俺は生徒会長に呼び出されました。
生徒会に呼び出された凛花と進太郎は言われるがままに女生徒の後を付いていった。
生徒会室と書かれたプレートの掛けられたで止まり、中へ入るように促される。
いったい何の用事なのかまったく心当たりのない凛花がおどおどしながら進太郎を見ると、実に落ち着いた様子だった。それを見て凛花も多少和らいだ。
そもそも悪い事をしたから呼び出されたと決まったわけではない。もしかしたら、知らないうちにとてもいい行いをしていてそれが表彰でもされるのではないだろうか?
そんなふうに考え始めると凛花の心に余裕が生まれる。会った事もない生徒会長とやらはどんな人物なのだろうと考えを巡らせながらドアを開ける。
「失礼します」
「よく来てくれたな。まあまずは座ってくれ」
中には数人の女性がいた。
部屋の一番奥に座っている黒い長髪の女性がおそらく生徒会長だろう。凛花に真っ先に声をかけた人物でもある。
他は見覚えがあった。どこのクラスかはわからないが、凛花と同じ1年生だったはずだ。
凛花と進太郎は一礼して、言われるがままに空いている席へ腰かける。
「それで、いったいなんの話なんでしょうか。えっと……」
「月光門だ。好きに呼んでくれていい」
「はい、それで月光門さん」
「きさま! 月光門先輩を呼ぶときは!」
「先輩と!」
「付けないか!」
月光門の周囲の1年達が分割して凛花に叫ぶ。好きに呼んでいいんじゃないのか、と声には出さずに心の中だけで返す。
「えっと、すいません。月光門先輩、先にこの人らは何か聞いても」
「ああうん、彼女らはな……」
月光門が言い淀む。すると代わりに答えんとばかりに張本人たち1年が立ち上がって言う。
「我らは!」
「月光門先輩親衛隊!」
「月光門先輩の全てを知り、平和な学校生活を脅かす変な奴らからその身をお守りするのが我々の務め!」
「そ、そうなんだ……」
お前らが変な奴らなのでは、と突っ込みたかったが凛花は堪えた。これでも月光門本人は重宝している優秀な人材なのではないかと考えたからだ。
「そうなのだ! 我々は常に月光門先輩を守り、今日までネズミ一匹近付けてはおらんのだ!」
「その結果なんの悪意もない生徒との接触さえも妨害し、友人関係も全て断ち切られて現在は常にひとりぼっちなのだ!」
「しかし我らの活動があくまでも善意のものであると知っている月光門先輩は迷惑しているとも言い出せずに非常に困っているのだ!」
「そ……そこまで全部知ってるならやめてやれよ!?」
訂正。彼女らは変な奴であった。ていうかやばい奴らであった。
「「「我ら、月光門先輩親衛隊!!」」」
「それ言えばうまいことまとまるとでも思ってんのか!!」
やたらと統率のとれた謎の決めポーズを取り、親衛隊は叫んだ。
「凛花くん、彼女らも悪気はないんだ。その辺りで許してやってくれ……」
「あれえもしかして今の聞いてませんでした!? こいつら全部先輩の気持ちわかった上でやってるんですよ!?」
「私の身を案じてくれているのは事実だからね……。善意である以上は止めはしないよ」
凛花はこの短時間でなんとなく月光門の人となりがわかった。間違いなく借金の連帯保証人とかになってしまうタイプだ。
「なんてキャラの濃さだ……。もしかしたら一緒にMSWを遊ぶのに最適なんじゃないか……!?」
「やめろシン! キャラの濃さだけで決めんな! 絶対飽和状態になるわ!」
「MSW……?」
「ああすいません先輩こっちの話です! 本題入りましょうよそろそろ!」
ともかく、これ以上は脱線が過ぎる。
いい加減凛花は自分たちがなぜ呼び出されたのかその理由を聞く事にした。
「それで、どうして俺とシン……いや進太郎がここに呼び出されたんですか?」
