第9話:負けイベだとは認めたくない
にしても邪教徒か。
プロローグ映像で邪神を復活させようと目論んでるって言ってたけど、もうメインストーリーに出てくるんだな。
「邪魔しやがって……」
「嫌がる女性を無理矢理連れて行こうとしたらそりゃ止めるよ」
てかそういうクエストだし。
「ぜってぇ許さねぇ。まずはお前から排除してやる。そして次はあの女だ」
玉を拾った邪教徒は俺に向き合い、懐に玉をしまって、代わりに暗い紫色をした明らかにヤバそうなナイフを取り出した。
案内文が《邪教徒と戦おう!》に変わる。
『クエスト:邪教徒との邂逅が発生。
クエストエリアが設定されました。』
「安心しろ、俺は慈悲深い。楽に送ってやるよ」
強制的に戦闘が始まるのかよ!
「“バレット-炎”」
とりあえず先制攻撃を撃ったがマントで防がれた。ダメージはあまり入らず、怯みもしない。
振りかぶってきたナイフをなんとか躱す。
そいつは2撃、3撃と追撃してきた。
ロッドで腕を弾き、軌道をズラす。
ナイフの色からして、絶対毒属性だろ。一撃でも当たったらやばそうだ。
「“バレット-岩”」
至近距離の攻撃。
これもやはりマントで防がれた。
何かしらの特殊効果持ちの装備なのだろうか。
今持っているスキルで1番攻撃力が高いのがこれなのに。一応HPは削れたっぽいがほんの数mm分だけである。
その間、相手の攻撃は続く。
ナイフが髪を掠って数本切られた。
難易度急に上がりすぎじゃないか。
今までスキルの1、2発で倒せてきたじゃんか。
もしや、負けイベか?
ミストを使って目眩しを使い、一度距離を取る。
いくらこのゲームに体力ゲージが無いからといって、ずっと避け続けるのはしんどい。
目眩しから復活した邪教徒はすぐにナイフを投げてきた。
反射的に身体を半歩ずらして避ける。
「武器を投げていいのかよ」
「誰がナイフが一本だけだと言った」
そう言ってまた懐からナイフを取り出した。
なるほど。さては何本でも出せるんだな?
でも、誰も武器が無くなっていいのかとは聞いていない。
「“ファイヤーボール”“バレット-炎”“バレット-旋”」
一気にスキルを唱える。
ヤツはそれをマントで防ぐ。
その隙に俺はエリアギリギリまで走った。
ロッドを投げ捨て、エリア制限のバリアにぶつかって落ちたナイフを拾う。
『適正外の武器が装備されました。
武器の攻撃力が半減します。
使用できないスキルがスロットに登録されています。』
「このナイフ、お前も当たったらまずいんじゃねーの?」
「魔法使いがナイフを持ったところでどうなる!」
「使えなきゃメイン装備捨てねーよ!」
拾ったナイフで斬りかかった。
散々ナイフ縛りでいろんなゲームをしてきたんだ。
ナイフ使い相手でも、もちろん戦える。
むしろ、ロッドを持って戦うよりもよっぽどやりやすい。
ヤツの腕に一線の傷が入る。
『注目されました。』
もはや慣れてきた通知が入るが気にしている暇はない。
負けじとナイフを振りかぶられたので弾き、また攻撃してから一歩離れる。
少ないながらもダメージはちゃんと入っている。
なんならバレットの岩を当てた時より若干減りが大きい気がする。
ダメージが通るなら倒せる。
負けイベで大人しく負けてやるかよ。
斬りつけて、斬りつけて、斬りつける。
ありがたいことに、向こうは防戦一方で攻撃をしてこない。
持っている武器がヤバそうで、防御力がエグいほど高いけど、こいつ本体はそんなに強くないぞ。
このままならいける。
そしてHPの3割を削れた頃。
「“黒閃”」
後ろから何かで肩を貫かれた。
思わずナイフを落とす。
目の前の邪教徒にも攻撃は当たっていて腕を怪我している。
「……黒化が進んでいない。いったい何をしている」
「エ、エレヴォス様!すみません、こいつが邪魔してきて!」
せっかく良い調子だったのに、邪魔が入ってくんのかよ。てか今ので俺のHPの3分の1が吹き飛んだし。攻撃力えぐすぎない?
