俺は妖精郷へ行きました。
3人は無事転職し、装備もどうにか整えたので狩場を移す事にする。
エスティメスまで戻り、そこから更にアリアナ方面まで戻る。
以前赤いジェリフェルを倒した、もとい倒してもらった付近の分かれ道まで来ると、そこを曲がる。
今回の目的地はここカディアン森林地帯を抜けた先、80から100レベル付近までの主な狩場となる妖精郷だ。
「まあランカークラスでも有用なアイテムがかなりの数ドロップに存在するらしいから、基本その辺は狩れないんだけどな」
そう、妖精郷は超が3つは付くほどの人気狩場である。
攻撃速度を上げるイヤリングの妖精のブーツから始まり、一定時間MPが減らなくなる消費アイテムや装備の能力値をランダムで上げる強化スフィアなど、他にも多数の有用なレアアイテムが落ちる可能性がある。
もっとも、そのどれもがユニークアイテムほどではないにせよ低確率に設定されており、そうそうお目にかかれはしない。
自分が狩りでそれらを手に入れられれば多額のstが入手できるので一獲千金を夢見る事はできる。
まあ、大抵の場合はとっくに経験値がゼロになるほどレベル差で減衰を受けるのも気にしていないようなランカー達が狩場を占拠していて夢すら見る事ができないのだが。
となると必然的にLinker達も狩る事はできない。が、そこは他のプレイヤーもそうしているように別の手を使う。
「あの辺かな」
道中進化カードの話を聞きながら、妖精郷へとたどり着いた。
そして辺りを見回し当たりをつけ、ランカー達が湧いた敵を即座に片付けていく中を進化カードは突っ切っていく。
はぐれないようLinkerとMLGが付いて行くと、その先が目的の場所だ。
「よし、この辺の草だな」
妖精郷の奥側のエリア、そこには根でできた手足を持つ雑草の塊のようなモンスターがいる。
不思議な事に、大人気エリアのモンスターとは思えないほど人が少ない。入り口付近で狩り続けられているジェリフェルが嘘のようだ。
それもそのはず。この場所に出現するモンスター、フェルウィードは不人気なのだ。
経験値がジェリフェルと比べ若干低い。その分湧きは多めなのだが、攻撃がすこぶる痛い。なまじ数が多いせいでかえって死にやすくなっている。
さらに、何も落とさない。何のドロップアイテムも設定されていないらしく、当然ランカーは寄り付かない。
stと星の因子もジェリフェルと比べ1桁少なく設定されており、レベルを上げる以外の目的でここで狩ろうとするプレイヤーはいない。
そんなただレベル上げのためだけにフェルウィードを狩り続ける行為は、MSWプレイヤーの間ではこんな愛称で親しまれている。
「それじゃあ、「草刈り」開始だ!」
それから現実世界で日が落ちるまで、3人は文字通りの「草刈り」に勤しんだ。
効率自体はまあまあ悪くはなかった。攻撃力に反して防御力は低めだったようで次々に撃破する事ができた。
経験値以外の旨味がまったくないため作業感が非常に強く感じられたが、それでもひたすら無心になって狩り続け、レベルは90まで上がった。
そろそろ夕食時でレベルもキリの良い所まで上がったので、本日はここまでという事になった。
まだ桜野家の夕飯には早いが、とりあえず凛花は1階に降りて何か母の手伝いでもしようかとリビングに入る。
「あー凛花、ごめ~ん……」
凛花がリビングに現れたのと同時に、なぜか麗は謝った。
「え、何母さん、どうかしたの?」
麗に謝られる心当たりなど凛花にはない。どっちかというと、凛花が謝った方がよさそうな心当たりはいくつかあるが。
そう訝しんでいると、麗は自分の両手を凛花に見せる。
なぜか包帯でぐるぐる巻きにされていた。
「どうしたの、それ」
「うん、ご飯作ろうとしたんだけどね、間違えて焦がしちゃって」
「手を!?」
「ううん、料理が。手は生焼けよ」
「その表現もどうかと思うけど……」
どうやら、料理中に怪我をしてしまったらしい。油でもかかってしまったのだろうか。
「そういうわけで、今日はご飯作れそうもないのよ。炭ならあるけど」
「炭は食べないけど……珍しいね、母さんがそんなミスするなんて」
昔は酷かったらしい。凛花の父が麗の昔の料理を語る時は決まって悲壮な顔になっていたのを思い出す。
しかし凛花が生まれてからは格段に良くなった。父も家に帰れる時が少ないのを嘆くほどだったし、こんな失敗をするのは珍しい。
「えへへ……茄子を切ってたんだけどね、お父さんと初めて過ごした夜を思い出しちゃって」
「やめて茄子食べられなくなる!」
怪我をした理由にはこれ以上触れないようにした。嫌いな食べ物がまた一つ増えてしまうところだった。
「ともかくご飯食べたいなら出前とか頼むしかないわよね」
「待ってよ母さん、俺だってもう高校生だし料理くらいできるよ? 当たり前のように選択肢から外さないでよ」
「そうね、私も同じような事をお父さんに言った事があるわ」
そう言って、麗は頷いた。凛花はちょっとムッとする。
麗自身に料理下手だったという自覚がある程度にはその子である凛花の腕にも不安があるようだが、いくらなんでもそこまで酷くはならないだろう。
基本的に凛花に優しい麗だが、だからこそ始めっからできないとされるのは心外であるし、ちょっと怒る。
「でも流石に食べられる範疇のものくらい作れるって!」
「そういう子に限って食べられなさそうな食べられるものじゃなくて、食べられそうもない食べられないものを作っちゃうのよね。ちなみに経験則よ」
昔の未熟だった腕前を素直に受け入れられている母は立派だな、とは凛花も思う。
しかしそれとは別に、ここまでコケにされては黙っていられないという思いも湧いてくる。
「そこまで言われたら俺も黙ってられないよ! 見てなよ母さん、びっくりするほど美味い夕飯作ってやるからな!」