凛花が改めて聞くと、月光門は少しだけ言い淀む素振りを見せるが、一度深呼吸をして口を開く。
「うむ……実は、君たち二人が恋愛関係にあるのではないかという噂が学校で広まっているらしくてね」
「……はい? なんでそんな」
なぜ、と思ったが凛花はすぐに合点がいった。
そういえば夏条に進太郎を諦めさせるために二人は付き合っているという宣言を教室でしたが、それを特になんの説明もせずに放置したままだったのだ。
どこで拡散がなされたのかまでは知る由もないが、噂は一日でほぼ学校全域に流れたらしい。
「私としては、その辺りは個人の自由だと考えているのでとやかく言う気はないんだけれどね。教師や一部の生徒の中には快く思わない者もいるそうで、一言言ってやってくれと頼まれてしまったんだ」
「そうだ、生まれてこのかた異性とも同性とも恋愛した事のない月光門先輩は正直君らが羨ましいが君たちに怒りたいわけではないのだ」
「月イチくらいのペースで漫画みたいな出会いを求めて食パンくわえて曲がり角を曲がったりしている月光門先輩はただ形だけでもそうしなくてはいけない立場であるだけで君たちに恨みがないのだけは忘れないでもらいたい」
「う、うむ、その辺りにしてやってくれ君達」
顔を赤くして俯いた月光門はどちらに向けてのものかはわからないが親衛隊に制止をかける。
早い話が月光門自体は凛花と進太郎に悪感情を抱いているわけではないという話だ。
「えっと、つまり」
「つまり今朝の朝食がアツアツのグラタンだった月光門先輩は君たちがどんな関係でも気にしてはいないという事だ」
「そう、結構な猫舌のせいでふーふーして冷まさないと食べられないから遅刻しかけた月光門先輩は慎みさえ忘れないでくれればいいと、そういっているのだ」
「その話を正直にしたら明らかに笑いを堪えながら先生に次から気を付けるよう言われた月光門先輩の寛大さを忘れないように」
「そ、そのへんにしてやってくれ……というか今朝の授業が始まるギリギリの時を話を何故に知っているんだね……」
「「「我ら月光門先輩親衛隊!!」」」
「う、うん。そうかね……」
もしもこの人の胃に穴が開くとしたらそれは間違いなく生徒会の仕事が大変だからとかではないのだろうなと凛花は思った。
「……とにかくだ、嫌悪感を抱く者もいるので節度だけは守ってほしいというだけの話なんだ」
「あの、その話なんですけど」
月光門の言いたい事はだいたいわかったが、その土台からすでに誤解である。
別に進太郎とは付き合ってはいない、そう言おうとする直前に親衛隊が立ち上がった。
「おっといけません、遅刻しないために朝から全力ダッシュしてきたせいでお腹がそろそろ限界はなずです。うんこしにいきましょううんこ」
「高校3年にもなってうんこするために授業抜け出すのはいかがなものかと耐えていたようですがうんこ我慢するのは体によくありませんよ月光門先輩」
「話す事はだいたい終わったのですし言葉の次はうんこ出しましょう、早くしないと次の授業が始まってしまいます」
「ええい乙女が男子の前でうんこうんこうんこうんこ言うんじゃない! すまない凛花くん進太郎くん! 話はここまでだが私は決してうんこのために退席したわけでない事だけはわすれないでくれ!」
「あんたもうんこ言ってるじゃねーか!」
誤解を解く前に月光門は親衛隊に引っ張られて生徒会室から出て行ってしまった。
怒涛のうんこの後に訪れた静寂の中に、凛花と進太郎だけが残されている。
「……さて。誤解されたままではあるけど、話は終わりみたいだし俺たちも教室戻ろっか」
「うんこで思い出したんだがMSWにもうんこという俗称で呼ばれているアイテムがあるらしくてな……」
「うんこの話から離れようぜ、月光門先輩のためにも」




