俺の家に先輩が戻ってきました。
しばらくして、月光門は戻ってきた。
季節的にも冬が近いとはいえやや厚着しすぎているような気がする。そして、露骨に凛花に視線を合わせようとしない。
「さて、もうすぐハロウィンという事でこうしてコスプレをして集まってみたわけだが」
2人の間に流れる微妙な空気を察してかミッョャムヅテ星人と化した進太郎が話を切り出した。
「ハロウィンって何するもんなんだ?」
「は? 何ってそれはお菓子貰ったりとかだろ」
「うんそれはさっき貰ったけどな」
「美味しかったですお義母さん」
「人の母さんをお義母さんって呼ぶのやめろ」
進太郎と涼の言葉を受けた麗はどうも、と喜びを顔に浮かべながら礼を返した。
先ほどハロウィンのためにとクッキーを焼き始めたのだが、好評だったのが嬉しいようだ。今日はハロウィンではないのだが、麗は特に気にしていないようだ。
「そうだ、先輩もクッキー貰ってってください。先輩の分も用意してあるんで」
「え……なんで私がハロウィンのためにコスプレしてきた人に渡すクッキーを貰えるんだい? 私は何のコスプレもしていないよ?」
話しかける絶好のタイミングだと思い凛花は思い切って声をかけたが、月光門は完全に拗ねていた。
いつもと口調は変わらないが、子供のように頬を膨らませている。そして相変わらず目を合わせようとしない。
「あの……先輩俺が悪かったですから、お願いですから機嫌直してくださいよ」
「……ふんっ、機嫌を直すも何も私は別に怒ったりなんかしていないし何も気にしたりなんてしていないよ」
「じゃあそろそろちょっと服脱いでくださいよ! さっきから汗ダックダクじゃないですか!」
季節的にはもう半分くらい冬である。という事は当然暖房器具くらい使っているし、室内は相応に暖かい。
となると頭の天辺から爪先までモコモコの羊みたく着込んだ月光門が滝のように汗を流し続け一人我慢大会状態になるのも当然である。
「わっ私に脱げと言うのかね!? 今日の凛花くんはさっきからやけにいやらしくないかい!?」
「そういう意味で言ったんじゃないですから! ほらそんな汗かき続けたら体に悪いでしょうが!」
「い、いやっ、信じないぞ! そんな事言って本当は汗でビシャビシャになった私の衣服を吸いしゃぶるつもりなんだろう!?」
「そんな変態みたいなマネするわけないでしょうか! 俺の事なんだと思ってるんですか!」
「お待ちください凛花さん! 仮に自分の好みなタイプの人の汗が染み込んだ服であれば……しゃぶりたいと思うのはむしろ一般的! それを変態と呼ぶのはこの夏条涼、納得いきませんわ!」
「そこ今重要じゃないから黙っててくれないかな!?」
ともかく、色々と試してはみるがやはり月光門は聞く耳を持たない。このままではどれだけ謝っても許す許さない以前の問題だろう。
その強情さにどうしたらいいのかと凛花が困り果てると、仕方がないと進太郎が立ち上がった。
「こうなってしまっては、もうこれしか手はないだろうな」
「シン、どうすればいいのか知ってるのか?」
「まあ一応はな。俺もあんまりこういう空気は好きじゃないし、こんなのは早いとこ終わらせちまおうぜ」
進太郎の言葉に凛花は頷く。何をする気かは分かっていないが、月光門と仲違いしたままではいたくない。親友を信じて、任せてみる事にした。
月光門の方を見て進太郎は言う。
「先輩も、本当はもう気にしてないけど、ただやめ時がわかんなくなってるだけっすよね。わかりやすい理由があれば、もう許せますよね?」
「……さあ、何の事だろうね。私はさっきも言ったけど元々怒ってはいないからね。……でも、許す理由があれば許せるとは思うよ。……いや、一般論でね? 私は本当に何か気にしてるとかそういうのじゃ」
長くなりそうなのを察したのか進太郎ははいはい、と月光門の言葉を切る。
