第十六話 醜愛
夜の森、月明かりが照らす穏やかな河川に広がる鮮血。
その岸に、巨大な斧を肩に担いだ大男──豚のような容姿をした──がいた。
その男は、ただでさえ醜悪な顔に歪んだ笑みを浮かべて、赤色に侵食されていく川面を眺めていた。
◆◆◆◆
「フン……ヤットクタバッタカ」
ホント、ちょこまかとしぶてぇガキだった。
まさか、洞窟の調査を無事に終えたと思ったら、あんな化け物に出くわしちまうとは…。
俺の攻撃を二度も避けた上に、最期の騙し討ちにまである程度反応してやがった。
ありゃ人間じゃねえ。
力を解放した俺とあそこまで長く戦えたのは、ガキではあいつただ一人だ。
なかなか面白い時間だったな。
ま、それももう終わりだろうが。
俺の攻撃を喰らったあと、爆風に吹き飛ばされて奴はこの川へ落ちた。
しかも、比較的深くて流れの緩い場所に……。
いくら、あのガキでも大怪我を負った身で、襲い来る水圧と剥き出しの傷口に触れる冷水が引き起こす激痛を耐え続ける事など不可能。
それにこれだけ血を失っていれば、もはや体も動かねえだろう。
奴が川へ落ちてから既に十分が経過した……つまり、生存の可能性は”0”だ。
俺は川から目を逸らし、遠くで倒れている首無し死体を見やる。
その死体が生きていた頃の名をエルム。
俺の相棒だった。
奴は人間にしては珍しく、話のよくわかる奴で腕っ節も確かだった。
特に、職業:魔物使い〈子鬼〉のスキルで呼び寄せたゴブリンを呼び寄せての集団戦法はここぞというときに光るモノがあったと思う。
加えて俺よりも頭のできが良く、知略にも長けていた。
そんな相棒も、たかがクソガキ一人にあのざまだが…。
所詮は人間の枠に収まる程度の輩だったって事だ。
…さてと、そろそろ帰るか。
結局、ここに調査に来た目的である、相棒のゴブリンが洞穴から姿を消した理由はわからなかったしな。
それに、あのクソガキのことや、相棒が死んだ事なんかも組織に報告しなくちゃなんねえ。
ちっ、めんどくせえな。
まあ、その前に…ご褒美は必要だと思うが。
俺は大股でその場を移動して、川の浅瀬で佇んでいるメスガキの元へ向かう。
「嘘だよね…アル君……嫌だよ…死んじゃ…やだよ」
こいつは、さっきのクソガキの連れだ。
俺が奴を川へ沈めてから、こうして川上から流れてくる奴の血を掬い上げてはこの言葉を呟く事をを繰り返している。
一時的にだが、完全にぶっ壊れてやがる。
まあ、この絶望ぶりからみるに…このメスガキが奴に抱いていた感情は推して知るべしだ。
まあ、あのガキがこいつにそういう感情を持ってたかって聞かれると…何とも言えねえがな。
無感情で人が殺せるガキに、まともな恋愛が出来るとはおもえねえ。
まあ、この際そんなことはどうでもいい。
大事なのは……このメスガキが中々整ったツラをしているという事。
そして、俺が重度のロリコンだということだ。
あのクソガキには言ってなかったが…俺の中に流れている魔物の血、それは──オーク。
オークとは性欲の権化であり、溜まった性欲に比例して戦闘力が上昇する習性を持っている。
言わずとも、その習性は俺に受け継がれている。
俺の性欲の溜まり具合は、あの怪物を無傷で殺した事から明白。
要するに、俺はこのガキを犯したいってわけだ♪
「オイ、メスガキ。コロサレタクナカッタライウコトヲキケ」
ま、殺すわけねえけどな。
これは魔法の言葉だ。
こうやって脅しをかけるだけで、大抵の女子供は大人しくなる。
そして、俺の剛直した物を受け入れれば最期、快楽の虜となり、己の身が果てるまでケツを降り続ける淫獣と化す。
へへっ。
このメスガキの絶望に染まった顔を、快楽で歪ませる事が出来たら、さぞ快感だろう。
加えて、あのガキから寝取ってやることを考えると……もう堪んねえ!!
全く反応のないそいつへ、我慢できなくなった俺は手を伸ばす。
しかし、予想外の反撃が身を襲った。
「いやぁあああああああああああ!!!!!!」
「グオッ!?」
半ば、魔物化した影響で聴覚が良くなっていた俺にとって、超音波のような悲鳴は効果てきめんだった。
くそっ、このガキ!!
「ダマレェエエエエエエ!!」
「きゃあ!! ──っ!……」
やべっ、思わず殴り飛ばしちまった。
加減はしたが、吹っ飛んだ先で木の幹にぶつかったようだ。
糸が切れたように動かない。
「チッ…!」
俺は、川から上がって斧を拾いあげ、メスガキの安否を確認しに向かう。
そして、そいつの胸が上下しているのを確認する。
「ハッ、キゼツシタダケカヨ」
そうと決まれば後は早い、意識がない内にヤっちまおうか♪
さっきみたいに反撃を喰らうのもこりごりだし、この機を逃すことはないだろう。
そうして、俺は無防備なメスガキへと手を伸ばし……。
「ミリィに…触らないでください」
「──ア?」
まだ幼い、それでいて殺気をふんだんに孕んだ声と共に、月が雲でかくれたのか、ふっと辺りに影が差す。
この声……まさか…!!
俺は、自分でも驚く程のスピードで声の聞こえた方へ振り向く。
「ア、アリエネエ…ナンデイキテヤガル」
そこには、俺に一撃を与え…エルムを殺し、先程俺に殺されたハズのクソガキ──化け物が立っていた。
そして、俺の問いに奴はこう答えた。
「人間……辞めましたから♪」
言葉を言い終えると共に、奴の背中から一対の翼が現れ、右眼が紅黒く光る。
同時に、隠れていた月が顔を出す。
──雲が晴れ、月に照らされたクソガキの狂気を帯びた笑顔は、確かな恐怖として、俺の脳裏に刻み込まれた。
次回 半妖vs半魔
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