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陰陽高校生 大戦記  作者: 風間 義介
八章「人と妖の境で~決意~」
81/128

四、

 青龍たちからの試練を乗り越え、彼らと契約の第一段階として、違えることなく名前を呼んだ。それはいい、それはいいのだが。

 「……」

 なぜか護の心はすっきりしなかった。

 理由は唯一つ。これでいいのか、という疑問だった。

 先程の場とは違い、十二天将からの問いかけがない。ただ単純に、実力を示すだけということは考えにくい。

 何か、裏があるのでは。

 そう思い、身構えていたが、青龍たちから問いかけが始まる気配はなく、護を静かに見下ろしているだけだった。

 「……何もないのか?」

 「今の戦いで、十分だ。お前の心を知るには、な」

 拘束を解かれた白虎は、からからと笑った。

 そんなものなのか、と護は心の内で白虎の言葉にツッコミを入れた。

 だが、そんなことを言っても、本人たちが、そうだ、といっているから、いいのだろう。

 「では、次が最後になるだろうな。」

 「もう、ある程度の予想はついてるけど、な……」

 護はそっとため息をついて青龍の言葉に答えた。

 ここまで、全ての場には法則があった。それは陰陽道に関わりのあるものだ。

 そして、その場に現れる天将の中には必ず、四神の一柱がいた。それは、四神相応に基づいていた。

 今まで出てきた天将のうち、四神の名を持つ天将は、玄武、白虎、青龍の三柱。

 このままいけば、おそらく、いや確実に朱雀と対面することになる。

 問題は、その時の彼らの対応だ。

 ――正直、霊力はもうほとんど残ってないんだよなぁ……

 四人の十二天将を一度に拘束するのは、やはり無理があった。

 なにより、神の末席に名を連ねる彼らに、退"魔"術が何かしらの効力があるとは思えない。

 ――まぁ、考えていてもしかたない、か

 結局、そういう結論に至り、護は次なる場所へと転移させられた。


 護が次に飛ばされたのは、予想通り湖だった。

 「……巨椋池(おぐらいけ)じゃない、よな?さすがに」

 「そんなわけないだろう。ここは仮にも異界だぞ」

 護のつぶやきに答える声がした。

 声がした方向を見ると、そこには、護にとって最も縁が深い十二天将、火将の朱雀がいた。

 護は、彼の名前を呼ぼうとしたが、思いとどまった。護が彼の、朱雀の名を呼ぶのは、試練を乗り越えたときという、暗黙の了解があったから。

 「……はじめるか」

 「あぁ……いくぞ。陰陽師よ」

 朱雀は腰に収めていた長刀を抜き放ち、護に向かってきた。

 護はその斬撃を霊剣で防ぎ、受け流した。正直、剣を振り回す力も霊力もほとんど残っていない。

 これ以上、何かしらの術を使うことができるとすれば、それは神通力を使った術だけだ。

 ――やるしかない、か……

 護は心の内でそう呟き、刀印を結び、目を閉じ、意識を自分の内側へと集中した。

 その目に映るのは、魂の最奥に眠っている神通力の炎。そして、それを抑えている封印の鎖。

 「……遠祖神(とおかみ)笑み給え、寒言神尊利根陀見かんごんしんそんりこんだけん、祓い給い、浄め給う!急急如律令!!」

 三種祓(さんしゅのはらえ)を唱え、封印の鎖を解放する。

 その瞬間、護の体は白い炎に包み込まれた。

 しかし、炎は一瞬で静まり、炎の中から護が姿を現した。だが、その髪は黒々としたそれではなく、先ほど護を包んでいた炎と同じ、白へと変わっていた。

 そして、空いている手には、いつの間に持っていたのか、狐の面があった。

 護はそれをかぶり、再び、朱雀と向かい合った。

 その瞬間、朱雀は護から圧倒的な威圧感を覚えた。

 ――この威圧感……いや、妖力、と呼ぶべきか……晴明のときと同じだな

 護が今はなっている威圧感、かつて、晴明と契約を交わした時にも感じたものだ。

 しかし、今目の前にいるのは晴明ではない。新たに契約を結ぼうとしている、晴明の子孫だ。

 だが……手加減をするつもりはない。

 朱雀の目に殺気が宿り、手にしていた長刀には炎が宿った。

 「()っ!!」

 朱雀は手にした刃を閃かせた。その刃は護の首を正確に狙ってきていた。

 しかし、その一閃は狙い通りに首を飛ばすことはなかった。

 その刃は、護が手にしていた霊剣に受け止められていた。

 「……うまく避けろよ……」

 そう呟いて、護は長刀を受け止めたまま、一気に朱雀との間合いを詰めた。

 そして、長刀の刃を受け流し、朱雀を切りつけた。

 しかし、その一閃も狙い通りにはならなかった。

 護の霊剣を受け止めたのは、鎖だった。鎖が伸びている先をたどり、そちらに視線をやると、そこには短いが、鮮やかな金髪をした女性がいた。その手には、護の霊剣を絡めている鎖が握られていた。

 「……しゃらくさい!」

 護は空いた手を女性、勾陣に向けて、手をかざした。

 その瞬間、とてつもない圧力が女彼女に襲いかかった。

 「くぅ!!」

 勾陣は抵抗することができず、吹き飛ばされた。

 だが、同時に霊剣も一緒に引っ張られ、護は思わず霊剣から手を離してしまった。

 その瞬間、得物を失った護に向かって、朱雀ともうひとり、新たに現れた天将が猛攻を仕掛けてきた。

 護は長刀と槍の連撃の嵐を回避しながら、どうにか霊剣を取ろうとしたが、それを許す彼らではなかった。

 回避し続けていた護の足に、霊剣の刃を絡めていた鎖が巻きついていた。

 護は再び懐に手を伸ばし、符を取り出した。しかし、その枚数は四枚だけだった。

 「……仕方ない、か!」

 護は向かってくる闘将との戦闘を最優先と考え、朱雀と天将に向かって投げ、刀印を結び、言霊を紡いだ。

 「怨敵封縛、急急如律令!!」

 護の言霊に呼応して、符は光を放ち、互いを光の紐でつなぎ、網を造り上げ、二人の天将を絡め取った。

 しかし、朱雀は手にした長刀で網を切り裂き、拘束から逃れた。拘束から逃れた朱雀は、護の脳天めがけて、長刀を閃かせた。

 「禁っ!」

 しかし、護は一文字を地面に引き、短く言霊を紡いだ。その瞬間、不可視の壁が長刀を受け止めた。

 護はその一瞬で、勾陣の方向へ向かって走り、霊剣を拾い上げた。

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