これを見ていれば凛花にもわかる。確かに、何か理由さえ用意すれば月光門は許してくれそうだ。
という事は凛花がその何らかの理由となるべきなのだろうが、一体何をすればいいのか。
「それでシン、俺は何すればいいんだ?」
「難しい話じゃない。一言で言やあ痛み分けってやつだな」
進太郎の言葉に凛花は首を捻った。痛み分け、とは一体何を。
その答えには涼の方が一足先にたどり着いたようだ。それから、母も。
「なるほど、そういう事ですね」
「ふふっ、私の息子がどれだけ成長したのか、見せてもらいましょうか」
「え、何さ2人して……」
母のにやりとした顔を見て、なんとなく凛花は悪い予感がしていた。
どうやら、進太郎が何をさせようとしているのか分かっていないのは当事者である凛花と月光門だけのようだ。
そうしてわからないままでいると麗が背中から凛花の脇に手を伸ばして優しく抱きしめてきた。
「ええと、何が始まるのかな」
「俺もまったくわかんないんですけど……」
いいや、凛花は理解した。涼が凛花のズボンに手をかけたあたりでこれからどうなるのかを完全に。
「ほら、目には目を、なんて言うしさ。見てしまったからには見せる事で詫びるべきかなって」
「そして月光門さんには大きいだの小さいだのを評価していただくわけですわね!」
「なあちょっと待ってそれ月光門先輩が損するだけじゃねえかな!?」
まあ、凛花としてはあまり他人に見られたくないものである。
それが見られたくないものを見られた月光門への償いになるかと言えば、そんな事はないだろう。どう考えたって見たくはないはず。
こんな事したって何の解決にもならないし誰も得しないのだからやめるべきだと凛花は叫ぶ。
「ご心配なさらずに、凛花さん!」
「な、何か秘策でもあるのか、夏条!」
「ええ、私は少なくとも月光門さんの倍は見たいと思っていますので大丈夫です!」
「何が!?」
大丈夫です、と繰り返し呟きながらズボンを脱がせようとしてくる夏条に凛花は必死で抵抗する。
何が大丈夫なのかわからないし、そして多分何も大丈夫じゃないんだろうなと思う。
「母さん! 助けて!」
凛花は麗に助けを求めてみる。まあ普通に先程から拘束し続けているので言ったところで意味がないのはわかっていたが。
「えー、1回くらい見せてよ~」
「だからそれじゃあ手遅れなんだって!」
「でも、やっぱり息子の成長ってきになるし……」
「ああその息子ってやっぱそっちとかけてたの!?」
「あらやだ凛花ってば、上手い事言うわね」
「うわあ墓穴掘った!」
この場に味方がいない事を再確認した凛花は、それでもこれ以上月光門に変なものを見せないようにと抵抗を続ける。
が、それも長くは続かない。尻は既に半分ほどがあらわになっているし、前の方もあと一息で見えてしまいそうだ。
当然そこに至って涼の手が緩む事はなく、むしろより苛烈になった。
「や、やめてっ! 見ないでぇっ!」
「こら! 夜のお父さんのマネしちゃダメでしょ! お父さん恥ずかしがりな所あるんだから!」
「えっ待って何それ初耳なんだけど」
知りたくない父親の一面を思わぬタイミングで聞かされ、下半身に込めていた力も一気に抜けてしまう。
涼もその瞬間を見逃さず、そのままズボンを引きずり下ろす。
「ああっ……!」
ついに、見えてしまった。ああきっと月光門先輩もさっきはこんな気分だったのかな、と凛花は思った。
……が、それは気のせいだった。ズボンはまだ下ろされていない。
そしてよく見れば、手が一組増えている。夏条涼とは別のそれは、月光門の手だ。
「いや、そんなの見せなくていいからね」
凛花を母と涼から引きはがし、月光門は困ったような顔でそう言った。
できればもう少し早い段階でそう言ってほしかったのだが、そこでは凛花は何も言わずにおくのだった。




