ずっと…あなたの隣に
最終話です。
朝倉君が帰った後、私は思いっきり泣いた。
あんな風に言うつもりは無かったのに……朝倉君、凄く驚いた顔をしていた。きっと迷惑に思っただろう。
そんな事を思っていると、ポロポロと涙が零れた。
どの位、泣いただろう---気づくと泣き疲れて眠ったらしく、目を覚ました時には朝になっていた。
鏡を見ると目が腫れぼったくなっていた。
---うわっ! 酷い顔っ! こんな顔では出掛けられない---
私は慌てて冷凍庫から氷を取り出し、タオルの中へ何個か包むと瞼に当てた。ヒンヤリとして心地良い。
しばらくそうしていたら、何とか誤魔化せる位に腫れはひいていた。
その後、麻美ちゃんとの待ち合わせ時間に間に合う様に必死に準備をし、慌ててチェックアウトをしてから彼女との待ち合わせ場所へと向かった。
「あ、五月ちゃん、ここ!」
待ち合わせた場所は麻美ちゃんの家の近所にあるカフェだった。
「ごめんね、遅れちゃった」
「ううん、5分くらいどうって事ないわよ。林原君なんて1時間の遅刻なんて当たり前なんだから」
そう言って麻美ちゃんはニッコリとほほ笑んだ。
私達はそのカフェでランチを食べながら昔話や今の近況等、昨日話せなかった事をゆっくりと話した。麻美ちゃんは仕事を辞めて、今は花嫁修業をしていると嬉しそうに話した。
「結婚したら彼のお店を手伝うつもりなの。だから仕事も少しずつ教えて貰うつもり」
「そうなんだ、偉いね。麻美ちゃん」
「そんな事ないよ……林原君の事好きだし尊敬もしてるから、力になれたらって思っているだけ」
幸せそうに話す彼女はとても綺麗だった。
私はそんな麻美ちゃんが少し羨ましくて、思わず俯いてしまった。
「ねぇ、五月ちゃん……あなた達ホントにまだ結婚しないの?」
いきなり聞かれて、私はつい本当の事を言っていた。
「結婚どころか、私達は付き合ってないから」
「は?」
私の答えに麻美ちゃんは素っ頓狂な声を上げた。
「何言ってんの? 五月ちゃん」
「本当よ、私達はただの友達、仕事のパートナー、それだけの関係です」
淡々と答える私に、麻美ちゃんは納得いかないという顔をした。
「そんな訳ない、この前の2人は幸せそうな恋人同士だったわよ」
「ごめん、みんなをガッカリさせたくなくて、2人で恋人同士のフリをしようって話してたの」
「ううん、あれはお芝居なんかじゃないわよ、少なくとも朝倉君は同窓会の間中、五月ちゃんの方を見てたもの」
「……嘘」
「本当! それに橋本君に聞かれた質問、あれは絶対本心だよ、お芝居であんなアドリブがでるわけないじゃない」
呆れた様に麻美ちゃんは私を見た。
「ねぇ、もし本当に恋人同志じゃないなら、五月ちゃんから好きって言ってみたら? きっと上手くいくと思うけど?」
……言ったら凄く驚いてたんだけど……
心のなかでそう答えて、私は曖昧な笑みを浮かべた。
夕方まで麻美ちゃんと一緒に、お土産などを買いながら過ごした。
「それじゃ、またね」
「うん、結婚式には絶対来てよね」
「もちろんよ! 楽しみにしてる」
そして、私達は駅で別れた。
私は帰りの電車の中で、昨日の事を思い返していた。
朝倉君、凄く驚いた顔で私を見てた。
リョウさんと付き合っていると思っていたから、無理ないのかもしれないけど。
---迷惑だよね? 絶対---
言わなきゃ良かったと、今更ながら後悔する。
今度会った時、どういう顔をしたらいいんだろう。
そんな事を考えながら、自分の家の最寄駅で電車を降りると、キャリーをひきながらマンションへの道をゆっくりと歩く。
