俺の家でハロウィンが始まりました。まだハロウィンじゃないけど。
「やあ凛花くん、今日は……」
夏条涼の登場よりやや遅れて到着した月光門は麗によってリビングに招かれると、軽く片手を上げたままの姿勢で硬直した。
「ええっと、それは何の衣装なんだろうか」
「ミッョャムヅテ星人です」
「ミ……えっ何て?」
凛花は今、2体のミッョャムヅテ星人に挟まれ、ソファーに座っていた。分かりやすく言えば進太郎と涼である。
「ははは……随分とまた奇抜な格好だね」
「やっぱり!? 先輩もそう思いますよね!」
2人の衣装に困惑した様子を見て、凛花はようやく自分が知らなかったのではないと確信して表情を明るくした。
「奇抜さで言うと月光門さんもだと思うけどねえ」
そう言った母の言葉に改めて月光門の姿を見てみると、なぜか首から足下までがっちりとコートを着ているのに今更気が付く。
季節的にはそうおかしくもないが、確か凛花の記憶では月光門もコスプレをして来るという話だったはずだ。
という事は下に衣装を着ているのだろうか。
「先輩は確か切り裂きジャックのコスプレなんでしたっけ」
「うん……しては来たんだがね」
月光門は小声で言うと、凛花から視線を逸らした。
やはり生徒会長にもなるような優等生だけあってコスプレというのは抵抗があるのだろうか。若干顔も赤くなっている。
「そんな恥ずかしがらなくたっていいじゃないですか。ほらシンと夏条を見てくださいよ、多分アレよりは恥ずかしくないですって」
「なにおう、俺が今朝考えたオリジナル宇宙人を馬鹿にしないでもらおうか!」
「そうですわ、私だって進太郎さんとお揃いの衣装にするために先週から作り始めたんですもの!」
「やっぱり母さん知ったかぶってただけじゃ……おいちょっと待て時系列おかしくないか!?」
自作したのか買ってきたのかまでは知らないが、凛花としてはせっかく今日の為に用意してきたのなら一目見てみたい。
が、やはりそれでも恥じらいが大きいのか月光門は躊躇っている。
「ね、ネットを参考にして作ってみたんだがね……そのね、思っていたよりも露出が多くってね」
そう言って、月光門は凛花と進太郎を交互に見ている。
どうやら、異性に見られるには相当恥ずかしい格好をしてきてしまったらしい。
自作という事だが作っている最中に思いとどまれなかったのだろうかと凛花は思う。いや、きっと仕方のない事なのだろう。どんなものだって作っている内は何の問題もなく感じられるが、いざそれが人に見られる段階になると途端に粗が見えてきてしまうというのはよくある事だ。
そういうものは大抵自身が思うほどに気になるものではないのだが、本人が嫌がる以上は強制はできない。
「大丈夫よ、凛花は男にしか興味ないもの」
「母さん適当な事言わないで!!?」
月光門を安心させるためなのか麗はとんでもない爆弾を投下する。
凛花はできるだけ後ろでガッツポーズをしているミッョャムヅテ星人2匹を視界に入れないようにしながら月光門を見る。
「あの先輩! 嫌だったら別に無理して見せてくれなくっていいですからね!」
「……いいや、多少気恥ずかしいがやはりわざわざ着てきたのだ。今日はせっかくのハロウィンだ、出し惜しむのはやめておこう」
今日はまだハロウィンではないんですけど、とは凛花は言わなかった。覚悟を決めた月光門に茶々を入れる気にはなれなかったのだ。
……別に、凛花が露出度の高いというコスプレを見てみたいとかそういう話ではない。せっかく作られたものなのだからやはり誰かの目に触れさせるべきだと思うだけだ。
そして、月光門は自らのコートに手をかけた。
「さあ見てもらおう、私のジャックザリッパーのコスプレを!」
そう言って広げられたコートの中は、下着だけを身に付けられていた。……正確には下着同然の衣服が身に付けられていた。
本当に必要最低限の布だけであり、凛花の感想としては9割くらい裸同然に思える。
正直、よくある露出狂のコスプレと言われた方が納得できるだろう。いや、露出狂がよくあっても困るが。
「ど、どうかな。感想とか聞かせてほしいのだけれども」
「さ……再現度高いですね! いいと思います!」
嘘を吐いた。凛花には今見ているものが本当にコスプレなのか実は月光門に露出癖があるだけなのかの区別もつかない。かと言って不用意な事を言って落ち込ませたくもないので適当に話を合わせた。
「女体化モノのエロゲーのコスプレか……コアですね」
「そのコートと下着姿……なるほど、露出狂のコスプレですわね!」
「あらあらそうなのねぇ。私も昔は露出狂だったのよ~」
「ああっ俺が今フォローしてたのに! あと母さんはもうちょっと言葉の意味を理解してから相槌打ってね!?」
しかし、凛花の気遣いは無駄に終わった。他の3名は言葉を取り繕う気さえ見せはしなかった。
全員見たままを言っているだけではあるが無慈悲すぎはしないかと凛花は思う。もう少し優しさを見せるべきではないかと。
そう思ってから凛花は気付いた。これはこれできっと優しさなのだと。
あんな裸と変わらないような恰好、最初はテンションでごまかせてもそのうち恥ずかしくなってくるに違いない。
ならばそこで適当に話を合わせようとするよりも、いっそ見たままを言ってしまった方が羞恥心もすぐに薄れるのでは。
なるほど、考えていないのは自分の方だったと凛花は反省する。確かに不自然に褒められるよりも思ったままの評価の方が月光門の気も楽になれるだろう。
であらば凛花も進太郎たちに合わせるべきだろうと、改めて月光門のコスプレに感想を述べる事にした。
「先輩! 正直に言うとエロいです!」
思ったそのままを月光門に告げた。そう、はっきり言って凛花はずっと目のやり場に困っていた。ほぼ肌色だし、別の色を探せば自然と紺色の下着に目が行ってしまい、また視線が泳ぎ始めるし。
「あと、思ってたよりも胸が大きかったです!」
そうなれば、当然胸にも目がいく。着やせするというやつなのか、学校の制服などを着ている時以上の大きさに見えた。
続けざまに凛花がそう叫ぶと、月光門は開けっ広げていたコートをゆっくりと下ろし、纏い直した。
勢いに全てを任せていたような先ほどまでの顔とは違い、いつものような非常に落ち着きを取り戻した顔になる。
「き、きがっ着替えてくるね」
が、落ち着いて見えたのは外側だけだった。表情からは考えられないほど声は裏返っており、凛花がそのギャップに呆気にとられている内に月光門は帰ってしまった。
「流石に凛花が悪い」
「悪ノリしすぎかと思います」
「うーん、今のはセクハラよね」
「なんか集中砲火浴びてる……!」
進太郎たちに合わせたつもりが、いつの間にか非難の視線が集まっている。凛花は言いようのない理不尽を感じる。
しかし冷静になって状況をよく見れば、むしろ凛花がトドメを刺しにいったようにも見える。
もしかしたらここは凛花だけは3人のノリに乗っからずにいるべきだったのかもしれない。今となっては文字通りの後悔だが、凛花は反省した。




