教えてユニィ先生 vol.4
僕は涼しい顔で天井に立つユニィを見上げている。
いつの間にNINJAの技を会得したのかな――なんてことは、もう思わない。
ただ、口を開く。
『先生! 僕ずっと思ってたことがあるんですけど、聞いても良いですか?』
時々夢に見る、現実ではありえない光景。
最近ではすっかり慣れてしまって、夢だと気付いた瞬間に質問をぶつける。
この日も――そんな夢を見た日だった。
「そんなに改まってどうしたの? らしくないですよ、リーフェ君」
優しく微笑んでいるだろうユニィ先生。
逆さになるだけで、なぜこんなに怪しくなるのだろう。
僕は首を振りその疑問を振り払うと、ずっと抱いていた――世界の裏側に行ってから、よりその違和感が増した――疑問を口にした。
『世界が円環ってどう考えてもおかしいですよね? 世界は球体じゃないと変ですよね?』
――固まる先生の笑顔。
でも僕は、今さらそんなパフォーマンスには騙されない。
『それに――僕知ってるんです。重力って世界の中心に向かって引き寄せられる力なんですよね? だったら――世界の裏側に行った時って、天井に立ってるようなものでしょ? 上に向かって落ちないと変じゃないですか』
自分でも驚くほどの長台詞でここぞとばかりにまくしたて、そのまま先生の目を見詰める。
そんな変な事は夢の中だけで十分だ。
先生は諦めたように真顔になり――一つ溜息を吐いた。
「リーフェ君。あなたマーロウ氏が世界の裏側で伝え聞いた《再世の記》は知っているのかしら?」
『もちろんです』
本当はもうほとんど忘れてるけど、確か。
凄く悪い存在が居なくなって、その後始末に苦労したとか――そんな内容だったと思う。
「それなら話は早いですね。球体だった世界が穿たれ円環と化した時――世界に働く重力も大きく狂いました。具体的には、赤道付近の重力が今の1/4ぐらいになってしまったんです――当然ですね。世界が軽くなったんですから」
――全く当然じゃない。そもそも世界が穿たれ――って、あれってそんな話だったっけ?
僕は知ったかぶりをしたことを少しだけ後悔した。
だけどそんな僕の内心にはお構いなく、先生の話はなおも続く。
しかもいつの間にか腕を上げ、目一杯広げて――だ。
うん。もちろん逆さだけど。
「ですので、世界を復旧する時に『力』――黒属性の持つ重力の操る力を利用した、重力発生機構が構築されたんです。幸い、穿たれた場所には「空隙を満たすもの」で溢れていますから、それを残された円環の中心に流すだけでよかったんです」
『そうか――そういう事だったんですね。先生』
僕は覚悟を決めた。
そう――もうこのまま押し通すしかない。
世界には訳の分からないことが溢れているのだ。
僕は先生の顔をしばらく見つめると、とりあえず一つ頷いた。
途端に笑顔になる先生。
「リーフェ君も気付いたんですね。そう――そうですよ。この世界を西から東に吹く西回風。この風もこの『力』の流れに引っ張られて生まれているんですよ!」
『やっぱりそうだったんですね』
とてもじゃないけど、これ以上先生の笑顔を見ていられない。
とりあえず僕は体ごと、視線を東の方向へと向けておいた。
「他にも、北に行くと平らな場所を坂道の様に感じるとか、世界の裏側では体が少し軽いとか――』
先生の熱弁は続く。
いつもよりもずっと長く長く。
このまま永遠に続くんじゃないかという程に。
――正直辛い。
辛いけど、今更言い出せない。
正に――因果応報というやつだった。
『――るのよ!』
――!?
突如背中に感じた衝撃で目が覚める。
慌てて目を向けると、そこには不機嫌そうなサギリが居た。
『ありがとうサギリ!』
『――寝ぼけてるの? それともついに――っ!?』
何故か目を大きく開き悲痛な顔をするサギリに、首を傾けて見せた。
後日。
サギリに連れられ、真顔のユニィが現れた。
『――ごめんなさい先生!』
――顔を見るなり逃げた。
思いっきり逃げた。
もちろん、サギリに捕まった。
やっぱり怒られた。
因みに、術補正が無い場合の赤道直下での重力加速度を概算すると2.45m/s2。
円環部分の中心軸の直径を14000km、円環部分の直径を2000kmとして簡易計算した結果です。