俺は家に帰りました。
「……」
学校が終わり、凛花は家へ向かって歩いている。
いつも通りに進太郎と、そして今日は夏条も一緒だった。
ちなみに、夏条は凛花の腕に抱きついてきている。
「……あの」
「なんでしょうか? 凛花さん」
苦虫を噛み潰したような表情で耐えてきたが、流石にそれも長くは続かなかった。耐えかね、夏条に声をかける。
乙女の顔で何の用かわからぬように凛花を見つめる夏条に、すぐに視線を逸らす。
「えっと、離して、ほしいんだけど」
「駄目です。凛花さんが私の事好きになるまで離しません」
「……」
見た目だけなら、そして本来ならば男2人に女1人、しかし現在は男3人の帰り道。
女の子から男の子になってしまった夏条だが、概ね女子であるとも言えるし凛花としては今も女性として見ている部分が大きい。
精神的にも男になったわけでないのならば、という思いも若干ないではないが、概ねではない部分が凛花の心を乱している。
それに、言い出したのは進太郎だがまるで親友の彼女を奪い取ったようで気分が悪い。
「ていうかさ、夏条はシンが好きなんでしょ? なのに、俺とこんな……」
「私は進太郎さんの対象外になってしまったようなので。ですからお昼に話した通り、代わりに凛花さんには私と進太郎さんの間に入っていただきます。言葉通りに」
「俺も男は対象外なんですけど……」
まあ、結婚する予定ではあったけど。ゲームの中で。ふと心の中で付け足した台詞に、凛花は思い出した。
夏条をMSWに誘う話を以前していたはずだ。
「そう言うなってリン。両手に……花……? は……な……? ……なんか花みたいな何かって言うじゃないか」
「花かどうかも定かじゃねえじゃねぇか」
進太郎の方はすっかり忘れているようである。仕方がないので凛花から切り出す。
「ところで、夏条ってゲームとかはやる?」
「いえ、やりません」
「そっか。実は俺とシンでミリオンスターワールドってパソコンのゲームしてるんだけど、夏条も一緒にやらない?」
自分だけでなく進太郎も遊んでいる、と教えれば二つ返事でOKされるだろう、と考えていたが、夏条は首を横に振った。
「すみません。父がそういうのにあまり寛容ではないので」
「あ、そうなんだ」
「以外だな、夏条は俺の事なら何でもやるイメージだったんだが。そんなに親父さんは怖いのか?」
断られるとは意外だった。凛花も進太郎の言ったような印象を夏条に覚えていたから。
というか性転換は許すのにゲームで遊ぶのは許せない、というのはかなりひねくれた性格をしている気がする。
「いえ、どちらかと言えば優しく、普段なら真摯にお願いすれば許しては下さるのですが……今は私のわがままのせいで寝込んでしまっていまして」
言いながら、夏条は自分の穿いているズボンを軽くつまむ。その横顔には申し訳なさが滲んでいるように凛花には見えた。
どうやら半ば、もといほぼ夏条の独断で性転換を行ったらしい。結果父親は酷くショックを受けてしまい、更なるわがままを重ね辛い状況という事だ。
「ですから父が自分の足で歩けるようになるまでお待ちいただければ、お二人とゲームで遊ぶ事もできるかと思います」
「……あんまり、お父さんに無理させないであげてね? 俺達もそんなどうしてもってわけじゃないから……」
想像以上に複雑な事になっていそうな夏条家の家庭事情を想像しながら、凛花達は家に帰った。




