俺はとうとう結婚できるレベルになってしまいました。
何事もなく蜥蜴陽路を超えたLinker達3人は、桜が舞い散る国へと到着した。
その名も桜花帝国。着物を纏ったNPCが溢れる、和風な国だ。
「ネトゲってよく何の説明もなしに世界観変わったエリア出てくるよな」
「俺はその何でもアリって感じ、好きだけどなあ」
「改めて見ると、凄いなあ。最近のゲームは現実のそれと比べても遜色がないじゃないか」
次なるメインストーリー発生場所である桜花帝国へやってきた3人は、それぞれの感想を述べながら桜を何本も植えられた道を歩いている。
一度、そのまま次のレベル上げの目的地である狩場まで行ったのだが敵の攻撃があまりにも痛く、そしてこちらの攻撃があまりにも弱くなっていたので引き返してきた。
思えば3人はほぼ初期装備なのだ。進化カードは唯一レザー系に身を包んではいるがそれも残り二名に毛が生えた程度。全員裸同然だ。
幸いな事にこれまでの狩りで所持金を10数万st程度は稼げている。NPCのショップで売っている程度の物ならば手が届くだろう。
まあ所詮店で売られている装備は大して強いものではないのだが、裸よりはマシだとLinkerは考える。
「いたいた。先輩、シン、あいつです」
最初に訪れた際に見かけた頭の上に剣と盾が交差するアイコンの浮かぶ、わかりやすい武器防具屋を発見したLinkerは指で示す。
「よし、それじゃあ適当に装備を揃えるか」
途中何度か敵を倒したおかげでLinker達のレベルは18。あと2レベルでLinkerは結婚する。
が、忘れる。今後待ち受けるものは一旦忘れ、適当に武器と防具を新調した。武器をダガーから片手剣に変え、あとは防具を防御力の高いものにする。
進化カードも同じように防具を換える。武器は片手のハンマーにしたようだ。
「ふふふ、お金の許す限りたくさんナイフを買ったよ。これでどんな敵でも一撃だね」
「あの、先輩。武器や防具は装備しないと効果がないんですよ」
「なっ……なんだって!?」
MLGの奇行にLinkerは思わずRPG序盤の町のNPCのような台詞を言ってしまった。
衝撃の事実を告げられたような表情のMLGを見るに、もしかして先輩ってゲーム初心者なのでは? とLinkerは思う。
やや強引にMSW推したりしたとはいえすんなりとプレイしてくれたし、格闘ゲームであれだけ親友を痛めつけられたのだからそれなりに遊んでいるのかとLinkerは思っていたが、違ったのだろうか。
ともかくMLGに指示し、一本は残してナイフを売り払って防具を買い替えさせた。買値が売値よりもかなり低いせいで体部分のみとなってしまったが、まあいいだろう。
Linker達は改めて狩場へ向かう。
桜花帝国を抜けた先にあるのは血風の河原。ここでLinker達は死霊鎧武者を倒してレベル上げを始めた。
戦国時代を思わせる甲冑を纏う2メートル近い身長のそれを相手にするのに初見でこそLinkerは圧倒されたが、それ以降はさほどでもない。
しかしクリティカル確率が高いのか頻繁に大ダメージが発生し、装備を強化した今でもやはりその攻撃はこれまでのモンスターと比較すれば非常に高いものだった。
そしてこのエリアの推奨レベルは本来20。Linker達は若干それより低いので、より多くダメージを受けているのだろう。
できるだけ3対1の状態を作るようにして戦ってはいるが、それでも一瞬の油断が命取りになりかねない。
だが、その分見返りも大きい。1体撃破するたびに蜥蜴陽路付近のモンスターとは比べ物にならないほどの経験値とstが手に入る。
気が付けば30分ほどで3人のレベルは20に到達した。
「遂に、だな。リン」
「あ、うん、そうだな……」
そう、そして進化カードと結婚する日がやってきてしまったのだ。
