第三話 曲者
新キャラ登場
──翌朝
「ん…。ふぁああぁ…」
階段を上がって来る音に目を覚ましてベッドから体を起こし、凝った筋肉をほぐすように欠伸をする。
昨日は、部屋に帰ってきたと同時にベッドにダイブ。
泥のように眠った。
この子供の体では、夜の活動まですると体力が持たない。
どうにかなんないかな~。
──コンコン
扉がノックされる。
「どうぞ~」
「失礼します」
扉が開いて、黒髪の若い女性が部屋に入ってくる。
俗に言う、メイド服って奴をその身につけている。
「おはようございます。アル君。昨晩はぐっすりだったみたいですね?」
「うん。家周りをした日はいつもああだよ」
形式ばった挨拶もそこそこに、素に戻る女性。
彼女の名前は”イルマ”
我が家で働くお手伝いさん──所謂、家政婦だね。
「イル姉も、今朝は早いんだね?」
彼女の出勤時間はもう少し後の筈だ。
因みに、血は繋がってないよ?
僕が親愛の意味を込めて勝手に呼んでる。
「ええ、アル君の寝ぼけた顔を見たかったのと──」
僕の目の前を通って部屋の窓へ近づくイル姉。
カーテンが開かれ、窓が開け放たれる。
差し込んだ光に目がくらむ。
念のため言っておくけど、僕はイル姉の事が好きじゃない。
”親愛”って気持ちは上辺だけ、僕がイル姉に感じているのは”警戒”だ。
いつもは、雰囲気ほんわか優しいお姉さん感出るから、油断しがちだけどね。
こうやって二人きりの時はお互いに少し素がでる。
窓を開けた彼女は、振り返ってニコリと微笑む。
「部屋の換気の為です♪」
「・・・」
ちっ。
今日も気づかれちゃったか。
ゆっくりと僕に歩み寄るイル姉。
顔を近づけて、耳元で囁く。
「御遊戯も程々にしてくださいね? アル君。今日は犬さんの血の匂いがしますよ?」
「・・・」
そう、イル姉は僕の習慣に気付いている。
勿論、他の人には匂いがどうとかは分からないよ。
【洗浄】は匂いまでしっかり取り除くからね。
だから、その臭いとやらを感じ取れるイル姉は要注意人物だ。
まあ、今の所誰かにバラそうとか、僕に不利益になるような行動は起こしてないんだけど。
起こしてたらとっくに殺してるし。
沈黙だけじゃ、負けたみたいでやだな。
ここは、無難に返事しとこう。
「分かったよ! イル姉!」
前世で幾度となく使用してきたショタっ子スマイル。
これで大抵の女性は、猜疑心や警戒心が薄れて、心を簡単に許してくれた。
たまに、男性にも使えることがあったけど、詳しくいうのは辞めとこう。
まあ、今世でも、その効力は健在で、母さんを始めとして近所のご婦人方からはちょっとしたアイドル的な扱いを受けている。
……自分で言ってると恥ずかしいな。
そんなこんなで、このスマイルは僕の暗殺技術の一つでもあるんだけど……。
「フフフッ。本当、末恐ろしいですね。」
イル姉には全く通じない。
それどころか、この笑顔の効力とその裏にある僕の黒い部分、殺意と警戒心まで読み取ってる気さえする。
その内、僕の本性にも気付いちゃうんじゃないかな?
全く、とんだ曲者がいたもんだよ。
平和な日常に潜む家政婦は、なんだかんだでちょっと楽しいから良いけどね。
やっぱり何事にもスパイスは必要だと強く思うな。
「アハハハハハ。イル姉がそれを言う?」
「ウフフフフフ。ご冗談を」
お互いにしばらくの間、笑い合う。
「アル~! ご飯出来たわよ~!!」
その、二人の時間は、階下から聞こえた母さんの声で唐突に終わりを告げる。
美味しそうな匂いがここまで漂ってくる。
今朝は、昨日の晩ご飯の残りかな?
「さあ、行きましょうか。坊ちゃん」
仕事モードに戻るイル姉。
僕は黙って差し出された手を取る。
「あ、ちょっと怒ってます?」
「え? 怒ってなんかないよ~」
握る手に少し力を入れながら、僕等は部屋を出た。
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