)


 冷静に状況を分析しながらも、アクトは今も尚、熾烈な戦いを繰り広げているであろう戦友に想いを馳せる。先程遭遇した三人の外法魔道士は確かに手練れのようだったが、彼にはグレイザーが負ける未来が想像出来なかった。


(任務優先って言っておきながら、こうして俺に道を作ってくれたアイツの為にも、奴らからアイリスを助け出す為にも、手段は選んでいられない。使いたくなかったが……やるしかねぇ!)


 半端な意地を貫いて肝心の目的を達せられないようでは、本末転倒もいいところだ。


 バックステップで迫り来る鋼鉄の波から大きく距離を離したアクトは、放出した魔力を真正面に構えた聖剣の切っ先に限界まで集中させる。それと同時に脚力強化にも魔力を注ぎ込み、大きく息を吸い込んで酸素を取り込む。限界まで膝を折り曲げ、体を低く沈める。


 上半身の捻りと下半身の発条(ばね)()()を作り、自身の全体重、全膂力、持ちうる力の全てを切っ先に一転集中させ突進する、アクトが持つ剣技の中でも最強の攻撃力を誇る突き技。その名は――


「九之秘剣――《破槍(はそう)一角獣(いっかくじゅう)》ーーッ!!」


 刹那、音が爆ぜた。床を抉るほどの勢いで地を蹴り、一振りの「槍」と化したアクトは、迫りくる鋼鉄の波に正面から突っ込み――悉くを貫き払った。


 直撃を逃れた鋼鉄の塊たる自動人形でさえ衝撃の余波だけで容易く吹き飛ばされ、突きの軌道上に立っていた自動人形は一切の拮抗を許されず胴体を四散させた。


「おおおおおおおおーーーッッ!!!」


 裂帛の咆哮を轟かせ、勢いを一切緩めることなくアクトは全てを振り切って鋼鉄の波を遂に突破した。そして、勢いそのまま斜め方向に地矢の如く飛翔し、最後尾へ控えていた上位個体らしき一回り巨大な人型自動人形の胸部をぶち抜いた。


(よし、これだけ削れれば……もう一押し!)


 反撃一つ許さず穿った風穴から着地したアクトは、すぐ其処にあった角を曲がって別の通路に入る。吹き飛ばしたとはいえ倒した訳では無い、直ぐに体勢を立て直してきた自動人形達の視線を切り、アクトは壁に背を預けて懐からある物を取り出した。


 人間の握り拳ほどの大きさの、林檎のように楕円めいた球形の物体だ。ただし色は林檎とは程遠い黒色で、球体の上部には栓とレバーのような物が取り付けられている。


「……」


 武器にしてはあまりにも小さいその物体を見つめながら、アクトは何か思い詰めたような表情を浮かべ……やがて、意を決したように栓を引き抜き、角から半身を出してそれを自動人形達目掛けて静かに放り投げた。


 かつん、かつん、と小気味の良い音を立てながら、物体は何回か床を跳ねて侵入者(アクト)が逃げ込んだ通路へ向かう自動人形達の足元に転がっていき……


「――ッ!!」


 カッ! 白熱する視界、響く轟音、そして――衝撃。廊下から突如として生じた猛烈な爆圧・爆風が、角に隠れていたアクトの肌を熱く撫で、施設全体を激しく震わせた。


炸裂爆弾(フラグ・グレネード)」――爆晶石と呼ばれる可燃性素材に特殊火薬を詰めて投擲・雷管から発生した火焔で爆破する殺傷兵器。魔力との親和性も高く、火薬や刻印する術式次第で人を容易に吹き飛ばす超威力や、人外の生物などにも効力を発揮する、まさに魔法の持つ暴威を象徴したかのような代物だ。


 結局、当時は魔法嫌いから生じる嫌悪感で終ぞ使うことはなかったが……傭兵時代のアクトが剣以外の手頃な攻撃手段、奥の手中の奥の手として常に携帯し、突入前にグレイザーから渡されていたものである。


 特に、今回使った火薬は「黒の剣団」でも随一の魔道具製作者(アイテムメイカー)であるラフィール手製の魔法火薬。それが引き起こす一般品の何倍もの威力を持つ爆発は、相手が機械仕掛けの人形であっても十全に威力を発揮した。


(起き上がってくるのは……居ないな。後ろの方に何体か無事なのは居るようだが、爆発の際に倒れた奴の下敷きになって動けないようだ)


 戦闘終了。初めて遭遇した敵の詳細をじっくり見分したいところだが……今のアクトには時間が無い。念のために鋼鉄の残骸を一瞥だけしたアクトは、聖剣を鞘に納めて先を急いだ――



 ◆◇◆◇◆◇



 ……駆ける、駆ける。ひたすら駆ける。


 幾つもの通路が複雑に入り組んだ研究所を、アクトは迷っているような様子もなくどんどん進んでいく。道中、様々な装置や計器が設置された、何かしらの研究用途で使われている部屋に入っても、彼はまるで目もくれず其処を通り過ぎる。


 幸い、仕掛けられた罠に魔法的な罠は存在せず、あったのは全て機械的・原始的な罠ばかりだ。故に、罠が発動する前に離脱したり罠その物を破壊したりと、力ずくでの突破が容易であった。


(…‥エクス、次はどっちだ?)

