第二話 深夜の秘め事
軽めの戦闘しーんあり
深夜、大人も寝静まった時間。
僕はそっと家を抜け出した。
月明かりの中、僕は町の門へ向かう。
日中の家周りと、ミリィの奇行の性でクタクタだが、今からする事を辞めるつもりはない。
今日のご褒美といっても過言ではないからね。
数分、夜の町を歩いて門に辿り着く。
番兵の目を盗んで、抜け穴から外へ出る。
そして、近くの森へ入る。
今日の、暮らしを見て判ったと思うけど、僕はまだこの世界に来て、一度も人を殺してないんだ。
何でかって?
ん~。理由を上げるとしたら、面白くないからかな?
邪神ゼフィアさんには、殺し放題って言われたけどね。
それじゃあ前世とそれほど、大差ない。
規模は違うけど、組織でも虐殺は出来たしね。
そこで僕は、考えた。
暖かい家庭、おいしい料理、可愛い幼馴染み。
優しい町の人達。
全て、前世の僕には一度も味わえ無かったものだ。
だったら、この世界では、バレないように殺人を犯して、それでいて今まで通りの平和な日常を送っちゃおうと。
だって、その方がスリルがあって楽しいだろうし、僕の経験したことのない殺しが出来るかもしれないじゃん?
だから、最低でも僕が少年である間は、極力殺人に手を染めないようにしてるって訳。
殺したいと思う人もいないし。
でも、殺人狂の僕にとって、殺しは娯楽であり、生き甲斐だ。
十年も殺人を我慢してたら、きっと僕はストレスで死んじゃってるよ。
じゃあ、何故僕は死んでないのか。
幸い、この世界には救済処置があった。
森を奥へ奥へと進む。
目的地が見えてきた。
そこには、昼間の子犬──ンンッ!!……肉片が撒いてある。
この場所は、森の中でも比較的開けた広場で、僕がある目的のために良く使う場所の一つだ。
町の人たちは滅多にここまで入ってこない。
「ガツッ、?」
「ガァア?」
「アウッアウッ!」
──気づかれちゃったか。
そこにいたのは、三匹の黒い獣。
その内の一匹はまだ小さい。
子供かな?
だとすると、あの三匹は親子だね。
三匹の獣は、食事中に突然表れた、珍入者に向けて唸り声を上げて威嚇している。
邪魔されたのが気に食わなかったのかな。
「今日の収穫は三匹だけか~。しかも魔獣だし」
そう、こいつらは”魔獣”の一種。
ただの獣じゃない。
個体名は確か…黒狼だったかな?
「まあ、殺らないよりマシか」
うん。
これが、僕にとっての救済処置。
僕の殺人衝動の解消法は、この世界に数多と存在する魔物・魔獣を殺すことだ。
勿論、人じゃないから満足は出来ないよ?
でも、多少は気持ち的に楽にはなるし、戦闘訓練にもなる。
基本、こういった魔獣とかの存在は害悪とされてるから、それを片っ端から殺してる僕は、楽しみながら善行を積んでる事にもなる。
……流石に、この年からこんな危険行為を行ってるのがバレたら、両親からはキツイお説教が待ってるだろうけど。
「ガウッ!」
「おっと…」
一匹の黒狼が、僕を敵と認識して飛び掛かってきた。
僕は、しゃがんでそれを躱す。
「いきなりかい?」
大きさと、そのどっしりとした佇まいからして、多分オスだ。
てことは、あっちで子供を守るようにして僕を威嚇してるのはメスかな。
三匹の黒狼は、僕を中心に円を描くように周囲を駆ける。
この手の魔獣がよく使う、狩りの常套手段だ。
こうやって徐々に獲物を追い込んで、死角から同時に飛び掛かって来る。
「はあ、やっぱり今日は外れだな~」
見慣れた光景に飽き飽きする。
この攻撃の対処は、最早お手の物だ。
目を瞑ってでも出来ちゃうかもね。
今日はハズレ。
殺人衝動を緩和するのは難しそうだ。
溜息をついている間に、円の半径は一メートルを切った。
逃げ場は無い。
まあ、だから何だって話だけど。
僕は、この無駄な戦いを早々に終わらせるべく、得物を取り出す。
「【再現】」
突如として、僕の手に現れた一振りの短剣。
そして投擲。
「キャウン!」
見事、疾走する子狼の眉間に命中。
短剣が刺さった勢いで転倒、そのまま動かなくなった。
「「ガアァアアアアアア!!」」
直後、子供の死に激昂した二匹の黒狼が死角から襲いかかってくる。
死角から来るって分かってる時点で、最早そこは死角には成り得ないんだよ?
今度は、両手に一本ずつ短剣を【再現】する。
そして、黒狼の牙と爪が僕に届くかと思われた瞬間──
「!?」
「ガ!?」
オスの頭部が胴体と切り離され、メスの脳天に深々と短剣が突き刺さる。
二匹の黒獣は襲いかかる勢いそのままに、地面へ落ち、やがて動かなくなった。
「ふう、終わった終わった」
左手の短剣を地面に捨てる。
途端に、短剣は存在そのものが嘘であったかのように、消えて無くなった。
オスの黒狼から吹き出した鮮血を被ったせいで、体中がヌルヌルする。
べっとりと顔に張り付いた血を袖で拭き取る。
「…やっぱり、獣臭いとそれ程昂ぶらないなぁ。…【再現】」
お手伝いさんが使用してる生活魔法【洗浄】と【掃除】を【再現】する。
途端に、血で黒く染まった髪や服が、戦闘前の綺麗な服に戻る。
同時に、黒狼の死骸が跡形もなく消失し、辺りに漂っていた死臭も綺麗さっぱり消え去る。
後片付けはしっかりしないとね。
「はあ、魔物は狩り尽くしちゃったのかな」
ここ最近、魔物(魔獣との区別は人型か否か)との遭遇率は激減してる。
まあ、毎日こんな事を続けてるから、当然といえば当然なんだろーけど。
今日だって、餌まで撒いたのに釣れたのはたったの三匹だしね。
労力に釣り合ってないと思う。
「とにかく、今日はもうお終いかな?」
本当なら、もう少し獲物を探したいけど、残念ながらタイムアップだ。
余り長く部屋を留守にするのは得策じゃないし、子供の体力ではこの時間までの活動は、正直辛い。
辺りを見回して、戦いの形跡を消してから、帰路についた。
次回 お手伝いさんの名前が明らかに