俺はロールプレイヤーに遭遇しました。
夏条涼から進太郎を守った次の日。教室に入った凛花は先に来ていた進太郎に軽く手を振って挨拶した。
「よ。どうだった、夏条は?」
「ああ、夏条な……」
進太郎はやけに歯切れの悪い様子だ。もしかしたらまだ夏条は諦めてはいないのか、と凛花は思うがそうではないらしい。
「夏条、学校来てないみたいなんだ。いたらいたでうるさい奴ではあったが、急にいなくなると少し不安でな」
何か思いつめすぎてはいないかと心配らしい。凛花の目に映る範囲では相当芯の強そうな人間に見えたのでそうそうないとは思うのだが。
家の場所も知らないし、今は元気に戻ってくるのを待つしかできない。
……まあ、二人はまだ知らない話だが、夏条涼はこの日から2週間ほどで再び学校に姿を見せるようになる。が、それはまた後の話。
今夜からまたMSWで会うと約束して凛花はそこそこ真面目に授業を受けて帰宅した。
「よーし、それじゃ今日の目標はあと5レベル上げる事だな!」
今朝は意気消沈気味だった進化カードだが、今は別人のように元気を取り戻していた。いつまでも気にしていたってどうにかできる話でもないし、この方がLinkerとしてもやりやすいので助かった。
エスティメスは今日も盛況で、様々な声が飛び交っている。必然人ごみもすさまじいので目的地に向かう進化カードを見失わないよう気を付ける。
二人は今エスティメス王国の東門を目指している。その先のモンスターが討伐適正レベルであるらしいので、二人は次なるストーリークエスト発生レベルまで今日で一気に上げる予定である。
他のプレイヤーが多く、現実であれば移動だけでも一苦労だが、そこはゲーム。PCNPC問わず貫通して先に進める。
そんなわけで東門までは二人とも問題なく移動できた。
しかしその先の狩場である蜥蜴陽路に入った途端、問題が起きる。
「よぉ、そこ行く兄さん方ぁ、ちょいと待ちな」
「ケッケッケッ、この斧の錆になりたくなかったらよお」
「身ぐるみ全部置いてってもらうぜェ!」
三人の、見るからに荒くれ者という風体の男に取り囲まれてしまった。全員、強力そうな斧を持っている。
だが二人はそこまで慌てはしない。多分これもゲーム内の何かしらのイベントだと思ったからである。
「……」
「……」
しかし、しばらく待つが話は進まない。
痺れを切らしたのか、荒くれの一人が突如声色を変えて凛花に言葉をかける。
「……あの、すみません。自分達こういうロールプレイをしている者でして、できればノってもらえませんか」
「急で申し訳ないんですが、なんかそれっぽい感じの事言ってくれるだけでいいんで……」
「無言だと俺らも我に返っちゃって恥ずかしいんで……」
「あっ、すみません」
NPCか何かだと思っていたらプレイヤーであった。それもロールプレイである。
言葉遣いだけでなく、衣装までならず者らしく見えるように三人で揃えて、完全に役に入りきっていた彼らが素に戻って申し訳なさそうにお願いしてくるのを見て凛花も申し訳なくなる。
ゲーム内で役割を演じるいわゆるロールプレイは、非常にゲームを楽しんでいると言える。そんな彼らの楽しみを邪魔するわけにはいかないとLinkerと進化カードは顔を見合わせて頷く。
「くっ、おのれならず者どもめ、Linkerにはこの俺の命に代えても触れさせはせんぞッ!」
「何を言うんだ進化カード! お前が傷付くところなんて俺は見たくない!」
「クヒヒヒッ、いいねぇ。その友情俺らが今からぶっ壊してやれると思うと最高にいいねぇ」
「よぉし、まずはそっちのデカイ男からだ。動けなくなるまで痛めつけてからそっちのカワイイ子が嬲られるのをみせつけてやるぜ」
Linkerと進化カードが彼らに合わせた途端、水を得た魚のようにロールを再開し始めた。
即興で思いついた事を言っただけなので若干棒読みくさくなってしまったのが気になっているLinkerだが、それでも少し楽しい気分になってきた。彼らがロールプレイを楽しんでいる理由が何となくわかる。
