第七十三話 ロストテクノロジーの粋
量子物理学に従って振る舞う無数の素粒子などが、ガブリエルの脳とも言える大型量子回路で薄緑色の綺麗な光を見せている。無色透明な破れることがない硬膜を隔て存在するそれは、トウジにはこの世のものとも思えず、幻想的で美しかった。彼女の最中枢であるその構造体は楕円形で、金属、有機物、それに加え無機溶液など、様々な物質が旧時代のテクノロジーにより導き出された最適な配合で組み合わされ、構成されているようだ。
「見とれてる場合じゃないや。もう夜だ。早く原因を見つけないと」
休眠しているガブリエルの大型量子回路に、トウジは異常がないと感覚的に判断した。ロストテクノロジーの粋を使って作られたものだ。詳しい理論や構造など、彼に分かるわけはない。しかしながら、美しく回路内を振る舞う無数の量子群に、人間的な感覚から見て、故障は感じられなかった。
少し視点を変え、トウジは近くにある小型大容量メモリ群を調べている。当て推量でも見当をつけるしかない。彼の行いが良いのか、果たして、チェッカーを丁寧に用いた結果、メモリ群の一箇所に不具合を発見できた。この部分なら、今現在のアテナタウンの科学力でも、何とか修理が可能である。トウジは修理キットに用意していたメモリを取り出し、慎重に差し替えてみた。
「オペレーティングシステムを復旧しています……5%再構築」
「やったぜ! ビンゴだ!」
不可能かと前向きな彼も正直なところ思っていたが、ガブリエルは確かに眠りから覚め、自身を復旧させようとしている。大型量子回路を通る薄緑色の光も非常に活性化した明るさになった。トウジは成し遂げた満面の笑みを浮かべながら、ガブリエルの中枢からコントロールルームに急いで出る。
復旧が完了するまでその場に居る誰もが、大型モニターを見守っていた。夜は深まっている。しかし、眠りにつくのはガブリエルが目覚めるのを見た後だ。そして30分ほど経ち、その時は来た。
「83年眠ってしまいました……もう起きられることはないと意識を失う前に考えましたが、あなたが復旧してくれたのですね? ありがとう。私はガブリエルと言います」
「いやー、よかったよ! 俺はトウジって言うんだ。うまいこと直せて本当によかった」
洋風の白いローブを着た、美しく威厳がある女性がモニターに映し出されている。彼女がガブリエルのイメージのようだ。アテナのように優しく慈愛に満ちた彼女に対し、初対面だがいつものように屈託なくトウジは応えた。




