第1話 新学期、新生活は出会いの季節
春は、出会いの季節……。
季節は春。
俺の名前は〈緑ヶ丘 優作〉。
今日から高校生。
華やかな船出の日となるはずだったのだが……。
「リンリンリーン リンリンリーン」
俺の部屋に、目覚まし時計の音がこだまする。
まだ寝ていたいと心底思っていた。
何故なら、昨日は春休みという天国の最終日。
最終日にもかかわらず、俺は深夜まで友達とオンラインゲームをやり込んでいたからだ。
そんな俺の「寝ていたい……」という思いとは関係なく、目覚まし時計の音と、カーテンの隙間から部屋を照らす朝の日差しが、俺を襲ってくる。
こんな時、世の学生はみんな思う……。
「昨日、早く寝ればよかった……」と。
そんなことを思っても、1日は既に始まっている。
俺は、重たい足を引きずりながら、洗面台へ向かった。
冷えた水で顔を洗い、無理やり脳を起こす〈打ち水作戦〉である。
「優作ー、起きたのー? 昨日も深夜まで、ゲームしてたでしょ」
「母さん……おはよー。ちょっとだけね」
「ちょっとだけって……通話の声が丸聞こえだったわよ? 深夜2時がちょっとな訳ないでしょ?」
母さんに、ゲームしていたことがバレていたのか。
昨日は、学校が始まる前日ということもあったから、小声でゲームはしていたはずなのに。
俺は、少しだけ目が覚めた状態で、朝ごはんを食べるために、リビングへ足を運んだ。
「イヤホンしていると、自然と声は大きくなっていくものだよ? 優作」
「姉ちゃん……おはよう」
俺の姉の〈香澄〉が、先にご飯を食べ始めていた。
「優作? ゲームするなとは言わないけど、もうちょっと小さな声で話してくれないかな?」
お姉ちゃんからの有無を言わさぬ笑顔の圧であった。
それもそのはず、隣はお姉ちゃんの部屋であり、彼女が一番の被害者なのだ。
「き、気をつけます……」
俺は、頭を軽く下げた後、椅子に座りご飯を食べ始めた。
俺たちは4人家族であるが、父さんは、先に仕事に出てしまったため、今朝は3人でご飯を食べている。
「そういえば、隣の白原さん! 帰ってきたみたいよ?」
母さんが机をポンと叩き、まるで思い出したかのように話し始めた。
ポンと叩いて発言するのは母さんの癖である。
突然やられると、ちょっとびっくりしてしまう。
「え? 白原さんが?」
お姉ちゃんも口角が緩み、自然と笑顔になっていた。
「それがねー? 華恋ちゃん、とっても可愛くなっちゃって……びっくりしちゃったの!」
「えぇーそうなの? 優作! 挨拶してきなさい」
母さんと姉ちゃんが、女子トークを始めた。
俺に、「挨拶に行け」と視線を送ってくる……。
可愛くなった……か。
俺は、その言葉をイマイチ信用できなかった。
その子とは、幼馴染として仲が良く、隣同士の家ということもあり、両親同士も仲が良かった。
華恋はなかなかクセが強く、口も悪くてガサツ。
俺も彼女には、女の子というよりも男友達のように接していた。
遊ぶと言ったら虫取りだったり、いじめっ子が公園で偉そうにしていたら、注意しに行くなど、正義感もなかなか強かった。
俺が周りの目を気にして、彼女と少し距離を置くようになってしまった矢先、小学六年生の時に白原家は引っ越してしまった。
家族ぐるみで仲の良かった白原さんたちが、また隣に戻ってきたというのか。
俺は無意識に、隣の家の方角へ視線を向けていた。
「わ、わかったよ……学校から帰ったら、挨拶してくるよ」
「ちゃんと行ってきなさいね?」
俺は母さんに釘を刺された。
正直面倒だな……と思いながらも、渋々頷いたのであった。
◇
俺は、朝ごはんを食べ終え、新しい制服に身を包み、東青葉台高校へ向かった。
その通り道にある、2階建ての〈白原家〉の表札を見た。
以前まで埃がかぶっていた表札は、ピカピカの新品のように磨かれていた。
――3年ぶり……になるのか。
