俺達は新イベントで遊びました。
昼。MSWのアップデートに遅れる事無くログインした。進化カードもMLGも既にLinkerを待っていた。
神々のアースガルド開始場所は桜花帝国より北東に進んだ先にある空中浮遊都市、光都ロムディアの付近に存在する、星と繋がる決意の塔よりとの事。
幸いな事にそれは凛花達が現在狩場として利用している場所でもあった。この塔の下層は二次転職可能な80レベルまでの狩場として利用されている場所だ。
そこの最上階に行くとイベントが始まり、日曜日の昼から12時間限定で解放されるイベントマップ、アースガルドへのワープポイントが出現する。
ストーリーの内容もだいたい以前聞いた通りだ。異界より現れた悪神バアルに砕かれたこの星の神のようにならないよう他の神々は一つの世界に集い、そこに悪神から身を守るための砦を作った。で、そこに侵攻を始めた悪神の配下より身を守るために星の子らの力を借りたい、と神に申し出を頼まれる。
日曜12時からというマップ解放条件は満たしているのでLinker達は早速アースガルドへワープした。
「おっ、よく会うね」
ワープ早々やあとフレンドリーに声をかけてきたのは、月末も共に戦争イベントへ参加していたベル・ウッドマンだった。
「あ、ベルさんこの間はどうも。いやあ確かによく会いますね」
とは言ってもベルもゲーム内ランキングに載る程MSWをやり込んでいる、いわゆる廃人だ。定期開催のイベントはもちろん新規のイベントが開かれるとなれば、いの一番に参加しているのは当然だろう。
「やっぱり新しいイベントってワクワクするよねぇ。まあレベル上げ用のイベントだからボクらぐらいのレベルだとあんまり実感できないかもだけどね」
ベルの言う通り、こういったレベルを上げるためのマップは最近ゲームを始めたプレイヤーのためのものであって高レベル帯ではそこまで多くの経験値が得られないというのはよくある事である。
「まあ新追加のユニークがどんなか気になるし通いはするんですけどね」
「出るかはともかく、出るかもって思いながらやるのはネトゲの醍醐味ですもんねー」
戦争イベントを共に戦った彼らは、そういって笑いあう。
楽しそうなのはいい事なのだが、Linker達を仲間外れにしないでほしい。
「あの、それでどうしてあなたたちも一緒なんです?」
ベルと共に笑いあう4人。それはLinkerとも因縁深い、あの4人だった。
それぞれ白赤黒青の死神の装束に身を包んだ髑髏の仮面の彼ら。
週末の4騎士。
「……あー、この前ベルさんと一緒に戦ってた人たち? そんな怖がらないでよ、あれ戦争イベントの時用のキャラだから」
「ログインできるのがみんな週末だけなもんで。たまに戦争参加できる時はあんな感じのロールしてるんだよね」
「そーゆーとき以外は、まあこんなノリなんで、気軽に絡んでくださいな」
「えぇ……?」
思っていたのとだいぶ違う彼らのキャラにLinkerは困惑する。
それは当然現実でも初めて会った時のような振る舞いだとそれはおかしいのだが、こうも急激に変わられるのはやはり慣れないようだ。
「ていうかベルさん、交友関係すごい広いんですね」
「うん。オンラインゲームを楽しむためには、やっぱりね」
人生を捧げている者同士、関りが深いのだろうか。
それにしてもランク1位や少数精鋭のギルドのメンバーとも仲が良いのは、やはりベルの人徳なんだろうなとLinkerは思う。
「今日はもうモロダシおじさんとの先約があるから君たちを手伝ったりはできないんだけど、ごめんね」
「や、俺もあんまり強い人に頼りすぎるのもよくないかなって思ってて」
「そうだよね、やっぱり自分の力で楽しんでこそ、だよね」
ベルは嬉しそうに頷いて、Linker達の前から去っていく。
そして、それに続くように週末の4騎士の面々もまた防衛戦開始用のNPCの元へ向かい始める。
「それじゃ、我々もそろそろ行きますか」
「今日は丸一日籠るつもりで頑張りますよ!」
「そっちの人達も頑張ってねー」
口々にそう言われる。それらを見送ってから、負けてはいられないと進化カードとMLGと一緒に防衛戦を連れて彼らの後に続く。
「俺たちも行くぞシン、先輩!」
「一気にレベルを上げるチャンスだからなあ。張り切っていこうじゃないか」
「たくさん敵が出てくるんだったよね。楽しみだなあ」
意気揚々とアースガルド防衛線を開始したLinkerら3名は、思い違いをしていた事を知る。
敵の強さは問題ない。インスタンスダンジョン制なのでパーティを組んだ3人のレベルの平均になる。
出現量も経験値も申し分ない。若干他の適正レベル狩場よりも多い程度の経験値だが、湧く量はすさまじく敵自体もかなり柔らかめであり倒しやすい。
ここまで聞けば何も問題はないように思える。しかしもっと重要な場所を3人は見落としていたのだ。ともすれば自分達よりも先に開始していたランカーの彼らも。
「回数制限あるとか聞いてないんですけど!!」
そう、アースガルド防衛戦は一日の参加可能回数に制限が設けられていたのだ。一人につき3回まで。
確かに敵の数がとてつもなかった。Linker達も制限いっぱいまで参加したおかげであっという間に85レベルだ。
一回につき遅くても15分程度とそこそこのペースで挑めるのも悪くない。
悪くはなかったのだが特にその辺りが公式に記載されていなかったせいでそんな制限などありはしないと思っていたランカーの彼らはだいぶがっくりした様子だった。
「レベル上げには……うん、まあ悪くはないかもね。他所より2割増しくらいで多く貰えるし」
「まあ元の数値が時給1パーセントいくかいかないかで正直誤差なんですがな。はっはっはっは」
「ネトゲの運営ってよくこうゆうことありますからねー」
「初日からバグなく遊べたってだけで良しとしときますかね」
4騎士とベル、それに加えてモロダシおじさんも参加したランカー軍団の会話は、だいぶ慣れたようであった。
今日の終わりまで張り付くつもりだった彼らには落胆の色も見えるが、どちらかといえば想定の範囲内という考えの方が大きいようにも見えた。
長年MSWと付き合っているだけあって多少の説明不足や突然の仕様変更では彼らも動揺しないのだろう。
無言でユーザーに有利な仕様を変更したり、年単位でユーザーに不利となるバグを放置するゲームも珍しくはない事を考えると、確かにこれぐらいは序の口なのかもしれない。
まあ、Linkerはそこまで納得できていないが。
「参加可能時間だけじゃなくて回数制限もあるとか俺聞いてないんだけどー!」
「そう言うなってリン。1回で2レベルも上がるんだから、制限ないとまずいだろ」
「敵も休む暇なく湧くからね。休憩なしだと流石に疲れるしこのぐらいがちょうどいいんじゃないかな」
「確かにそうだとは思うんですけどもね……」
進化カードもMLGも、その意見には一理ある。
が、Linkerはできれば先に説明しておいてほしかった。なんというか、騙された気分になる。レベル上げの場としては非常に効率が良いのは嘘ではないのだが……。
というかこのマップ限定で落ちるユニークアイテムとやらがあったはずなのだが、そちらの入手は相当厳しくなるのでは。
これはきっと某所の掲示板なんかは大いに荒れているんじゃないかな、とLinkerは思うのだった。