『お待ちください……次の角を左です』

「分かった。念の為に、他にも怪しそうな魔力反応があったら教えてくれ」


 これだけ巨大な敵の拠地であれば、複数人で乗り込んで一つずつ慎重に部屋を調べて敵を詰めていくのが基本だ。手段的には邪道ではあるが、まったくの初見であるにも関わらずアクトが一切の迷いもなく進めているのには理由があった。


(魔法関連の施設を造る際に、その土地の霊脈から抽出した魔素(エーテル)を魔力に変換して利用するってのは、よく使われる手法って話だが……此処を流れる魔素の気配は、異常だ。何故、こんなに活性化されているんだ?)


 そう、アクトが霊的な視覚を研ぎ澄ませると、ただでさえ常人が立ち入れば「魔力酔い」を起こしそうな程に濃密な魔力、その殆どが研究所内のある一点に集中しているのだ。単に魔法研究を行うだけなら、こうまで励起活性された魔力を用いる必要は無い。はっきり言って資源と効率の無駄である。


 確証は無い。だから、これはアクトの直感だ。研究所内を流れる濃密な魔力が集中する場所――「最奥」には、必ず「何か」がある。そして、その場所にアイリスも居る可能性が高い。


 ……とはいえ、だ。いくら訓練されていても人間の知覚精度には絶対的な限界がある。ましてや、目に見えない非実体的なエネルギーなら尚更の事だ。だが、精霊としてより世界に深く結びついているエクスになら、人間を遥かに超える精度で魔力の流れを追えるのだ。


(アイリス……お前と出会った時から、どうしてあそこまでお前の事が気にかかっていたのか、今になってようやく分かったよ。きっと俺達は、根っこでは似た物同士なんだ)


 エクスの誘導を受け、長い長い廊下を疾走しながら、アクトは一人思う。


(抗い難い理不尽な運命に人生を狂わされ、同時に全てを失った二匹の兎。其処から這い上がるのに、生きるのに必死で、色んな物を削ぎ落としてきた……空虚で哀れな生き物だ)


 先日、アクトが「暴走」したアイリスと対峙したあの時……アクトが彼女に怯んでしまったのは、あの息の詰まるような強烈な威圧感だけでなかった。「獣」の如き少女の眼は、目に付く全てに――「世界」そのものに、並々ならぬ「憎悪」を含んでいたのだ。


 実際に対峙した自分には分かる。アレは人間が抱えて良いような憎悪なんて生温いものでは無い。恐らく、根底にあるのはアイリスの中に潜むもう一つの存在――「神獣」の意思だ。血に流れるだけでその人間の性質すら歪めてしまうとは、にわかには信じ難い事だ。……だが、


(その憎悪をあれ程までに増長させたのは、宿主たるアイリス自身の気持ちに他らない。……理解は出来る。俺だって、このクソッタレな世界なんか滅んじまえって何度思ったか分からない。呪われた血、両親や一族を失い、この先の人生も真っ暗……全てを憎んでも仕方のない事だと思う。けど……)


 自分と彼女との間で唯一違う物を挙げるとするなら……それは、手を差し伸べてくれた者達の存在だろう。


 かつて肩を並べて戦った「黒の剣団」の戦友達、剣の道を示してくれた「師匠」、魔法が持つ可能性の片鱗を見せてくれたガラード帝国魔法学院の生徒達……戦うことしか能がなかった自分の世界を色付かせ、広げてくれた彼らは、血も何も繋がっていない本当の意味で赤の他人だ。


 そんな彼らに救われた、自分はずっと恵まれていたのだ。そういう点では、幼少期に様々な事を教えてくれたエレオノーラでさえも、自分にとっては救いなのだろう。


 因果律だ何だを信じる気にはなれないが……詰まるところ、人の「縁」とは豊かなもので、こんな自分でも今はそこそこ満足な毎日を送れている。


(だからアイリス、今まで沢山の人達が俺を救ってくれたように、今度は俺がお前の救いになってみせる!! お前に、この世界もまだ捨てたもんじゃないって証明してみせる!!)


 そんな決意を胸に、アクトは頼れる精霊の指示に従い、研究所内を突き進むのであった。



 ◆◇◆◇◆◇



 ……その後、小規模な接敵(エンカウント)を何回か繰り返し、延々と続くと思われた通路も終わりが見えた。どんどん、魔力が集中する「最奥」に続く大きな扉が目前に迫ってきて――


「此処かあああああ!!」


 魔力駆動の自動扉が完全に開ききるより早く、アクトは秘密研究所の「最奥」に辿り着いた。


「~~~~ッ!??」


 突入した瞬間、目に入ってきた光景に、アクトは驚愕の表情と共に固まった。完全な臨戦態勢であったアクトが思わず剣の構えを解いてしまう程、()()の存在感は衝撃的だったのだ。


 アクトが今まで踏破してきた研究部屋とは比にもならない程に広大なドーム状空間の中央に、()()は鎮座していた。


 僅かに形は違えど、魔女の大釜のような円錐形、遥か高き天井にまで届く大きさの筐体には、無数の魔導装置や計器が取り付けられている。異常なまでに励起活性された魔素(エーテル)を喰らって鼓動する様は、まるで心臓のようだ。


「こ、これは……!」


 見間違う筈も無い。つい先日、アクトが地上で見た物とほぼ同じ形――だが、目前にそびえ立つソレは、彼の目には酷く不気味に映った。人類の発展とかいう高尚な目的などではなく、何かとてつもなく邪悪な思惑の下に生み出されたような、そんな怖気のする感覚。


「永久、機関……ッ!!」


 人類が追い求める神秘の結晶――無尽蔵のエネルギーを生み出し続ける永遠の心臓が、其処にはあった。




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