八、
ひと騒動あってから翌日。
護たちは予定通り、神田明神に向かって移動を開始した。
なお、護たちの班の基本的な作戦はこうだ。
あらかじめ、班員をさらに小さなグループに分け、別々のルートで神田明神へ向かう。戦闘はできる限り回避できるよう式を先行させる。仮に、戦闘になった場合、できる限り消耗を避け、できる限り早期に戦線を離脱すること。
臆病な作戦と思われるかもが、隊全体の目的である「神田明神への到達」を最優先した作戦であるため、班員全員、納得していた。
そして、護は勇樹、月美、桜の三人と組むこととなり、現在、神田明神に向かっていた。道中、何度か妖に遭遇しそうになったが、先行させていた式のおかげで、なんとか戦闘を避けることができていた。
戦闘をすることなく、湯島天神の近くまで到着するころには、少しばかり疲れが目立ち始めた。
「……休憩するか?」
護は後方を歩いていた月美と桜の様子を見て、勇樹に意見を求めた。
勇樹は二人の様子を見て、護の意図を察し、頷いて返した。
「そうだな。神田神宮も近いし……なにより、腹減ったしな。すまないが結界を張ってくれないか?」
「オーケーだ」
勇樹の言葉に答え、護は五枚の符を取り出し、五角形の頂点になるように配置し、空中に五芒星を描いた。すると、それに呼応するかのように配置された符に光が灯り、それぞれが光の線でつながり、五芒星が描かれた。
護はその作業を終わらせると、勇樹たちのいる位置までもどり、ポーチに入れていた昼食を取り出した。
取り出されたのは、乾パンやキャラメルなどの非常食だったが、「まずい」と評判の軍用レーションよりはだいぶマシ、と思いながら、護たちはそれらを黙々と食べ始めた。
が、彼らのあいだには、一切の会話がなかった。
食事が普段よりも簡素だから、ということもあるのだろうが、目と鼻の先に目標地点である神田神宮があるからということが一番の要因なのだろう。
結界の向こう側からでもわかる。かなり強い妖気と殺気が、神田神宮の方向から流れてきている。かなり強力な妖が、神田神宮を占拠していることは想像に難くなかった。
護は神田神宮の方向を見ながら、口元へ乾パンを運ぶ。
――神田明神に祀られている神の一柱は平将門公。将門公は、御霊としても祀られていると考えると……やっぱり、あそこにいるのは……
護は神田明神から溢れ出ている陰の気配から、今、そこを占拠している敵勢力についての考察をしていた。
そして同時に、彼に対する対処法も。
簡単な昼食を済ませ、護たちは再び神田明神に向かった。
目的地が近いためなのか、それとも単に気まぐれに動いているためなのか、ここまでの道中で妖に会うことはなかった。
神田明神まで無事に到着したものの、他の班は到着していなかった。どうやら、先行しているのか、まだ到着していないかのどちらかのようだ。
「……神田明神に到着した時の行動って、どうするんだったかな?」
「神宮への到着が最優先。その後は鬼門封じの術を施すってことじゃなかったっけ?」
勇樹の疑問に、月美もまた疑問符をつけて返す。
正直なところ、神宮への到着が最優先、としか伝えられていなかったため、ここから先をどうすればいいのか、わかっていなかった。
「……いくぞ」
一分、一秒の判断が隊の状況を悪化させる。
護はそう考え、突入を提案した。
確かに、現状では突入した上でここを占拠している妖と戦闘、それと同時進行あるいは戦闘後に鬼門封じのための術を発動する必要がある。
そこから考えると、今ここで突入しておいたほうが、のちのち到着する班員が楽をできることになるはず。
それを思えば、この場にいる全員の意見は自ずとまとまっていった。
「っしゃ!んじゃあ、行きますか」
「準備オーケー」
「いつでもどうぞ!!」
「……やれやれ」
誰からとなしに、突入の意見に賛成した様子を横目に、護はそっとため息をついて、霊剣を抜きち、構えた。
その瞬間、鳥居の向こうからおどろおどろしい声が響いてきた。
《なるほど。お前たちがあの者が言っていたねずみどもか》
護たちはその視線を鳥居の向こう側へと向ける。そこには、水干をまとい、腰に太刀を佩いた男がひとりいた。見鬼である護たちは、理解できた。この男は、霊であると。それもかなりの力を持った霊だ。
その顔は、その人物の厳格さを物語っているかのように、険しいものだった。そしてなにより、その眼光は見るもの全てを凍りつかせるほどの恐怖を与えていた。それらだけで、この男が元は戦に身を置く人間であったことがわかった。
「……平将門公とお見受けします」
《いかにも……なるほど、陰陽師どもか》
「話がわかるようで。できれば穏便に済ませたいので、ここをゆずってもらってもよろしいでしょうか?」
護のその言葉に、将門は剣呑な眼差しを向けた。
その眼光は、怒りに満ち満ちていた。どうやら、本気にさせてしまったようだ。
――わかっちゃいたけど……やばいな、これ
護は将門公の目をまっすぐと見ながら、心の内でそう呟いた。
どれだけこの神が荒御魂に侵食されているのかを知るために、はっきり言えば、人間としての理性をどれだけ保てているのかを知るために、わざと煽るような言い方をしたのだが、まだまだ理性は残っていたようだ。
かなりの怒気が彼の顔から伺える。
――まぁ、当初の予定通り、和御魂を呼び出してさっさと元の英霊に戻すか
護は霊剣を構え、将門公を見据えた。




