俺はお昼ご飯を屋上で食べる事にしました。
お昼。凛花と進太郎は購買部へ行く事にした。今朝は凛花の母が弁当を作り忘れてしまったので、代わりの千円札を握ってだ。
それなりに盛況であった購買だが、凛花の姿が他の生徒の目に入るや否や人ごみが裂け、道ができた。こういう光景を見せられると噂の浸透具合が伺える。凛花はこの程度では動じないが。
進太郎は弁当があったものの凛花へ付き添った。適当に3つほどパンを見繕って戻ってくる凛花と並んで教室へ戻る。
「シンは今日なんのお弁当なんだ?」
「聞いて驚くなよ、なんと今日はドライカレーだ」
「カレー……うん、まあその話はいいや」
数時間前の話が蘇りかけたが凛花は蓋をする。もっと別の話題をしたい。
「シン、折角だから今日はもっと別の場所で食べないか?」
咄嗟に凛花はそう思いついた。弁当ではないのだから、食べる所も教室ではないどこかに変えたい。そう思ったのだ。
「構わんけども、例えば?」
「うーん、屋上?」
屋上かあ、と進太郎は唸る。芳しくない反応だが、否定はされない。
「空いてるかはわからんぞ?」
本日は晴れ。青空を見上げながらパンをかじるのも悪くないのではと思った凛花だが、言われてみればその通り。
学生が屋上で食事をとるなんてよく見る光景ではあるが、危険だから屋上は基本開放されていないなんてのはもっとよく見る光景なのだ。
ダメで元々、そんなふうに考え始めた凛花は、良い方向に裏切られる。
「お、空いてるじゃないか」
屋上へつながるドアへ進太郎が手をかけると、何の抵抗もなくドアノブが回り、屋上への道が開かれた。
「運がいいのかもな、俺達。先行っててくれリン。俺飲み物買ってくるから」
開いたのを確認すると、そう言って進太郎は階段を駆け下りていく。
戻ってくるのをぼーっと立って待っているのも何なので、凛花は屋上を見て回っている事にした。
「おっ」
「……君か」
凛花の視界に飛び込んできたのは屋上全体を囲うフェンスと、その一角に背中を預けている長い黒髪と怜悧な顔立ちの3年生。
疲れをうかがわせる顔色の女性は、先刻生徒会室で顔を合わせた月光門だった。
「凛花くんだったね? 何故にこんな場所に来たんだね。ここは立ち入り禁止のはずだが」
「それだったらそれは俺のセリフですよ。なんで月光門先輩は立ち入り禁止の場所にいるんです?」
「うむ……、親衛隊の彼女らに「一人になりたいな」とさりげなく零したらね、彼女ら先生方に無理を言って屋上を開放させてね……。私は昼休みが終わったら職員室に顔を出すよう言われていて、ははは」
暗い笑い声を上げる月光門の横に座ると、その横顔を心配そうに覗き込む。
顔は笑っているように見えるが、心は笑っていなさそうだ。
「……あの、あんまり月光門先輩の事詳しく知りませんけど、やめさせた方がいいのでは? 迷惑しているってはっきり言うべきでは」
「そうかもしれないね。……しかし彼女らには悪意はないんだ、あくまでも善意で私を守ろうと奮闘してくれているんだ。そんな彼女らの行いを否定してしまうのは、彼女らを傷つけてしまう事になるのではないかと思うと、怖くてね」
やめさせようとは考えていない、と言う月光門に凛花は思わず身を乗り出して言う。
「……でも、ずっとそのままだったら先輩、絶対ストレスで体壊しますよ」
「そう、だね。……なら、何かストレス発散できそうな趣味でも見付けるとしようかな」
空を見上げて月光門はため息をこぼす。いずれにせよ、親衛隊の行いをやめさせるつもりはないのだろう。
だが、凛花は不安になる。ストレス発散をしようにもあれだけ普段から月光門の身の回りを観察していなくてはわかりそうもない情報をいくつも所持している事から、発散場所にまで付いてきそうなのだ。
ストレスを解消するどころか、さらなるストレスを蓄積しかねない。
家の外に出ては無理だろう。かと言って家の中でとなるとできる事は限られてくる。
と、そこまで考えて凛花はハッとする。ちょうどいいものを知っているのだ。
ある程度の爽快感もあるし、アレならまさにピッタリだ。思わず凛花はニヤリと笑った。
「それなら、ちょうどいいのを知ってますよ」
「ほう、本当かい?」
「はい! 先輩の家って、パソコンってありますか? それとヘッドセットも」