マンションの前まで来た時、こちらへ近づく足音に気づき顔を上げた。そこには今、一番会いたくない人が立っていた。
「……朝倉君? 何でここに?」
「一緒に帰ろうと思ってホテルに行ったら、チェックアウトしたって聞いて慌てて高速で帰って来た」
彼はそう言って私に笑いかけてきた。昨日の事など無かった様な態度に思わず視線を外し、俯いてしまった。
「麻生……話がしたい」
真剣な声色に思わず、肩に力が入る。
「あ……私…ごめん。今日は疲れてるの……だから、話は今度にして…」
今は返事なんて聞きたくない。きっと、彼の前で泣いてしまう……困らせたくなんてない。
私は俯いたままそう言った。
声が震えているのが判る。朝倉君が気づかなければいいけど。
「そうか……そうだよな。ごめん、だったら明日---俺が仕事終わってから……時間くれないか?」
彼はどうしても話をしたいらしい。
出来れば私はそのまま、この話を終わらせたかった。決定的な答えなんて欲しくはない。
だけど、それは無理だろう。私は諦めた様に訊ねた。
「---明日?」
「あぁ、どうしても明日話しがしたいんだ。無理だって言うなら今、話しをしたい」
彼は何が何でも話をしたい様で、私は諦めの溜息をつきながら朝倉君を見た。
「わかった。明日、夕方---仕事が終わったら電話して。話はその時に聞きます」
覚悟を決めて私がそう告げると、彼は安堵の表情を見せた。
「それじゃ、明日……電話するから」
朝倉君の言葉に頷いた。
「おやすみなさい」
それだけを言うと、私は逃げる様にマンションの中へと入った。
翌日は午後に事務所へ行き、社長の渡瀬さんや事務の佐々木さんにお土産を渡した。
2人がお土産のお菓子でコーヒーブレイクをしようと言ったので、一緒に頂くことにした。
3人でテーブルを囲んでコーヒーを飲んでいる時、渡瀬さんが興味津々で訊ねてきた。
「どうだった? 久しぶりの同窓会は?」
「はい、10年振り位だったので、すごく懐かしかったです。とっても変わってて誰だか判らない人もいたりして楽しかったですよ」
私は同窓会の時の様子を話した。
2人ともニコニコと楽しそうに聞いてくれて、少しだけ気分が明るくなった。
「あ、じゃ、今日はもう帰りますね」
佐々木さんが自分の席に戻って行ったのを機に、私は渡瀬さんへそう告げた。
「メイ……聞きたいことがあるんだけど……あなた、リョウとはどうなってるの?」
渡瀬さんが聞きにくそうにこちらを見ていたので、私は本当の事を話した。
「渡瀬さん、心配かけてすみません。私とリョウさんは付き合ってなんかないです。あれは唯香さんに嫉妬させようとリョウさんが企んだんです」
「はあっ? 何よ、それ!」
驚いた様に渡瀬さんは聞き返した。
私が今までの事を掻い摘んで説明すると、渡瀬さんは眉間に皺を寄せた。
「リョウの奴……メイをそんなしょうもない事に巻き込んで……今度会ったら文句言わなきゃ」
「わ、渡瀬さん、それは止めて下さい。私も了承したんですから」
私の言葉に、更に渡瀬さんは顔を顰める。
「メイ、あなた何でそんな事に協力したの?」
「そ、それは……」
い、言えない。朝倉君に嫉妬して欲しかったなんて……
私が言い淀んでいると、渡瀬さんがポツリと言った。
「朝倉君が原因?」
思わず渡瀬さんを見つめてしまう。
「やっぱりね……メイ、好きなんでしょう?」
返事に困って黙っていると、ため息が聞こえた。
「別に恋愛に反対はしないわよ、私は。むしろそれがプラスになるなら構わない。告白してみたら?」
言えない……告白して迷惑がられてるなんて!