それはいいのだが、これは明らかに戦う流れなのではないのか、と不安にもなる。3体2であるし、装備もなりきりとはいえ駆け出し2名の物より上等なのは間違いないだろう。
一色即発の空気にLinkerが固唾を飲むと、突然にそれは砕かれた。
「待てーい!」
叫び声とともに木の陰から人が飛び出してきた。赤い全身スーツに身を包んだ、わかりやすいヒーローという感じの男だ。
「この世の悪を許さない! 正義のヒーロー、ローンレッドがお前達を成敗してくれる!」
「くうっ、現れおったなローンレッドめ、今日こそ俺達の山賊行為を邪魔させはせんぞ!」
「おいなんか急に世界観変わってねぇか!?」
さっきまでと打って変わって、突然ヒーローショーが始まってしまった。いきなりの方針転換に追い付けず、振り落とされたLinkerは思わずツッコミをいれた。
「がんばれー! ローンレッドー!」
「対応力すごいなシン!?」
進化カードは見事に対応しきり、観客になった。
「行くぞッ、正義の剣を受けてみよッ!」
「ええいお前達、やってしまえッ!!」
そして戦いの火蓋が切って落とされる――が、その前に決闘の申請が行われたらしく4人は手元のパネルをいじるような動作をする。
どうやらプレイヤー同士の戦闘は決闘を通してのみしか行えないらしいようだ。
「さあリン、俺と一緒にローンレッドを応援するんだ!」
「ノリノリだなシン……こういうの好きなのか?」
「男はみんな大体好きだろ! さあ! リンも一緒に!」
進化カードの熱意に押され、Linkerも応援する事になった。
「が、がんばれ~……」
しかしLinkerももう16歳である。ヒーローが嫌いかと聞かれればそんな事はないが、さすがに声を上げるのは苦手だった。
3人同時の相手は辛いのか、ローンレッドは徐々に押され始める。
「くっ、このままでは負けてしまう……! みんな! 俺にもっと声援を送ってパワーを分けてくれ!」
「うおおおーっ!ローンレッドォーーッ!!」
進化カードは対照的にハイテンションだった。年齢程度がどうしたことかと声を張り上げている。とても楽しそうであった。
そしてその声が力となり、ローンレッドは3人を吹き飛ばす。さらにその隙を見逃さずに追撃を仕掛けていく。
「みんなの声援確かに受け取った! 食らえッ、ソードオブッ、アポロォォーン!!!」
「「「ぐわあーっ!!」」」
ローンレッドが炎を纏った剣を振り抜くと、3人はスローモーションでもがきながら倒れ、大爆発した。
木っ端みじんになったかと思われた山賊達だったが、倒れたままで無傷の姿でそこにいた。技のエフェクトかそういうエフェクトの出るアイテムを使ったのだろう。
「――こうして、悪は倒された。だが世界にはまだまだ彼の助けを求める人々がいるのだ。負けるなローンレッド! がんばれローンレッド! あと4人くらい仲間を募集中だローンレッド! 世界から悪をなくすその日まで!」
「ナレーション自分でやるのか……」
ローンレッドはオリジナルのテーマソングっぽいものを口ずさみながら走り去って行った。
また木の陰に隠れた所で、倒れたままだった3人が起き上がってくる。
「ありがとねー最後まで見てくれて」
「スルーされたりとか結構多いし嬉しかったよー」
「レベル上げかな? 頑張ってねー」
そう言って、優しそうな笑顔を見せて手を振りながら道を開けてくれた。
促されるままに通り、少し進んでから振り返るとまだ手を振っていた。
「……えっと、いい人、なのか?」
「悪そうに見える奴ほど実はいい人だったなんてよくある事だからな」
Linkerは彼らの振れ幅の大きさに終始戸惑っていたが、「でもああいうのだって楽しかっただろ?」と進化カードに聞かれ、少し考えて頷いた。
その後は特に問題もなく周辺のモンスターを倒し続け、あっさりと目標レベルまで到達した。
時間も丁度いい頃合いとなったので、本日はここでお開きになった。




