プロローグ:オフゲーしかやらないのにオンラインゲームソフトを貰う
ナイフを振りかぶり、三つ目の巨人の腕を浅く切りつける。赤いエフェクトでダメージが入ったことを確認しながら、すぐに後ろへ下がった。
その瞬間、俺の数cm目の前に巨大な腕が振り下ろされる。ドンと鈍い音が響き、地面が少し揺れた。この時、数秒隙ができるので、3度斬りつけ、今度は横に避ける。
突進攻撃を無事に避けられ、背後から斬りつけた後、すぐにしゃがむ。頭の上を大きな腕が通り、風を切った。
本来なら強化をしまくった剣で戦うボス相手に、初期装備のナイフで挑んでからおよそ3時間。休むことなくずっと戦っている。
装備も初期装備のままなので、一度でも攻撃が当たったら即死だ。
向こうのHPは残り4分の1ほど。
攻撃パターンは大体覚えたし、今のところ安定してミスなく避けている。
本日4回目の挑戦にしてようやくクリアできるかもしれない。
咆哮している間は斬りつけ放題。ただ、咆哮が終わるまで近くにいると最後に吹き飛ばされるので、頭の中で秒数を数えてギリギリで離れた。
斬りつけて、避ける。
避けて避けて、斬りつける。
それを何度も繰り返し、相手のHPはついに10%を切った。
また咆哮をしたが、先ほどまでと様子が変わり、赤いオーラを纏い出した。HPが一定の数値以下になったことによるフェーズ移行だ。
ここから攻撃パターンが変化し、スピードも上がるのでかなり距離を開けた。
しかし、今までより倍のスピードで連続攻撃をされ、避けきれなかった俺はあっさり死んだ。
一度ふて寝して翌日に持ち越し、成功するまでに結局あの後3回かかった。同じボス相手にトータル7回だ。やっと解放された感が強い。
成功した時のテンションのまま編集まで行ったので完全に寝不足である。土曜日曜とロクに睡眠を取れていない。
閉じそうになる瞼を擦りながら、大学への道のりを歩いた。
今日の講義は全部爆睡しそうだな。
「おっす!動画見たぞ!」
「びっくりした。後ろから現れんなって」
寝不足で頭が回ってない時に大きい声を出さないでほしい。
「わりぃ、わりぃ。今回の動画なんだけどさ、よくナイフ縛りでクリアできたな。カットされてたけど時間どんくらいかかった?」
「トータル20時間ちょい。成功したのだけだと4時間」
「よくやるねぇ。ほんとその才能でオフゲーしかやらないのもったいねーって。なんで流行りのオンラインゲームやらないの?」
「知らない人がいっぱいいんの怖いじゃん」
「……どこが?」
「昔長時間ボス独占すんなって怒られたんだよ。しかもその後粘着された」
「あー……」
あの時は確か2時間くらい挑んでたんだっけか。ナイフ縛りやって長時間ボスを独占した俺も悪いが、あーいうのは早い者勝ちだ。文句ならそういう仕様にした運営に言ってほしかったし、掲示板に晒してログインするたびに絡む必要は無かったと思う。
「あと、オンラインゲームって基本周回できないじゃん。リセットが無いから」
「最近のオンラインはボスは入場式になってるから他のパーティと時間重なっても問題無いし、EGOなら倒したボスでも繰り返し挑めるぜ!」
「エゴ?」
「知らないのかよ。今話題のゲームだぜ?」
「知らないな。オンライン要素のあるゲームに興味ないから」
「えーマジか。とりあえずやってみれば?オンラインも昔とは環境違うんだからさ。そうだ。今度誕生日だったよな?なんなら俺がプレゼントするよ」
「要らないが」
「そういうなって!俺もお前と一緒にやってみたいからさ。とりあえず1時間だけとかでもいいし!」
「どうせやらないから要らないって」
と、この時ハッキリと俺は断ったはずなのだが、爽真はソフトのギフトコードを送りつけてきた。
何故そんなにやらせたいのか。ソフトを送られてしまっては、流石に無視できない。
……仕方ないから1時間だけでもやってやるか。それでいいって言ってたし、やっぱり合わなかったって言えば満足するだろ。
ギフトコードをアカウントに登録して、VRの本体を頭にセットする。
新しくダウンロードしたEye of Glaia Onlineを起動させるとプレイヤー名の入力画面になった。
……いつも使ってるノスリでいいや。
名前を決めると、デフォルメされた自分の姿が目の前に映った。次はアバターの設定らしい。
オンラインということで、絶対に身バレしたくない俺はかなり元の容姿からかけ離れ、尚且つどこにでもいそうな茶髪の姿にした。
続いての設定は職業だ。
剣士見習いや僧侶見習いなど、ありふれた職業もあれば、鞭使い見習いとか格闘家見習いとかマイナーな職業もある。
戦闘職と生産職でそれぞれ10種類ずつあるようだ。
俺のプレイスタイルに1番合っているのは盗賊見習いで、これはメイン武器がナイフとなる。けど、ナイフ縛りって本来ナイフで戦わない場面でやるのが面白いのであって、最初からナイフメインになるのはちょっと違うんだよなぁ……
どうしよう……魔法使い見習いかな?
生産職を選ぶことも考えたけど、俺に何かを作れるとは思えない。一応生産職でも戦えるらしいが、まぁ無難に戦闘職から選んだ。
決定ボタンを押すと、“貴方の設定はこちらになりました。よろしいでしょうか?”と、名前、見た目、職業が表示された。魔法使い見習いを選んだからか、いつの間にかローブを着ている。
問題ないので次に進むと、プロローグ映像に入った。
そこそこ長かったので一言でまとめると、邪神を復活させようと邪教徒が暗躍してるから救世主であるプレイヤーは頑張って防いでねって感じのオンラインゲームではよくあるストーリーだ。今の所このゲームが流行っている理由がわからない。
映像が終わると、気づいたら俺は森の中に立っていた。
「誰か!!!」
辺りを見渡していると、近くから女性の叫び声が聞こえてきた。
視界の左上にあるHPバーとMPバーのすぐ下に《チュートリアル:声がした方向へ行ってみよう!》という表記が現れる。
わかりやすい導入だな。