「無理ですよ。きっと、迷惑です」
俯いてそう言うと、渡瀬さんの驚いた声が私の耳に届いた。
「まさか、彼も少なからずメイに好意を持ってるのに。迷惑はないでしょう」
「は?」
「私も何回か撮影を見に行って気づいた事なんだけど、彼いつも撮影中はメイだけを見てるのよ。最初は気のせいかと思ってたんだけど、雪村さんも似たような事言ってたから間違いないと思う。気づいてなかったの?」
黙って頷く。まさか……そんな事ない。
「まぁ、私達の勘が外れてなければ、あんた達は両想いかしら? 当たって砕けてみたら?」
判ってて砕けるのは嫌なんですけど。て言うか、もう砕けてます……
私が情けない顔をしていたのか、渡瀬さんは笑いながら言葉を続けた。
「ねぇ……メイ、好きなら素直になった方がいいわ。後悔してもどうしようも無い時ってあるのよ。そうなったら、なかなか前には進めないわ」
そう言った渡瀬さんの瞳が、悲しげに見えたのは気のせいだろうか。
その後、私は事務所を出て家へと帰った。
部屋の掃除をしながら朝倉君からの電話を待ってると、携帯が鳴ったので慌てて取った。
「はいっ! 麻生です」
「あ、メイちゃん? 俺、リョウだけど」
電話の相手は明るく話し掛けてきた。
「リョウさん?」
「ごめん、いきなり。今大丈夫?」
「あ、はい…大丈夫です。どうかしたんですか?」
リョウさんから電話なんて珍しい。
「うん……実は、俺と唯香……やり直す事になったんだ。この前それを伝えたくてメイちゃんが泊っているホテルに行ったんだけど、朝倉君と鉢合わせしちゃって……」
電話の向こうで、リョウさんが申し訳なさそうに告げる。
「リョウさん、良かったですね!」
私は心から祝福した。本当に良かった……2人はお似合いだと思う。
リョウさんは嬉しそうにお礼を言った後、言いにくそうに私に訊ねた。
「ありがとう……だけど、大丈夫だった? 俺がホテルに行った事で朝倉君、誤解したんじゃないか? 自分が始めた事とは云え、メイちゃんの恋を邪魔する気は俺ないよ。もしも、誤解してるんなら俺が説明する……」
「大丈夫ですよ。私が説明して判ってもらいましたから」
「じゃ、メイちゃんも思いが通じたんだ! 良かったな!」
嬉しそうに言うリョウさんに私は本当の事が言えず、曖昧な返事をしてごまかした。
「今度、俺達とメイちゃん達で食事にでも行こう。唯香もメイちゃんに酷い事を言ったって気にしてて、謝りたいらしいんだ」
「え? そんないいですよ。気にしないで下さいって伝えて下さい」
私が慌ててそう言うと、リョウさんが笑った。
「あいつは意外に頑固だからな……それに、俺もお礼とお詫びのしるしとして、2人を食事に招待したいんだ……だから、2人で話し合って都合のいい日を教えてくれよ。じゃ、楽しみにしてるから」
「…あ、はい…」
そう言うと、リョウさんは電話をきった。
リョウさん、恐らく2人で行く事は無いと思います……私は心の中でそう言うと、1人部屋の中でため息をついた。
それから、しばらくして朝倉君から電話があった。
携帯の画面に『朝倉大樹』の名前が浮かぶ。
一瞬、躊躇った後、通話ボタンを押した。
「はい」
「…麻生か? 俺だけど」
それは、いつもと変わらない彼の声だった。
その声に私は緊張が解れるのが判った。
「うん、仕事終わったの?」
「あぁ、今から出て来れるか?」
「大丈夫…どこに行けばいいの?」
それは待ち合わせで行った事のあるカフェだった。家からは歩いて行ける距離だ。
「わかった。先に行って待ってる」
「俺も今、会社を出た所だから多分着くのは30分位後だと思う」
「それじゃ、あとで」
「あぁ、あとで」
電話を切ると、私は戸締りをしてバックを手にとり家を出た。
カフェに着くと窓際の席に座った。
ここからだと、彼が来るのが判る。
待ってる間、彼の話がどういうものなのか判らずに緊張が高まる。
それから数分後に、朝倉君が駅の方向から歩いて来るのが見えた。
彼は早足でこちらへと向かってくる。
私は気づかない振りをして、別の方向を見つめていた。
「……悪い、待たせた」
お店に入って来ると、真っ直ぐに私が座っている席までやって来た。そして私の正面の席に座る。
「ううん、私もついさっき来たところだから」
彼と視線を合わせる事が出来なくて、俯きがちに答える。
朝倉君は注文を取りにきたスタッフにコーヒーを頼んだ。
スタッフが席を離れた時、不意に彼が話し掛けてきた。
「麻生……俺…」
私は彼の言葉を遮る様に一気に喋る。
「一昨日の事は忘れて! ごめん、迷惑よね。いきなりあんな事言われても……でももう友達ではいられないと思ったから……これからは仕事以外では会わない様にする。迷惑もかけない」
そして席を立って出て行こうとした私を、朝倉君は呼び止めた。
「麻生っ!」
その声と同時に、私は彼に腕を掴まれてそのまま引き寄せられた。
店内のお客さんの好奇の目が気になって、俯いたまま彼と向き合う形になった。
「座ってくれ……俺の話はまだ済んでない」
朝倉君の真剣な声に、私はこれ以上逃げる事は出来ないと観念してそのまま席へと座り直した。
だけど彼は何も話してはくれず、お互い無言のまま座っていた。
コーヒーが運ばれてきて、彼は一口それを飲んだ。
「……好きだ」
掠れた囁くような声がそう告げた。
え? 今、何て?
