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人格破綻者の異世界放浪記  作者: テケテケさん
一章 クラム編
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第十五話 八咫の後継

 『どうもはるばる御足労いただき、ありがとうございました。時間ピッタリですね♪』


 邪神が、一羽の鴉に感謝を述べるという珍妙な光景が何ともシュールな雰囲気を醸し出している。


 『ふん。相変わらず気味の悪い笑みを浮かべよってからに』


 鴉が、不機嫌そうに鼻を鳴らす──ように見えた。

 まあ鳥だからね鼻、鳴らせないし。

 実際、不機嫌なんだろうけど。


 そして、鴉の双眸が僕を捉えた。

 同時に、驚きで目を見開いた──ように見えた。

 

 『なっ!! お主、もしや邪神の子か!?』


 ええ…。

 心外だなぁ。

 僕の何処をどう見れば、ゼフィア《邪神》の息子だなんて言えるんだ。

 …あ、よく考えれば同じ銀髪だった。


 鴉の反応が余程面白かったのか、クスクスと笑い溢すゼフィア。

 その笑顔は、心なしかいつものように作ったような笑みではないように思えた。

 少し、嬉しそうに見えたのは気のせいかな?


 

◆◆◆◆


 『さて、こちらにいらっしゃいますのが、今回あなたに力を授けて下さる八咫鴉──通称ヤタさんです』


 『ワシをそう呼ぶのはお主だけじゃ、邪神…。わっぱ、此度は宜しく頼むぞ』


 ──こちらこそ、宜しくお願いします。


 八咫鴉──確か、とある国で太陽の化身として祀られている、三本足の神獣だったっけな。

 そういうことに詳しくないから、よくわからない。

 その神獣さんがどうして邪神に協力しているのかは、謎だ。

 その理由は知らない方がきちな気がするけどね。

 まあ、ヤタさんがその神獣と同一人物……同一鴉なのかは決まったわけじゃないけど。


 『ふむ……。やはり、何処からどう見ても邪神と同質…いやそれ以上じゃな』

 

 『でしょう? 自慢の息子(笑)ですよ』


 心底感心した様子で、僕の様子を観察するヤタさん。


 どうやら、僕を邪神ゼフィアの子だと認識したのは容姿的な要因ではなくて、僕の持つ魔力の質──ゼフィアさんが言う所の”本質”──が、彼女のそれに酷似しているからだった。

 僕自身、まともな人間じゃない自覚はあるけど、邪神と同一視するのは辞めて欲しい…切実に。


 ──あの、そろそろ…。


 『む、ああ、すまなかった。ちと、好奇心が勝ってしまってな』


 要件まで心の中で言わずとも、こちらの意を汲んで観察を辞めてくれるヤタさん。

 表情はわからないけど、その言葉から”またやってしまった”と少し、はにかんでいるように見える。

 …なんだろう。

 どっかの邪神よりよっぽどヤタさんの方が人間的な感情に溢れてるかもしれない。

 鴉なのに。


 

 『そうですね。時間もありませんし、早いとこ済ましちゃってください』


 瞬間、ヤタさんがゼフィアを睨む──ように見えた。

 

 『全く、他人事だと思いよって……童!!』


 ──はい!!


 睨むような視線が、今度は僕に向けられる。


 『今から、ワシはお主と融合するが異論はないな?』


 ──はい!! 


 って…え? 融合?


 『よろしい、ではこれからワシは己の命を持って、お主を『半妖』へと転化させる』


 ──待ってください! 融合? 命? 半妖? なんの事やらさっぱりです!!


 『む? 説明を受けておらんのか? ……邪神?』


 『…すみません。すっかり忘れてました』


 またですか。

 ゼフィアさん…。

 説明はしっかりしてくださいよ。


 ヤタさんは溜息を吐く素振りを見せて、こちらに向き直る。


 『要するに、言葉の通りじゃな。ワシは自身の命ごと、お主と融合する。そして、お主は”半なる妖魔あやかし”──『半妖』となり、人を超越した力を手に入れるわけじゃ』


 ──命ごと……あなたはそれでいいんですか?


 ヤタさんは笑った。

 比喩でも何でも無く。


 『カカッ、たかが一匹の鴉の命を気にかけよるか。なに、気にするな。どちらにせよ、あと数刻の命よ。何千万といた眷属達も遂に滅びてしまったしの。まあ、要するに隠居じゃよ。後継・・に後を託してのな』


 後継・・の部分で僕の顔を凝視した辺り、ヤタさんがゼフィアに協力する理由がわかった気がする。

 要するに、彼(?)は跡継ぎを探していた。

 それで、僕に白羽の矢が当たった。

 そういう理由かな?

