俺は料理を頑張りました。
「というわけでシン、俺の家来てご飯作ってくれないかな」
「どういうわけなんだ……?」
あれから30分と経たずに、凛花は進太郎に電話していた。
料理の方はまあ、母にあんな啖呵を切った手前頑張ってはみたが、びっくりするほど食べられないものが出来上がってしまった。
母親との血の繋がりが正しく証明されたようで、悲しいやら嬉しいやらである。
それはともかく、このままでは明日の朝食も学校のお弁当すらも危ういので親友に泣きつく事にした。
麗ほどではないが、進太郎も料理は得意な方である。家も近いし、駄目元で頼み込む。
「まあ俺もまだ晩メシはまだ食ってないし、凛花ん家にお呼ばれしたって事にして行けると言えば行けるが」
「頼む! あとで俺の小遣い分けるから!」
「いや金はいらんよ、友達なんだし」
進太郎は嫌がる素振りも見せずに了承してくれた。心優しい親友がいる事に凛花は感謝の念に絶えない。
「……なんで夏条もいるんだ?」
チャイムが鳴り、進太郎の到着を出迎えようと玄関に向かいドアを開けた凛花は、なぜか進太郎の後ろに夏条涼の姿を確認する。
「ええ、実は凛花さんの家に進太郎さんがご飯を作りに行くというのを偶然聞きまして」
「電話でしかしてないんだけど、その話」
そして少なくとも凛花は室内にいた。どうすればそれが偶然耳に入る位置にいられるのか気になる。
「ま、そんな細かい事はいいじゃないか。メシ作るから通してくれよ」
「細かい、かなあ……」
わざわざ夕食を作りに来てくれた進太郎を玄関で突っ立たせているのも悪いので凛花は中へ招き入れるが、涼も自然にそれへ続く。
止めようかとも思ったが、来てしまったものは仕方ない。追い返すのも可愛そうかなと考え、そのまま通した。
進太郎の手際は見事なものだった。
簡単にできてそれなりに日持ちする料理をいくつか作り、凛花がまだ言ってもいないのに明日のお弁当まで用意してみせた。
「ごめんね進太郎くん、私のせいでこんな時間に呼んじゃって」
「気にしないでください、親友の母さんが困ってるんだから迷惑だなんて思いませんよ」
4人で食卓を囲みながら、麗も凛花も進太郎への感謝を述べる。
「何も言ってないのに弁当まで作ってもらって……やっぱり、何かお礼とか」
「いらんって言ったろ? 明日美味そうに全部食ってくれたらそれでいいよ」
苦笑しながらそう言って手をひらひらさせる。
本人はいらないの一点張りだが、こうも至れり尽くせりでは凛花も黙ってはいられない。いつか何かの形で返せたらいいな、と思う。
「そんで、夏条は一体何しにうちに来たんだ?」
礼を受け取る気はなさそうな進太郎は一旦おいといて、美味しそうに凛花達と共に進太郎の料理を食べる夏条涼にと話を変える。
「進太郎さんの手料理を食べに来ました!」
「……そっか」
胸を張って自信満々に言われ、凛花は納得した。
その情報をどこでどうやって手に入れたのかについてはまったく納得していないが、話す気もなさそうだし納得しておいた。
「それにしても凛花は幸せよね。美味しいご飯を作ってくれる人と美味しそうにご飯を食べてくれる人に好かれてるんだもんね」
「うーん、そこだけ抜き出せばまあそうなんだけど」
どっちも同性というのが、凛花にはなんとも。
友人としては最良かもと思うが、恋とか愛とかにまで凛花は話を持っていけない。
が、凛花の母はそんな事お構いなしだ。
「それで? 凛花はどっちの方が好きなの?」
その質問に進太郎も涼も動きを止めた。
凛花の方を見て、その答えをすさまじい熱視線を向けながら待ち始める。どう答えるにしても非常に言い辛い。
「ほ、本人の前でする話じゃないでしょ……」
「なるほど、どっちかは脈アリって事かしら」
「母さんもしかしなくても話をわざとややこしくしようとしてるよね!?」
都合のいいように言葉を受け取った麗は凛花の訴えを無視し楽しそうな笑顔を見せる。
「なっ……どっちだ! どっちが好きなんだリン! やっぱり夏条か!?」
「ついに凛花さんも進太郎さんの魅力に気付いてしまったのですか!?」
「なんでお前ら自分の事だとは思わないの!?」
両者とも自分ではなく相手の方が魅力的だと感じているようだ。その互いを認めあう姿を見て、やっぱりこの二人が付き合えば全部丸く収まるんじゃねえかな、と凛花は思う。
そんな思いはいざ知らず、2人は口をそろえてつまり、と言う。
「俺の事が好きなのか、リン……」
「ついに私に惚れましたか凛花さん……」
「自分の事だと思わないのかとは聞いたけど、そういう意味じゃないから! ほんとに仲良いよお前ら!」
実はこの2人は既に付き合っていて、自分はただからかわれているだけなんじゃないかとさえ凛花は思えてきた。
まあ、実際はそんな事ないから夏条涼の性別が変わったりしてしまっているわけだが。
「ふふ……。ともかく、凛花がどっちと付き合うにしても、本当に好きな人は一人だけにしないとダメよ?」
「えっ……まって母さんこの2択なの?」
「まさか。凛花が他にもっと好きな人がいるならその子を選んでいいのよ。誰を好きになるにしても、一人だけになさいって言いたかっただけ」
母の言いたい事は凛花もわかる。好きだから、と言って何も考えずに両方を選ぶわけにはいくまい。それは不誠実だ。
だが、どちらか片方だけを選ぶわけにはいかない状況だったらどうなのだろう。その時両方を選んだら、麗は何と言うのだろうか。
つまり、凛花も進太郎か涼か、どちらかを選ばなくてはいけない日が来るのだろうか……。
と、そこまで考えて気付いた。別に今の所どっちかを選ぶとかそういうつもりは凛花にはないのだ。ていうか選択肢として存在すらしていないのだ。
「お母さんいつも言ってるけど、凛花が好きになったならそれが一番大事だから人目を気にしちゃダメよ。あなたの信じた愛こそが本当の愛だから」
「母さん……」
そう言うと麗は席を立ち、自室へと向かっていった。
何か言うべきかとも思ったが、凛花には母が部屋からいなくなるまで、何も言えないままだった。
「いい事言ったふうな空気にして逃げないでよ……」
麗が去った後、進太郎と涼は互いの良い所アピール合戦を凛花相手に繰り広げ始めた。
互いに褒めあい、そこまで相手の事がわかりあってるならお前らが付き合えばいいじゃないかと思いながら、こんな状況になる種火を残して去った母を呪う。
どう収拾をつければいいのかわからなかったが、凛花はどうにか話をまとめ、これ以上遅くならない内に二人を家に帰した。