思わず身体が強張るのが判る。
「麻生…俺はお前が好きだ。おそらく中学の頃も好きだった。再会してからはあの頃よりもお前を思う気持ちは強いと思う。出来ればお前の隣にずっと居たい」
朝倉君のその言葉に目の前が霞んでくるのが分かった。
「っ……」
思わず嗚咽が漏れてしまい、その後は堰を切った様に涙が溢れた。
「ごめんな……もっと早くに言えば良かったけど、俺も怖かったんだ。お前が俺の事を好きになる事は無いって思ってたから」
「どうして?」
私は思わず顔を上げて、朝倉君を見つめる。
「昔の俺を知ってるから……お前が太っている奴は嫌いって言った言葉が、俺を縛り付けていた。だからお前が俺を好きになる事は絶対に無いと思い込んでいた」
「私は……中学の時も朝倉君が好きだった。太ってるなんて関係なかったのに…あんな事言わなければ良かった」
自分の浅はかな言葉で彼が傷ついていた事を知り、私は心の底から謝った。
そして涙を拭きながら、更に自分の想いを話し続ける。
「再会してからすぐに、私は朝倉君の事がまだ好きな事に気づいて……でも、朝倉君は背が高い子は嫌いって言ってたから、私なんて無理って思っていて……それなら友達でもいいから傍にいたいって…でもリョウさんとの事を誤解されて、応援された時はやっぱり友達としか思われてないのが辛くて」
「平気じゃなかった……リョウとの事は凄く嫉妬したし、諦めなきゃとも思ってた。吉澤主任や雪村さんにも発破をかけられたけど、俺なんか相手にされないと思ってたし……それに、お前が幸せならいいんじゃないかって思っていた……」
朝倉君はその時の事を思い出したように、辛そうな表情をした。
そんな彼を見て、本当に私の事を思っていてくれた事が判る。
「好き好きオーラか……」
不意に彼が呟いた。
「え?」
意味が判らずに私は彼を見つめると、照れた様な笑みを浮かべ説明してくれた。
「ん…雪村さんから『メイちゃんの好き好きオーラに気づかないなんて』って言われたんだ。確かにそうだよな」
---好き好きオーラ?---
彼の言葉を心の中で反芻し、その意味に段々顔が熱くなってくる。
「なっ…嘘っ! 私の気持ちってそんなに丸わかりっ?」
「雪村さん曰く『俺達の気持ちは周りにはバレバレだった』らしいぞ。何で気づかないのか不思議だって言われた」
そ、そう言えば……いろんな人から似たような事言われた……
思い出すと、余計に恥かしさが増してくる。
「も…もう、やだ…恥ずかしくて雪村さん達に会えない…」
「それ言うなら、俺の方がもっと恥ずかしい…」
そういった彼を見ると、彼も恥ずかしそうな表情で私を見た。2人視線を合わせるとどちらともなく、ほほ笑んだ。
その後は緊張も解けて、美樹ちゃんや麻美ちゃんとの事を彼に話した。朝倉君は笑いながら聞いてくれた。そして、ゆっくり話したいからと私達はカフェを出た。
私の家まで歩いて行ける距離なので、2人で歩きながら話をした。
「で、リョウさん達はどうなったんだ?」
唐突に朝倉君が訊ねてきた。
私は今日の電話での会話を思い出し、彼にその事を伝えた。
「リョウさんと唯香さん、ちゃんと誤解を解いてやり直すみたい」
「そうか…良かった」
彼がため息をついた。そんな彼を見て、私はそっと呟いた。
「ごめんね…嫌な思いさせてしまって」
俯いていた私の頭を、彼の大きな手が優しく撫でてくれた。
思わず上目使いで彼を見ると、優しい眼差しで私を見ていた。それが凄く嬉しい反面、恥ずかしくて思わず顔が赤くなる。
「これからは、あんな事は無しだぞ」
「うん、もう絶対にないから」
私達はニッコリと、微笑み合った。
そんな会話をしている間に、私のマンションの前に着いてしまった。
「家に来る?」
もう少し一緒にいたくて、恐る恐る朝倉君に訊ねる。