華恋が可愛くなった……いくら興味がないと言っても、幼馴染の変貌は、多少なりとも気になった。
家の外観を見ていると、2階のカーテンが揺れた気がした。
――やべ、ジロジロと見過ぎたか……。
俺は、学校へと歩みを進めた。
東青葉台高校まで、あと少し……というところで、後ろから俺を呼ぶ声が聞こえた。
「よぉー! 優作ー!」
その声と同時に、俺は背中からどつかれた。
「痛って!」
「あー、ごめん! 力強すぎたか」
「力加減、考えてくれよ……西川」
彼の名前は〈西川 悟〉。
中学からの友達で、高校でも同じ学校に通うことになっている。
「相変わらず、昨日も遅くまでゲームしてたのか?」
「あ、あぁ……昼夜が逆転してたからね」
この西川とも、よくゲームをする仲である。
昨日は、今日から学校ということで、お断りの連絡を貰っていたが。
「同じクラスになれると良いなー」
「えぇー? 中学でも3年一緒だったから、もういいよ……」
「酷くない!? 仲良くしてよー! 優作ー!」
俺は思わず、フッと笑い声を漏らしてしまった。
西川とは中学の頃からよく話していた。
俺が「この高校に行こうかなー」と西川に話した時、「じゃあ俺もここにするわー、家近いし」と、成績的にはもう少し上の高校も狙えたのに合わせてくれた。
なんだかんだで気のいい奴なのだ。
「なあ、優作。コンビニで飲み物買ってっていいか?」
「な、なんで初日の登校から寄り道するんだよ」
「だって、中学の時は、寄り道禁止だったじゃん! なんか優越感あるだろ?」
確かに中学では、登下校の際の寄り道は、禁止されていたが……。
そうは言っても、入学式の朝に寄るものではないだろう……。
俺は、西川の圧に押され、仕方なくコンビニに寄ることとなった。
◇
「いらっしゃいませー」
コンビニに入ると、店員さんが元気よく挨拶をしてくれた。
俺は、西川に「時間がないから早くしてよ」と念を押した。
西川の買い物が終わるのを、店内をうろつきながら待っていると、新作の緑茶を見つけた。
俺はジュースよりお茶派で、この新作には興味津々だったのだ。
買おうかと冷蔵庫の扉を開けたまま迷っていると……。
「あの……こちらの飲み物、取ってもいいでしょうか?」
後ろから、俺に声をかける女性。
「あ、はい……ごめんなさい……」
と、慌てて振り返った俺は、思わず言葉を失った。
その女性は、俺よりも身長が低く、ショートカットで茶髪が良く似合う、少しタレ目がちな清楚な見た目をしていた。
至近距離で見つめてしまったせいか、心臓がドクンと跳ねる。
――それは奇跡的なくらい、俺のドストライクな容姿だった。
なにより、一番驚いたのは……。
――同じ制服を着ていることだ。
東青葉台高校に、こんなストライクな女の子が通っているのか?
そして、その女性は俺の脇からすっと華奢な白い腕を伸ばし、俺が悩んでいた緑茶を躊躇なく自分のカゴに入れた。
その瞬間、彼女の肩が少しだけ俺の腕に触れた。
「ありがとうございます……」
そのまま、彼女はレジに向かって行った。
彼女が通り過ぎた瞬間、柑橘系の爽やかな香りが、ふわりと鼻をくすぐった。
俺は今……見ず知らずの同級生相手に、柄にもなくドキドキしている。
――あれ!? 俺気持ち悪い……。
見ず知らずの女子に一瞬で心奪われた俺の理性は、今日、逮捕されたほうが良いかもしれない。
今回から、新作投稿を開始しました。
優作は、同じ学校に通う彼女に一目惚れをしてしまう……。
作者は、一目惚れすることは学生時代に経験があります。
そして、卒業まで片思いで終わりました……優作は、その彼女に片思いのまま、終わってしまうのか。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
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