エレヴォスと呼ばれた奴は戦っていた邪教徒と似たようなローブを着ている。金色のラインが入っていていかにも幹部っぽい。目から上は仮面がつけられている。
「こんなゴミにか?まぁいい。騎士団に嗅ぎつけられた。お前は撤収の準備をしとけ。俺はこいつをやる」
「ただちに!!」
「さて、うちのものが失礼した。お詫びにさっきとあの世に送ってやろう」
「似たようなこと、あいつにも言われたけど」
「そうか。だがあれと俺は違う。“黒閃”」
スキル名を唱えようとした時点で下にしゃがんだ。
黒い線のような何かが俺の頭があった場所を通り抜ける。
こっわ。あのままだったら頭吹き飛んでたな。
「ほう、これを避けるとは」
避けただけじゃない。
しゃがんだついでに落としたナイフを拾っていた。
攻撃手段が無くなったら終わりだからな。
「“ダークネスヴェール”」
エリアの制限バリアが闇に包まれた。
周りの景色が見えなくなる。
視界を失ったわけじゃ無いのが救いだ。
「“アビスハンド”」
闇から黒いウニョウニョしたやつが複数向かってきた。走って逃げるがずっと追いかけてくる。
「“黒閃”」
飛び込むように前転してなんとか避けた。
近づく暇ないなこれ。ナイフで戦うのは無理がありそうだ。
使い勝手がよかった武器だが仕方がない。
「一方的に攻撃してくるのは卑怯だろ」
「攻撃したいならすればいいさ」
「そうかよ!」
走りながら左手でナイフをあいつに向かって投げた。
今度はその辺に放置していたロッドを拾う。
「“ブレイズアップ”“バレット-岩-”」
「“黒閃”。残念だがその技は知っている」
綺麗に相殺されたんだが。
まじで意味わかんない何この敵。
「諦めろ。俺には勝てない」
「そうかもな」
そう言いつつ、とりあえずバレットの炎を撃ち込む。やっぱり相殺された。それどころか追加で攻撃が来る。
最初の攻撃はなんとか避けれたが、2撃目を足にくらい、転ぶ。ウニョウニョとしたやつに足を掴まれ、闇に引き摺り込まれそうになる。
「“バレット-旋”」
ウニョウニョを撃ってなんとか這い出た。
ただ、今のでHPが半分以下になった。いよいよやばい。
痛む足を無視してエリアの内側に走る。
「“黒閃”」
そのスキルはもう慣れてきた。
軌道的に頭を狙ってきたと分かったので、最小限の動きで避け、そのまま突っ込み、ロッドを振りかぶる。
「そう来ると思ってた。“冥荊”」
地面から無数の黒い棘が生えてきた。
まさか下からくるとは思っておらず、避けられずに突き刺さる。
俺のHPはみるみる減っていく。
「“ふぁい、あー……ぼーる”」
真っ直ぐに飛んだ炎の弾はそいつに当たった。
しかしHPが減った形跡がない。
ダメージが通らないとわかっていたから避けなかったんだろう。クソが。
余裕たっぷりにこっちに歩いてくる。
「全く。大人しくしていればそんなに痛い思いをせずに済んだものを」
こいつとまともに戦うには攻撃力も手数も何もかも足りない。
序盤に遭遇していい敵じゃないだろ。
俺のHPが残り1割を切る。
それにより、チュートリアルで買わされた指輪の効果が発動した。
HPが残り10%を切った時、1度だけ10秒間無敵にしてくれるというものだ。
棘に刺されていて動けないことには変わりない。
だが、時間は稼げる。
「ふむ。なかなか粘るな」
心の中で秒数を数える。
「トドメを刺してやろう」
そいつは黒い槍を取り出して、俺に突き刺した。
ロッドを落として、力尽きたフリをする。
3……
2……
1。
サブ武器のナイフを取り出して、近くまで来ていたそいつの足を斬りつけた。
ダメージエフェクトが入ったのが見える。
視界に相手のHPが映っていないので、どれだけ削れたかはわからないがエフェクトが出たのなら1撃は与えられたってことだろう。
「面白い。その眼で世界を見続けろ。あのお方のために」
次の瞬間、俺のHPがゼロになり視界が真っ黒になった。




