俺は先輩とも遊ぶ事にしました。
学校が終わり、家に帰ってすぐに凛花はMSWにログインした。
進太郎に事前に連絡し、今日はアリアナまで戻る事になっている。
エスティメス王国の一角にLinkerが降り立つと、それへ続くかのように進化カードがログインするのが見えた。
それを確認するとLinkerは急いでアリアナまで行こうとするが、進化カードに引き止められる。
「おおっと、行きの心配はしなくていいぞリン」
そう言って王国中央広場まで凛花を連れて行き、そこの巨大なクリスタルの前までやってきた。
これに触れると今まで言った事のある町などへ一瞬で転送してもらえる物だと進化カードは説明する。
アリアナまで出向く理由を伝えたらあらかじめ楽な移動ルートを調べてくれていたらしい。これなら待たせる事にはならなくて済みそうだとLinkerは頷く。
「よし、それじゃあ行こうか」
「「ようこそ月光門先輩、ミリオンスターワールドへ!」」
「おお、君たちは」
アリアナに着いて数分。待ち合わせていた場所には月光門がいた。本名で呼ぶのはどうかとも思ったがキャラクター名もほとんどそのままのMoonLightGateだったのでLinkerはまあいいかと月光門先輩で通す事にした。本人も特に止めるような素振りもないしきっと大丈夫だろう。
「あー、先輩もやっちゃったんですね、それ……」
「うん? それとは一体」
2人がなぜ即座に他プレイヤーも多数たむろする中でMLGが月光門であるとわかったのかは、現実とうり二つであったからだ。
早い話が彼女もリアルデータ使用の項目を選んでしまったのだ。
Linkerは時間が無く、進化カードは発見されやすさを選んでの事だったが、時間に余裕があっただろうはずなのにどうしてそれを選んでしまったのかは謎である。
「……いえ、先輩ならきっと大丈夫でしょう。気にしないでください」
「そうなのか? よくわからないが、わかったよ」
後々調べてLinkerは知ったのだが、あの項目は完全な地雷だったそうな。
顔の形を変更するような要素は未実装なのでリアルでどんな顔なのか知られたくなければ顔を覆う装備で隠さなくてはいけないらしい。
MLGはかなり整った顔立ちなのでめちゃくちゃ力を入れたキャラメイクと見られて実在の顔だとは思われないだろうから、そこはきっと心配はないだろう。
というか自分と進化カードもまずいのではないだろうか。両者とも顔は平均的なレベルだ。リアルがバレたりしてしまうのでは?
とそこまで考えたがLinkerも進化カードもそもそもMSWにおいて悪い事をしているわけでもないし、こちらも気にしなくても大丈夫だろうと気が付いた。
「ま、そんな話はさておき月光門先輩! MSWで俺達と一緒に楽しく遊んでストレス発散しましょうよ! そのためにこのゲームを紹介したんですから」
「……うん、そうしようか」
MSWをプレイできる設備が彼女の家に揃っていると知ると即座に勧めた。
あまり乗り気とは言えない反応が返っては来たがLinker自身が遊んでいて楽しい事は保証する、と言うと根負けしたのか首を縦に振った。
どこまでゲームを楽しめるかはMLG次第ではあるが、Linkerとしてはできるだけこのゲームの楽しさを教えるつもりでいた。ほとんどが進化カードの受け売りであるが。更に言えばその進化カードの情報も攻略サイト頼りだが。
「それじゃあまずは……」
「まずは自己紹介といこうではないか!」
「私は月光門先輩親衛隊だ!」
「そして私は月光門先輩親衛隊だ!」
「最後に私も月光門先輩親衛隊だ!」
突然3人のプレイヤーが会話に割り込んできた。
その聞き覚えのある声に嫌な予感を覚えながら振り向くと、見覚えのある顔が3つ並んでいた。
「なっ……!? なぜ君たちがここに!? 私は何も言っていないなのに……!」
