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雨情  作者: 山神伸二
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雨情

 私は喫茶店の一席で窓から覗ける細やかさが降り注ぐ様子を眺めていた。あと二週間であった。

 当日も足元はよくないのか。それとも季節に似合わぬことになるのか。しかし、それも乃亜次第で決まるのであろう。

 しかし、乃亜にとっても驚愕するかもしれない。彼女にとってはショックなことかもしれない。しかし、私は何年もこの思いは潜めていたのだ。タイミングとしては今以外に無いように思う。

 私の思いは陰湿さを混じらせたものに変わっていきそうになっていた。そうなる前に輝かしいものへと昇華させておきたかった。しかし、それができなかった場合、私の陰湿は過激を増しそうにもなるのだ。私は何よりもそれを恐れた。そしてその過激な行いが私に一瞬のスリルと興奮を与えてしまうのは明白だった。

 憐れな乃亜を自分のものにしたい。だが、それは自分の存在を彼女にも渡す事になる。つまりはお互いがお互いの奴隷になるのだ。私はそれを歓迎していた。今、私を支配する乃亜の存在を私は支配もしたかった。しかし、そのどちらの行為にも高揚を感じ得た。

 四兄弟の末に生まれ、親や上の兄弟に可愛がられてきたが乃亜と出会ったのは学生の時であった。上の兄弟とは歳が離れているからか、私には随分彼女が大人びて見えた。その時は乃亜は私の友人と付き合うまでおり、私も乃亜の友人と付き合っていた。やがて卒業し、社会人になったあと、私達はそれぞれの恋人と別れていた。私は仕事で鬱になり、転職をうまくやり遂げたが、乃亜は転職をうまくやり遂げられなかった。前職は連休禁止という職場の中、上司からのハラスメントの後に退職し、彼女はその後、三つの職を同時に受け持つ事になった。

 その一つが水商売であった。清純といった印象を持った乃亜が男の性を受け入れる仕事に就く事に私はショックを受けながらも一種の興奮も受け入れた。私自身も何度か乃亜の働く店に行くことがあり、二週間後に再び、乃亜の働く店に行く約束をしていた。

 どうも、乃亜は男によくモテるらしく、それも十歳以上歳の離れた中年、いくつか年下の男によく声を掛けられる。それは彼女が中年が好むエロティックな外見と心地良い軽さを持ったのと、若い男が好む姉のような包容力が理由なのでは無いかと思う。

 現に、水商売では中年の相手をし、同伴なども当たり前に行う。彼女の才能がこのような形で現れるとは私は意外であった。しかし、身体を触られるなどの被害も多く、性の対象として、親より歳が上の男から見られる事に私は憤りも覚えた。また乃亜が働く別の職場では上司から気に入られ、性的な言葉を受けたり、後輩の男にアプローチを受けたりと、乃亜は私の知らない所で様々な男と関わっていた。私はそんな乃亜を常に憐れに思い、私が彼女を守ってやりたいとも思っていた。

 全ては二週間後に掛けていた。私はそこが人生の分岐点とでも言うべき覚悟を持った。

 乃亜の姿を見ると思い出すのは、子供の頃の好きな女の子であった。

 小学一年生の時、隣のクラスだった細い目が印象的な知的な顔立ちをした背の小さな少女は私の目を引いた。成績も良く、硬筆、絵画に置いても才能があり、ピアノに関してもその年でトルコ行進曲を弾けるほどの才があり、私はしばしば自分がその子の足元にも及ばない事に心の中で嘆くほどであった。最初は好意よりも憧れに近かったのかもしれない。二年になり、その子と同じクラスになり、しばらくして隣の席になった。その子に好かれようと私はその子に様々な悪戯をした。ただ、どんな事をしたかは思い出せず、一度その事に対してよしてと今思うと子供とは思えぬような澄んだ掠れたような美しい声で言った記憶は鮮やかに残っていた。

 その子はやがて中学になった時に、不良行為に走ったりもしたが、元々の陥る事ない上手さを生かし立ち直り、その後、成人式に私の友人と再会した事で仲良くなり、恋人同士になり結婚した。

 私はその事を知ったのは二人が結婚した二年後であった。人伝に聞いたのではなく偶然であった。

 少女の頃の面影も残しながらも大人になったその子はその才を活かし、私とは違う綺麗な人生を歩み、時には不良行為の名残か煙草を吸っていたが、その事も大人になった私にまだ憧れを思わせていた。

 しかし、私はその子に対してただ嫌われる事しかしていなかった。もし、違った事をしていたなら、彼女の旦那になったのは友人ではなく私であったかもしれなかった。

 私のヤンチャは大人になるにつれ収まり、ただおとなしい弱い男へと成り果てた。

 そして乃亜を逃したら私はもうそれこそ、輝けるものは永遠に失うものと思っていた。

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