三、
「……岩山の次は大河かよ……」
護は天空に飛ばされて、巨大な河とそれが流れる巨大な道の境にいた。
四神思想から考えると、ここにいるであろう十二天将を推測するのは簡単なことだった。
――出てくるのはたぶん、白虎と青龍、それから考えれば、金将と木将のうちの誰か、ってことになるか
もっとも、単なる四神相応とそこに関連する属性をもつ天将からの推測に過ぎない。
現に、先ほどの岩山で、玄武がいたにもかかわらず、同じ水将の天后がいなかったこと。そして、土将がいたあの場に、勾陣だけがいなかった。
凶将だけがあの場にいなかったというわけでは、おそらくない。
それならば、天空も凶将だ。あの場にいるのはおかしい。
なにか、条件があったはず。
護はできる限り記憶を掘り起こし、天将がその場にいる条件を見出そうとした。
が、不意に、一陣の風が護に襲い掛かってきた。
考え事で遅れを取ったが、護はそれを回避し、風の吹いてきた方向を睨みつけた。
――風を操るってことは、木将か……
そして、自分が今いる場所にあるのは大河。
十二天将は陰陽道の神だ。そして、四神相応は風水だけではない。陰陽道にも通じる考え方だ。
つまり、今、攻撃を仕掛けてきたのは。
「やれやれ。根比べの次は実力ってか……青龍よ」
護がそう呟くと、刀のような刀身を穂先に持つ槍を構えた、青い髪の青年がいた。
その瞳は、木の属性を持つものというよりも、水の属性を持つものではないかと思わせるほど、冷ややかなものだった。
どうやら、本気で殺しにかかってきているようだ。
「……退"魔"の術って、神に効くんかな?……」
護は自分が今まで習得してきた術が、あくまでも魔を退けるための術であり、神を退けるものではないことを思い出し、ぽつりとつぶやいた。
だが、十二天将との対抗策が練れるまで待ってくれるほど、青龍は、いや、彼を含め、他の天将たちはあまくはなかった。
青龍の起こした風から逃れたはいいものの、視界の中に白い光が入ってきた。
それを回避して、光が飛んできた方向を見た。その視線の先には、白い下地をしたトラ模様の腰巻をした、壮年の男がいた。
「……くっそ!やるっきゃない!!」
護は懐から符をいくつか取り出し、二人の天将に投げつけ、刀印を結ぶ。
「不動明王の名において、我が敵を縛り、封じ給え、急急如律令!!」
言霊を紡いだ瞬間、護の投げた符は光を宿し、互いを光の鎖でつないだ。
その鎖はやがて薄い壁を作り、青龍と白虎の動きを封じ込めた。
「やはり、場数を踏んだだけはあるな」
「だが、まだ油断するなよ?」
白虎がにやりと笑った。
護は白虎の視線の先へ目をやると、そこには複数の水の槍が飛びかかってきた。
「土気招来、急急如律令!!」
槍を全て回避することは不可能と考えた護は、刀印を結び、その鋒を地面に向け、言霊を紡いだ。
その瞬間、地面が盛り上がり、護の前に土の壁が現れた。壁は槍を全て受け止めても崩れることはなく、そこに存在し続けた。
――大河の近くに道があってよかった……
心の内で、この地形に感謝し、護は槍が飛んできた方向を見た。
そこには、玄武がいた場にはいなかった天后がいた。
よくよく注意して気配を探ると、天后以外にもいくつか天将の気配があった。
「……天后と太陰か……」
護は壁に隠れながら、符といくつかの小さな勾玉を取り出した。
正直なところ、青龍と白虎を無力化するだけでもかなりの霊力を消耗しているのに、これ以上、十二天将を無力化できるかどうかが不安なところだったが、これ以上の猛攻に壁が保ちそうになかった。いや、すでに崩れ去る一歩手前といったところだった。
護が不吉な音を聞いた瞬間、壁は崩れ落ちた。
急いでそこから離れて、距離を取る。しかし、天将たちの猛攻はとどまるところを知らず、次々と護に襲い掛かってきた。
「土気招来、急々如律令!」
護は再び、同じ言霊を唱え、土の壁を呼び出した。
その陰に隠れて、護はそっと息をつく。
いつまでもこのまま、というのは、護自身、あまり好きではない。
――やるしかない、か
護は符と勾玉を頭上に投げ、刀印を結んだ。
「縛々々、怨敵封縛、急急如律令!!」
護の言霊に応じ、符と勾玉が光の鎖で互いをつなげ、青龍と白虎を封じ込めたものと同じ檻を造り上げた。だが、その大きさは二人を捕縛しているそれとは比較にならないほど巨大なものだった。
しかし、護の術はそれだけで終わらなかった。
「……臨める兵闘う者、皆陣列れて前に在り!」
続けざまに九字を唱え、刀印を天に突き出す。
その瞬間、呪符で作られた檻の中で、一緒に投げられた勾玉が光を放った。
「この術は、怨敵を縛り、災禍を封ず、急急如律令!」
護が言霊を紡いだ瞬間、勾玉から光の紐が伸び、互いをつなぎ、天将たちの動きを封じ込めるように絡め取った。
天将たちはその紐の戒めを甘んじて受け止め、拘束された。
「……十二天将、木将、青龍。金将、白虎」
護は最初の結界の方へ目を向け、十二天将の名を呼んだ。
その呼び掛けに答えるかのように、十二天将のふたりは、柔らかなほほ笑みを浮かべた。
護はその微笑みから、彼らに敵意がなくなったことを悟り、拘束していた結界を解除した。そして、先ほど施した封印に目を向け、拘束している十二天将たちに視線を向けた。
「……水将、天后。金将、太陰」
その名を呼ばれ、彼らも青龍たちと同じく、敵意のない、柔らかなほほ笑みを浮かべた。