「ふっ、我ら月光門先輩親衛隊と月光門先輩の間に言葉など不要。お呼びとあらば即参上しますし呼ばれなくても参上します」
「例え月光門先輩が我々が近くにいる事で多大なストレスを抱えていようとも、我々に内密でストレス解消を考えてもどこまでも付いて行きお守りする」
「N県茅原町13番地の977丁目に住む月光門先輩の全てを我ら月光門先輩親衛隊が守り抜いてみせましょう!」
「いや住所から既に守れてねーじゃねーか! お前ら絶対守る気ねーだろ!」
「「「我ら月光門先輩親衛隊!」」」
「だから何もまとまってねーって言ってるだろうが!!」
こいつら本当に親衛隊なのだろうか。月光門先輩アンチクラブとかに改名した方がいいのではないかとLinkerは思った。
それにしても住所はまずい。アリアナを行き来するプレイヤーの何人かは足を止めてLinker達を見ているし、注目の的になりかけている。
MLGもその顔に絶望をあらわにしていた。ゲームの中までは追って来ないといただろうに1時間と経たずその幻想は潰えてしまった。
このままでは親衛隊からの逃げ場を完全に失ったMLGが精神的に病みかねない。どうにかしてMLGを親衛隊から引き離せないものかとLinkerは画策するが、これといって名案は浮かばない。進化カードに視線を向けるが、「俺にはまだどうする事もできない」と黙って首を振るばかりだ。
「……すまない、君たちに折角誘ってもらえたゲームだが、やはり、私は」
「ま、待ってください先輩! 俺が、俺とシンでどうにかしてみせますから!」
「ククク、どうすると言うのかね?」
「我々月光門先輩親衛隊、多少の事で折れるなどと思うてくれるなよ?」
「うるせぇ忠誠厚い騎士みたいな台詞吐くんじゃねえよ!」
腕組みしてカッコよくポーズを決めた親衛隊連中をできるだけ無視するよう努めながらLinkerは考える。しかしどうすればいいのかわからない。
このまま、彼女の心が砕かれてしまうのを見ているしかないのだろうか。そう思い始めて崩れ落ちた直後。
「ッ!? これは……」
MLGが驚愕する。それに反応してLinkerも顔を上げると、同じようなリアクションをした。
てこでも動かないだろうと思われていた親衛隊の3人は、少し目を離した間にどこかへと消えてしまっていたのだ。
「なにがあったんだ……?」
どんな手を打とうとどこまでもどこまでも追いかけてくるストーカーのような連中がこうもあっさり消えた事がLinkerには信じられなかった。
しかし、進化カードは違ったようだ。
「ふう、間に合ったみたいで良かった」
「シン、お前何したんだよ」
「何って……普通に通報しただけだが」
進化カードはどうやら「他人の個人情報をばら撒き個人を執拗に追い掛け回す集団がいる」と運営へ通報を行っていたらしい。それを聞いてLinkerは先ほどの言葉の意味を理解した。
「そっか……やっぱ、お前は俺の頼れる親友だな」
「ははは、改めて言われると照れるな」
「……ええっと、つまりあの子たちは一体どうなったんだね?」
MLGは未だ困惑していて状況がよくわかっていないらしい。そんな彼女にLinkerは自信たっぷりに告げる。
「安心してください、先輩はもうMSWの中においては、自由です!」
所変わって親衛隊の3人。彼女らは気付けば見知らぬ場所に立っていた。
アリアナとはまるで違う暗い世界。小さな檻のようなその場所は、そのまま監獄と呼ばれる特殊なエリアだ。
通常のプレイでは決して来る事のできないここに入る条件はGM、ゲームマスターによる強制召喚のみである。
GM専用装備である金色のワンポイントの入った黒いスーツを着たGMは親衛隊の3人に柔らかく微笑みながら問う。
「……なぜ、ここに呼ばれたかはお分かりですね?」




