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陰陽高校生 大戦記  作者: 風間 義介
七章「人と妖の境で~迷い~」
74/128

七、

 かぽん、とプラスチック製のたらいが床に落ちる音が似合いそうな浴室の中。

 月美と桜、そして明美は浴槽にその体をつからせていた。

 「はふぅ……温まる……」

 「天国だねぇ……」

 「……むぅ……」

 明美の視線は月美と桜の胸元にいっている。そして、自分の胸元へ視線を落とす。

 年相応に成長してはいるのだが、月美と桜のそれは、平均よりもやや大きく見える。いや、友人の月美が大きいことは知っていた。が、桜の体型までは把握していなかったので、自分よりも豊満なものを二つも見ることになるとは思わなかったのだろう。

 そして同時に、明美の胸の内に少しばかり邪な考えが浮かんでいた。

 「……ねぇ、二人とも」

 「ん、何?明美」

 「どうしたの?」

 「胸、触っていい?」

 あまりに唐突といえば唐突な質問に、月美も桜も一瞬だけ凍りつき、奇妙な声を上げてしまった。

 その声にかかわらず、明美は月美と桜の胸を交互に触れていった。

 「ちょ!明美、やめ……」

 「あ、そこは!だ、だめぇ!!」

 「いいじゃない減るものじゃなし~。いしし、よいではないかよいではないか~」

 本当に恥ずかしがっているのか、楽しんでいるのか。少々わかりにくい嬌声が女湯に響き渡った。

 もちろん、その声は壁の向こう側にいる男子たちには聞こえていたわけで……。

 「……」

 「……」

 護と勇樹は、その嬌声とその内容を強制的に聞かされて、目頭を抑えてうつむいていた。

 その様子を見て、清はにやにやといやらしい笑みを浮かべながら、二人に問いかけた。

 「どうした?二人共」

 「お前……わかってて聞いてるだろ?」

 うめくような声を上げながら、護は清に胡乱気な瞳を向けた。

 一方の勇樹は、重々しいため息をつきながら、沈黙を守っていた。

 「しっかし、お前ら免疫ないな。勇樹はともかく、護。お前、風森と同居だろ?てっきり、しっぽり行ってるかと思ったが」

 「そういうお前も、平野といる時間が長いと思うんだが?」

 「あぁ、あいつとはいい友達だよ」

 清はひょうひょうとした態度でそう返す。

 その返答に、男子ふたりはやれやれといった感じのため息をつく。

 実際のところ、清と明美はかなり仲がいい分類に入る。いわゆる、友達以上恋人未満に近い関係のようだ。

 「で、だ。そんなあいつだから、俺たちの所業はたいていのものなら許してくれるはずだよな?」

 「……おい」

 「覗くぞ」

 「ちょっとまて」

 護と勇樹の制止を聞かず、清は壁をじっくりと観察し始めた。どうやら、安全に登ることのできる場所を探しているらしい。

 「……護、逃げるぞ」

 「……おう」

 恐怖しか感じられない未来を見た勇樹と護は、清が壁に集中している隙にこの場を離れようと、入口までそそくさと移動を始めたが。

 「……って、うおぉぉぉぉ?!」

 後ろから清の絶叫と、重い何かが倒れる音が聞こえてきた。

 ふたりは反射的にそちらを振り向いた。その視線の先には、あられもない姿をした三人の少女が顔を赤らめてこちらを見ていた。

 「な……な……」

 「え?……え?……」

 「……ちょっと……あんたら……」

 女子一同は、突然とはいえ、不慮の事故とはいえ、結果的に男子全員が「覗いた」という事実に対して当然の反応を示した。

 その手には、各々の得物か、そのあたりにあったのであろう風呂桶が握られている。どうやら、こちらに攻撃する気満々のようだ。

 「ちょ……待て、月美、これには深い事情が!!」

 「私とあなただけのときはともかく、桜や明美もいるときに深い事情も何もないでしょう!?」

 「はい、全くその通りで!!」

 護の返答を無視して、月美は手にした霊弓から、次々と護に向かって矢を放った。それを紙一重で交わし続けたが、あまりの量に避けきれなくなり、最終的に護は甘んじて矢を受けることを選択した。

 ――まぁ、いいもの見れたから良しとするか

 しかし、護の顔は苦痛に歪んではいるものの、心の内ではなぜか満足気な感想が述べられていた。

 「勇樹くん……ちょっと、いいかな?」

 「えっと……桜、とりあず、その手に持ったものをおろしてくれないか?」

 「無理な相談だよ」

 桜は微笑みながら、いつの間に取り出したのかわからない(スタッフ)を床のタイルに叩きつけた。

 その瞬間、ウンディーネが配下においている微精霊が彼女の周辺に浮かび上がった。

 「ちょ……ま……」

 「吹き飛べーーーーーーーっ!!!」

 桜の絶叫とともに、微精霊たちは大量の水を吐き出し、津波を起こした。

 その津波に、抵抗することができず、勇樹は流されるままになってしまった。

 「清、あんたの差金でしょ?これ」

 「だとしたら?」

 「たんこぶの一つや二つは、覚悟の上だよね?」

 そう言って、明美は手に持った風呂桶を振り上げ、清の頭に向かって振り下ろした。

 かこーん、と、乾いた反響音が響き、清の意識は暗闇に落ちていった。


 浴場から出た六人はそれぞれ、深刻そうな面持ちで廊下を歩いていたが、なんとも気まずい空気が流れていた。

 「あぁ……その……なんだ。すまなかった、月美」

 「……反省しているみたいだから、許してあげる」

 「……ごめん」

 「……二度とやらないでね」

 護と月美、勇樹と桜は、互いにさきほどの浴場での出来事について、互いに許しあった。

 一方の清と明美は、互いに謝るような素振りはなく、何食わぬ顔で廊下を歩いていた。

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