彼は少し考えてから、ゆっくりと首を振った。
「いや…今日はこのまま帰るよ……おやすみ」
そして帰ろうと私に背を向けた。
---帰っちゃうんだ---
寂しさがこみ上げてきて、つい瞳が涙で潤む。
「……おやすみなさい」
彼の背中に声をかけた。
すると、朝倉君がいきなり振り返ると私を抱き締めた。
「…って、え? 朝倉君っ……んっ…」
突然の事に驚いた私の声は、朝倉君の唇に塞がれてしまった。
「ごめん…」
彼は唇を離すと謝った。
「ううん、引き留めたのは私だもの。あのまま帰るって言われて凄く寂しくて、もう少し一緒にいたいって思ったら泣きたくなって…」
そう言って朝倉君の肩に顔を伏せた。そんな私を彼は抱きしめてくれた。
しばらくお互い黙ったまま抱き合っていたけど、私はそおっと彼から離れた。
「麻生?」
驚いた様に朝倉君が私を呼び止める。
「あ、あの、ごめんね。無理言って……大丈夫だから、うん、もう寂しくないから。それにこれからは恋人同士として会えるんだもんね。我が儘言って本当にごめんね」
「謝るなよ…我が儘言ってくれた方が俺は嬉しい。本当はお前の部屋に行きたいけど、自分が信用できないから今日は帰るよ……その代わり近いうちに俺の部屋にお前を招待するから。覚悟しておいてくれよ」
彼は笑いながら言ったけど………えっと、それって……そういう事だよね?
朝倉君を見ると、真剣な目で私の様子を窺っている。思わず恥ずかしくなって俯いた。
「うん……楽しみしてる…ね」
思わずそう答えてから焦った。
うわーっ、何か凄く張り切ってるみたいじゃない! 私っ!
心の中で焦っている私に気づかない様で、朝倉君は嬉しそうにもう1度私にキスをした。
そして私を腕の中から解放すると、今度こそ帰る為に今来た道を戻って行く。
「それじゃ今度こそ……おやすみ」
「おやすみなさい」
私は微笑みながら手を振った。
朝倉君は手を振り返すと、帰って行った。
その後ろ姿を見送ってから、自分のマンションへと入って行く。
部屋へ帰ってから、さっきの出来事を思い返す。
両想いになるなんて思ってもいなかったから、まだそれが現実とは思えなくて夢見心地のままお風呂に入る。
髪を乾かしてから居間に戻ると、携帯の着信ランプが光っていた。
見ると朝倉君からのメールだった。
-- 今、家に着いた。おやすみ --
シンプルなメールで、いかにも彼らしい。
その文面を見て、ほほ笑んだ。すると、再びメールが届く。
-- これからは俺がお前の隣にいてもいいんだよな? --
朝倉君のその文面に思わず、涙が零れそうになった。
本当にいいの? 私で?
そんな言葉の代わりに、私は彼へ返信のメールを送る。
-- 迷惑でないなら、ずっと……あなたの隣にいさせて下さい --
すぐにメールが返ってきた。
-- 当たり前だろ! 俺には、お前以外ありえないから。これからもよろしく --
言葉では絶対言ってくれそうにないその文面に、泣き笑いで返事を送る。
-- はい、これからもよろしくお願いします。大好きです --
メールを送った後、ふと壁に貼ってあった写真が目に留まる。
それはあの写真 --- 中学の時の2人の写真 ---
私は手に取るとそっと写真を撫でる。まさかこんな風に2人が付き合うなんて、あの頃は夢にも思わなかった。これからはこんな風に一緒に写す機会も増えるんだろうな。
そんな事を思っていると、また着信が入る。
-- ばか 照れるだろ! でも、嬉しかった。俺もお前が好きだ。これからはずっと一緒だからな --
はい、ずっと一緒だね。これからは。
私は携帯の画面と写真を交互に見ながら、ほほ笑んだ。
本編、完結です。
ここまで、おつきあい下さりありがとうございました。