 憶測だけどね。


 ──そうですか。では、お願いします。


 『うむ。少々痛みを伴うが……我慢せよ』


 ヤタさんが言葉を言い終えると同時に、ヤタさんを中心として闇が吹き荒れる。

 ヤタさんは静かに詠唱を始めた。


 『我、天照大御神の密約より、ここに妖なる誓いを示せし──我、腐肉を漁る。我、本質を見抜く。我、闇夜を駆ける。我、月を讃える。我、太陽を崇める。我、邪なるものを導く。我、老いいず。我、死なず。我、八つの誓いを守る──これ破りし時、我なる八咫の後継……肉体を補いて、汝に与えん!』


 詠唱を終えた途端、指向性なく周囲を吹き荒れていた”闇”が僕へと殺到する。


 ──ドクンッ!!


 何かが僕の体へと混ざって合っていく感覚。

 内側から、その何かによって僕の体が変質していくのを感じる。

 細胞の一つ一つが体のの中で暴れ狂う。

 

 うぐっ…これは、結構辛いな。


 下手をすれば、意識ごと持っていかれそうな激痛。

 まるで、襲い来る”闇”によって体が塗り潰されて行く感覚。

 仕舞いには、僕の周囲は深い闇によって暗闇に閉ざされてしまった。


 このまま…じゃ…マズイ…!!


 暗闇に自我ごと、精神を喰われる。

 そんな恐怖が身を襲う。

 徐々に意識が失われる中、思い出すのはミリィの姿。

 馬鹿だけど、いつも明るくて太陽のような少女。

 別れ際に耳に届いた、彼女の悲痛な叫び。


 『いゃぁあああああ!! アルくーーーーん!!』

 

 そう…だ。

 僕は……こんなとこで…消える…わけには……いかない…!

 もう一度…彼女の…笑顔を見るまでは!!!!!


 不思議と、力が湧いた。

 まるで、闇一色だった周囲に明かりが灯ったように…。

 僕は、自然とその明かりへと──右腕・・を伸ばした。


 ──闇が晴れた。


 『ふっ、耐えよったか……わっぱ。全く、末恐ろしいの。

我の肉体と邪の感情に…適応するほど精神が()()と化しているとは……。肉体も…再生したようじゃ。…八咫の後継として…精進せい、わっぱ


 闇が晴れた先で見たのは、砂のように崩れゆくヤタさんの姿、その声は…孫に声をかける遺言のように…慈愛に満ちていた。


 ──はい。


 最期に、ヤタさんは笑った──ような気がした。

 風の無い空間、だけどヤタさんだったモノは風に舞うように上へと昇っていった。


 …ほんの短い付き合いだったけど。

 とても身近な人──鴉を亡くした気がする。

 これも、僕に訪れた変化の一片なのかな。


 再生した右手で、自分の胸をそっと触れる。

 とくとくと小気味よい、一定のリズムでなりつずける鼓動に、”生”を実感する。


 『おめでとうございます♪ これであなたは神をも殺める力を手にしました♪』


 そこに、ゼフィアの声が響く。

 ヤタさんが死んだ事に、一ミリも動じてない。

 ホント、神ってのはここまで無慈悲なものなのかな。


 「ありがとうございます。ゼフィアさん」


 失っていた部分が再生したため、苦労する事なく言葉を発せた。


 『あれ? なんかちょっと怒ってます?』

 「いえ」


 おっと、僕としたことが感情を表にだしちゃった。

 慌てて表情を取り繕う。


 『……まあ、いいですよ。フフッ♪ 良心を持ち、人を思う心まで持っていながら、なお、殺人に手を染め続ける……あなたは本当に狂ってますね♪』


 元より、僕が狂っているのは承知の上だ。

 そんなことより今は──


 「早く、僕をあの場所へ戻してくれませんか? 少々、ぶっ殺したい奴がいるので…」


 真っ直ぐに、ゼフィアの元まで空間を歩いていき、彼女の目を見据える。

 今の僕の身長は、七歳児相当のものなので、必然的に彼女を見上げる形になる。


 そんな僕に、彼女は穏やかな笑みを浮かべていった。


 『わかりました。では、目を閉じてください』


 言われた通り、目を瞑る。

 すると、徐々に意識が薄れていくのを感じる。


 『いってらっしゃい♪ どうぞセカンドライフを満喫してください。次会うときは、あなたが大事なモノを失うとき──』


 彼女の言葉を聞きながら、僕は意識を手放した。


 ──待ってて、ミリィ。

いつの間にか、PVが10000を超えてました!


ありがとうございます!!

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