嬉しそうな進化カードに、Linkerは男らしく続ける。
「でも、あれだな。今ようやく狩りのエンジンがかかってきたとこだしさ、このまま30まで上げちゃわないか?」
男らしく、先延ばしにした。だが、そんなまったく男らしくないLinkerを進化カードは優しく肯定した。
「おう、リンがそうしたいってなら構わないぞ。別に結婚は逃げたりしないしな……いや、結婚相手には逃げられる場合もあるか、ははは」
「うむ、私もリンくんに賛成だ。こう、人の形をしたものに、ナイフを突き刺す、というのがね、楽しくて楽しくて楽しくて、今は止まりたくないんだ。このままだと過呼吸になってしまいそうなくらいさ」
「ありがとなシン……あと月光門先輩は深呼吸して落ち着いてください」
そんなわけで、Linkerと進化カードの結婚式は延期された。
着々とMLGの中に危険な人格が形成されているのが気にならないでもなかったが、Linkerはとりあえずレベル上げに集中する事にした。
夜になった。食事や休憩などを挟みつつ狩りを続けた3人は、目標通りにレベルを30まで上げて桜花帝国へと戻ってきていた。
当初の目標も達成し、つまりそれはLinkerの引き延ばし作戦の終了をも意味している。が。
「よおし、そんじゃあリン……」
「えと、あの、俺さ、ちょっと眠くなってきて……あとそろそろお風呂も入りたいなって……。結婚はさ、ほら明日にしないか?」
「リン……」
やはりというか、Linkerは再び逃げた。それ自体がよくない事だとは当の本人も自覚はしているが、やはり抵抗が拭えていないのだ。
怒られるよな、とLinkerは覚悟もしていたが、進化カードはそうはしなかった。
「前にも言ったかもしれんが、俺はリンが嫌なら無理強いはしない。リンがまだしたくないってなら、俺もリンが首を縦に振るまで待つぞ」
Linkerの方からゲームの中でなら結婚する、と約束したのに、それを反故にされても進化カードは怒らなかった。
「……ごめんシン。明日、明日だ。明日こそ絶対覚悟決めてくるから!」
「無理しなくても、俺はいつまでだって」
「いいや決めた! 今度こそ絶対の絶対に絶対だ。明日帰ってきたら即やるぞ」
Linkerは決意した。逃げて、先へ先へと遅らせていたが、もうやめると。明日進化カードと結婚する。
散々親友の期待を裏切ってしまった。ゲームの中でとはいえ、同性の親友と結婚なんてしていいのかという思いもかなぐり捨てる。始まりは若干強引だったかもしれないが、約束をしたのはLinker自身なのだ。
Linkerの目を見て進化カードも親友の考えを理解したのか、わかった、と返答する。
MLGは、それをただずっと黙って見守っていた。
「じゃあ、今日はここまでって事で。先輩も明日は見に来てください。俺、結婚しますから」
が、反応がない。2人の問題だからと黙っていたのかと思ったが、話が終わってもMLGは微動だにしないままだ。
寝落ちでもしてしまったのか、とLinkerが思った直後、息を切らしながらMLGが動き出す。
「すっ、すまないリンくんシンくん。気にしないでくれたまえ。別に結婚式を挙げると聞いたから当日に丁度届くようサプライズでケーキを送ったりとかはしていないしそれを時間ギリギリでキャンセルして明日に届けるようお願いしていたとかそういうのとは一切関係ない私用で席を外していただけだから」
「……すみません」
「なっなぜ謝るのか私にはさっぱりだよ、私は本当に個人的な用件で無言で離席していたのだから、謝るべきは私の方で……ところでリンくん明日の結婚式は何時頃やるのか聞いてもいいかなどうしてという話でもないんだが」
ともかく、明日は絶対に退くことができない。
元々これ以上後ずさる気のなかったLinkerだが、その決意をより強固にしたのだった。




