俺はランキング1位の男と出会いました。
一夜明けて日曜日。MSWにログインした3人は揃ってメインストーリーを進める事にした。ストーリー発生場所のエスティメス王城へ向かう。
とは言ってもレベル15程度の段階では世界観の説明の要素が強く、盛り上がるような要素もないストーリーであり、特筆するほどではなかった。
そして次のストーリーはレベル30で開始らしい。前回行った蜥蜴陽路の先にある都市にてクエストが発生すると進化カードは語っていた。
エスティメスの中央広場に戻ってきた3人は、今日の目標を確認する。
「さて、それじゃあ歩きながら狩りしていくか。早いところ30まで上げちゃおうぜ」
このまま広場のクリスタルを利用しようかとも思ったが、今日は日曜で時間もあるし、地形の把握がてら歩いて向かう事にした。
進化カードもMLGも特に異論はないようで黙って頷く。が、進化カードは口を開いた。
「ああ。だがリン、20まで上がったら……忘れてないよな」
「……うん、そう、だったな」
そうだった、Linkerは忘れかけていたが進化カードとは結婚する予定だったのだ。ゲームの中で。
現在のMSWにおいて結婚するための条件は、互いのレベルが20以上である事。それだけだ。
かなり緩めの条件ながら結婚した両者が同パーティ内にいる間、かなり大きなステータス増加効果が付与される。
ゲームを効率的に進めるため、という名目で進化カードとの結婚をOKしたLinkerだが、少し時間が経った今考えると気が重い。ゲームとはいえ、男同士で結婚だなんていいのだろうか。
いやいや、ここは悩んではいけないところだ。なにせ既にLinkerは許可したのだ。結婚相手は男だが、Linkerだって男なのだ。二言などあっていいはずがない。
「よっしゃシン! このレベル上げが終わったら俺達結婚するぞ!」
「おお、よく言ってくれたリン! 死亡フラグの臭いがプンプンだが、俺は嬉しいぞ!」
半ばやけくそ気味にLinkerは拳を振り上げて叫んだ。友人を傷つけるような嘘をつきたくないし、有言実行してやろうじゃないか。
そう意志を固めているとMLGがまとめに入る。
「うん、君らが仲睦まじいのはいい事だとして、目的地は決まったのだし、早く行こうでは……」
「はっはっはっはっはっはっはっ」
そしてまさにその時。3人の目の前をおじさんが走って行った。
そう、それは正真正銘おじさんだった。体に若干のぜい肉が付いた、30代後半の、人のよさそうな笑顔の。
極めつけに、おじさんは全裸であった。股間には謎のモザイクが発生しており、見えてはいけないものは誰の目にも映らなかったが。
生まれたままの姿の笑顔のおじさんが走って目の前を通り過ぎるという理解のできない状況に、LinkerとMLGは凍り付いた。
「は? ……は?」
「なっ、いいいい今のは一体」
「あー、あれはモロダシおじさんだな」
だが、進化カードだけは何かを知っているのか納得がいったように頷く。
「シン、何か知ってるんだな!」
「ああ。あれはモロダシおじさん。このゲームのランカーだ」
進化カードの説明は終わった。2人は、さらに混乱した。
「あ、あのシンくん。もう少し詳細を」
「わかりました。……モロダシおじさんはモロダシと名前に入れておきながらモザイクのせいでモロではないじゃないか、という批判に晒されながらも最前線で頑張るプレイヤーの一人です」
「そ、そうなのか。ずいぶんとモロ……おじさんに詳しいのだね」
「ええ。そして彼は『全裸』の別称でも呼ばれています」
「蔑称じゃねえかなそれ」
詳細な説明を聞き、2人はなんとなく理解した。
要するに、そういうアバターのプレイヤーという事だ。それなりのリアリティを持つMSWの中で出会ってしまったので度肝を抜かれたが、正体が分かれば大した事はない。
「ほら、あそこのランキング掲示板にも載ってるぞ」
進化カードの示す方向の掲示板、視線を向けると、詳細な項目が表示された。
そこの、個人ランキングの1位の名前がモロダシおじさんであった。
「アレがランキング1位なのか……」
Linkerは落ち込んだ。まさか彼がトップとは。どちらかというと以前出会ったベル・ウッドマンがそれらしい風格を漂わせていた気がするのだが。
そう思ってユニークアイテムを譲ってくれた彼の名前を探すと、あった。現在23位だった。広い目で見れば上位なのだが、想像より低くてLinkerはちょっと落ち込んだ。
「そう落ち込むなってリン。ランカーって普通はもっと殺伐してるもんだし、あれだってユーモラスな感じでゲームを盛り上げようとしてくれてるんだってきっと」
「そ、そうかもな」
実際に面白いかどうかはともかくとして、モロダシおじさんもモロダシおじさんなりにMSWをたくさんの人が楽しめるよう努力しているのだ。多分。
まあそれはともかく全裸のおじさんの事は置いといて、Linker達は蜥蜴陽路に向かう事にした。




