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俺はVRMMOで男と結婚する事になりました。  作者: カイロ


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俺は夏条を家まで送って行きました。

 夜が明けた。

 あの後拘束された涼は、もう夜遅くで今更出歩くのも危ない、という事で凛花の家で泊まる事になった。

 寝ている間に何をされるかわかったものではないので、涼は凛花とではなく別室の麗と同じ部屋で寝た。

 文面だけなら男子高校生と自分の母が一緒に寝ているというとてつもなく酷いものになってしまうが、まあ自分が一緒に寝てるよりは安全だろうと凛花は思う。

 麗も、「まだ夏条の事が好きとかそういうのじゃない」と凛花が説明すると二つ返事でOKした。

 まるで今後凛花が夏条涼に惚れる事があるかのような言いようだが、「好きじゃない」と言い切ってしまうと凛花にでさえ母が何をするかわからないので、そう言うしかない。

 ともかく、凛花は特に何を失うでもなく朝を迎えたのだ。


「まさか、本当にあのまま何もされないとは思いませんでした」


 涼は今凛花と麗と共に朝ごはんを食べている。味に文句があるわけではなさそうだが、不満そうではある。


「母さんのとこに預けたんだから、俺に何かする気ないってわかるでしょ……」

「いいえ、あれは凛花さんが乱入してきて3人で、というパターンでした!」

「でした! じゃないよ何言い切ってんの!? 前から思ってたけどどこでそういうヘンな知識仕入れてきてんだよお前!」

「お母さん、夫がいるからそういうのは……」

「わかってるから! 俺が本当にそういうつもりだったんだーみたいな目で見るのやめて!!」


 朝から酷い話だなあ、と凛花は思う。

 食事中にする話でないとは思うが、まあ昨夜涼を母に預けてから初の対面なので自然とそういう方向に話が行ってしまうのは仕方ないかもしれない。


「いくら凛花のお友達でも、やっぱり他所の子とそういうのはよくないものね」

「……え、何そのうちの子とだったらいいみたいな言い方」

「そうね、お父さんがいいって言ったら、凛花となら」

「そ、その辺にしてよ流石に気持ち悪くない!?」


 きっつい冗談だ。まあ、本当に冗談なのか本気で言っているのかは相変わらずわかりにくいので凛花はとりあえず冗談だろうと思う事にした。

 麗は笑ってごまかしたが、これ以上シモの会話がエスカレートしようものならご飯を食べ残しそうになりかねないので凛花は速攻でかき込んでいく。


「ああこら凛花、そんなに急いで食べなくっていいじゃない。今日は日曜日よ?」

「そうです。早食いは体によくないんですよなんでそんなに慌てているんです?」


 原因はお前らだよお前ら、と叫びたかったが、凛花は我慢する。我慢して自分の皿に盛られたおかずを平らげていく。

 いつもおいしく食べていた母の料理は、この時だけは凛花には味がわからなかった。



 午前10時、夏条涼を家の近くまで送っていった。

 性別が女から男に変わり、それから数日で朝帰り。何の連絡もしていなければ涼の父親の胃にいくつ穴が開く事になるのやらと凛花は心配するばかりだ。

 学校から帰り涼を送っていく時と同じ場所で別れ、凛花が去ろうとするが今日は今までと違い涼に手を掴まれて止められた。


「……お別れのキスとかしてくれませんか?」

「してくれませんが……?」


 振りほどき、逃げた。

 凛花自身でさえもびっくりするほどの速度での全力ダッシュだった。

 涼も追いかけようとしたが、やはり基本的には女の子らしく、難なく振り切れた。

 完全に姿が見えなくなった辺りで凛花は止まり、ぜえぜえ息を切らせて休む。


「……別に、キスくらいならしてもよかったのかな」


 ふとそんな事を呟く。

 夏条涼も、現状は男子であるが少なくとも上半身は未だ女子なのだ。

 なら、女子にキスをするのと変わらないわけだし、それならむしろした方が良かったのでは、とさえ思う。なにせ凛花は女性経験ゼロだから。

 いやしかし現在男なら元々が女であっても男同士でキスした事になるのでは、いやいや元女であるなら異性とのキスとして扱うべきなのではと考え始め、一向に結論は出ない。


「ほう、誰とキスをしようと?」


 そんな凛花の独り言を聞かれてしまったのか、聞き覚えのある声が問いかけてくる。

 そのドスの聞いた声の方へ向くと、そこにはあの涼の姉、夏条京がいた。


「き、京さん」

「あの後涼はどうしたかと久々に家に戻ってみれば昨夜から戻っていないと言うではないか。……貴様、涼に何をしていた?」


 すさまじい形相で凛花は睨みつけられる。狼に襲われる羊ってこんな気分なのかなあと、怯えながらも凛花は正直に言う。


「な、何もしてないです……い、今、ちょうど家に送ってったところで」

「本当に、だな?」

「はい、誓って何もしてません……」


 ああでも手錠で拘束したりしたのは何かに入るかなと、言ってから凛花は思い出す。しかし一度出した言葉は引っ込められない。この京という人物に限っては前言撤回しようものなら即斬り捨てられるかもしれない。刃物は持っていないがそんな気迫を感じる。

 それでも言っておくべきか、と思っていうちに京は凛花から顔を離した。


「ならば、信じよう。が、もし涼に傷を付けていたら、分かるな」


 無言で凛花は何度も頷く。それを見届けると京は凛花の横を通り、涼の家の方へ向かっていく。

 このまま、自分も逃げるように去っていく方がよかったかもしれない。しかし凛花は自然と京の方に振り返り、声をかけていた。


「あ、あの!」

「……何だ」

「お仕事、お疲れ様です!」


 気付けば凛花はそんな事を言っていた。

 京は仕事に向かう途中で涼に会ったと言っていたのを思い出したのだ。

 こんな時間に出会うという事は、きっと今までずっと仕事だったに違いない。そう思い、凛花は頭を下げて口からそんな言葉が出た。


「どこで知った?」

「あっと、夏条……さんがそんな事を言ってまして」


 すると、また京はあの殺意が籠ったような視線を向けて、と思いきや、先ほどよりも柔らかな目で凛花の方を見ていた。


「まあ、そんな立派な仕事でもないがな。……どこまで知っているのかはしらんが、職場には来ないように。応援だけは受け取るが」


 それだけ言うと、京は今度こそ去っていく。

 職場に来てほしくないようだったが、人に言いづらい仕事なのだろうか。

 まあ知り合いが仕事場に来るとやりにくいというのは普通の事か。何の仕事かはわからないが、最後の表情から察するに仕事の話をされると嬉しいのかもしれない。

 涼の言っていたように、ただ怖いだけの人でないのかなと思い、凛花の足取りは少し軽くなるのだった。

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