俺は夏条のお姉さんに会いました。
予想以上に時間をかけてしまい、凛花が家に戻った頃には進太郎と月光門は既にリビングでゲームをして遊んでいた。夏条はまだ着いていないようだ。
今回は対戦ゲームではなく協力して戦うタイプのゲームのようだ。進太郎も負けるのは悔しいので勝ち負けの要素の少ないものを選んだのだろう。
「どうも、お邪魔してるよ」
「おーリン、その袋はもしかしてまたシュガーフェストか?」
「うん、まあ……」
凛花に気付き、手に持っていた袋に進太郎は目を向けて聞く。ドーナツとパスタを包む袋にはシュガーフェストの名が刻まれている。
大きなお友達向けのコスプレで宣伝を行うという思いの外やばい方向性の店であると知ってしまったので、凛花としては肯定し辛くなってしまったが。
「シンも食べるか?」
「ああ、どんなドーナツ買ってきたんだ?」
「ナポリタンだ」
「ほーナポ、えっ何だって」
ゲームの方は一旦中断して、麗と一緒に買ってきたものを食べる事にした。
夏条を待つかとも考えたが、やはりこういうのは出来たてが一番だ。
「おいしいな。凛花くんはどこの洋食店で買ってきたんだい? これ」
「はい、ドーナツ屋で買いました」
「なるほどな、通りで……? ドーナツ?」
ナポリタンは好評だった。麗も凛花も昼食を少し食べてからだったが、一人前でもかなりの量があるそれを残さず平らげられたほどだ。
食べ終えてもどうしてドーナツ屋にパスタやベーコンピーマン玉ねぎが存在していたのかは不明なままだったが、それも気にならなくなる程度には美味しかった。
「愛情を感じる味ね。冷凍食品とかじゃなくて、ちゃんと手作りしたのが伝わってくるわ」
麗の言葉に、進太郎も頷いている。
凛花もゲテモノドーナツショップはやめて洋食店に切り替えてもやっていけそうだとは思う。
が、そうしたらそれはそれで「普通過ぎて面白くないから」と言って良く言えば奇抜な料理が並ぶ店になる気がした。そして今度は真っ当においしいドーナツがラインナップに並びそうだ。
そんな事を凛花が考えていると、チャイムが鳴った。
「ほら凛花、きっと彼氏さんよ」
「いや母さん、そういうのじゃないって言ったでしょ」
「彼氏!? リン、男は無理だと言っておきながら……!?」
「違うって今言っただろ聞けよ!」
切りがなくなる予感がしたので進太郎への説明は後回しにして玄関へ向かう。
2度目のチャイムが鳴らされたのに少し遅れてドアを開く。
「はいはーい、悪いな夏条、ちょっと話してて」
完全にドアの向こうにいるのが夏条涼であると思い込んでいた凛花は困惑する。
夏条の顔があるはずの場所には腹があった。
どういう事かすぐにはわからず、徐々に凛花は視線を上に上げていく。すぐ上に胸があり、それから顔。
後ろ手に髪を束ねられており、それに加え睨むような目つきの女性は、侍という印象を抱かせた。
女性であるのはわかるが、とりあえず夏条ではない。
「お前が、夏条の想い人か」
「え、えと……」
ドスの聞いた声に凛花はびびり上がる。怒っているのか素なのかわからない恐ろしい目つきで睨まれ、視線を逸らした。
理由もなく、もしかして殺されるのでは、とさえ凛花は思った。
が、そうはならない。女性は背後から手を引っ張られ、そちらへと振り返った。
「お姉さま、そこまでにしてください」
「……わかった、まあいいだろう」
視線から解放され、聞き覚えのある声がした事により凛花は安堵した。
お姉さまと呼ばれた女性と入れ替わるように、見覚えのある女性、男性が姿を見せる。
「すみません凛花さん、姉が驚かせてしまったようで」
「あっ……ああお姉さんなんだ」
夏条涼の姉、夏条京は近くで用事があったらしく、そのついでに凛花の家まで涼をここまで案内してきたらしい。
用が済んだという事なのか京は一言だけ残して去っていく。
「一応、涼は私の家族だ。傷付けるような真似をすれば容赦はせんので、そのつもりでいるように」
「はい」
年上の威圧感なのか、まるで歴戦の戦士を思わせる重圧に凛花は素直に返事をするしかできなかった。




