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陰陽高校生 大戦記  作者: 風間 義介
六章「顕現せしは大妖の群れ」
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62/128

七、

 護たちが退院してまもなく。吉江は、いや、陰陽寮の幹部は避難民の中から素質のある高校生以下の人材を選び、退魔師としての訓練を施すことを決定した。

 避難民の中からといっても、陰陽師や寺社仏閣の血縁者を選出することになっているため、あくまでも一般人からは選出しない、というのが陰陽寮の基本的な姿勢だ。

 しかし、そんなことはお構いなしといった姿勢の女子高生が一人。

 「だ~か~ら~!!私は幽霊とか化物とか見ることができるって言ってるでしょう?!なんでダメなのよ!!」

 「いくら人に見えないものを見ることができるからって、一般人を巻き込むわけにはいかないんだ!わかってくれ!!」

 平野と名乗った女子校生を、一人の職員が必死に説得していたが、それでも引いてくれない。

 いいかげん、どうしたものかと考えあぐねていると、壮年の男性の声が彼の耳に響いてきた。

 「どうしたんだ?」

 声のした方向を見ると、そこには陰陽寮幹部に一人、勘解由小路保通がいた。

 職員は保通の助けを借りようと、事情の説明をしようとした瞬間、彼を押しのけて明美が保通の前に躍り出た。

 「清のおじさん!お願い、私も訓練に参加させて!!」

 「……君は確か、清の友達の?」

 「平野明美です!!」

 勘解由小路、という変わった苗字のためだろうか、明美は保通が清の友人であることに気づき、自分も訓練に参加できるよう説得を試みた。

 保通はそっとため息をつき、彼女の目を見た。

 明美の瞳には、興味や好奇心といったものはまったく感じられない。感じられるのは、固い決意の光だ。

 「……君は何故、訓練を受けたいと思うんだ?」

 彼女の目から感じられた、決意の程を聞くにはこう聞くのが一番だった。

 退魔師としての訓練も命懸けだ。

 護と月美、そして甥がどこまで話したのかはわからないが、それを理解しているのかどうか。そして、どのような感情が彼女を突き動かしているのか、知りたかった。

 「土御門くんと月美を……友達の助けになりたいからです」

 話を聞いてくれるとわかったためだろうか、明美は落ち着いた態度で保通に話した。

 どこまで信じてもらえるかわからない。そもそも、理由を話したからといって、訓練を受けさせてくれるというわけではない。

 けれども、明美の口から出た言葉は、彼女の本心から出た言葉だった。


 明美がそんなやりとりをしていた頃、護と月美は、陰陽寮が実施している、退魔師育成訓練を受けていた。

 護と月美は、妖と戦う術を学んできた。だが、それはあくまで少人数での戦闘のみを想定したもので、集団戦を想定した訓練は受けていない。おそらく、集団戦闘のためのノウハウを身につけ、九尾たちの軍勢と対決するための準備をすすめるつもりのようだ。

 「……お前と桜は、こんなことを毎日やってたわけだな」

 「まぁ、な……もっとも、ここ最近は陰陽師が作った戦闘用の式神を使って模擬戦闘をしてるんだけどな」

 勇樹はそっとため息をつきながら、柔軟体操をはじめる。それにならって、護も肩を回し始める。

 二人の隣には、同じように柔軟体操をしている一人の少年がいた。

 護と勇樹と同い年だが、彼が腰に下げている得物が、彼もまた二人と同じく、妖と戦う立場にあることを物語っていた。

 「……にしても、勇樹に俺ら以外の友達がいたのは俺的に大スクープだな」

 「……耕介、お前さりげなく俺に失礼なこと言ってないか?」

 勇樹は額に青筋を浮かべ、ひくひくと頬を引きつらせながら、剣を腰に下げた少年、耕介に言葉を返した。

 そんなことはどうでもいい、重要なことじゃない。と、その言葉自体が勇樹の口から出てこなかったかのように受け流した耕介は、ずいっと勇樹に詰め寄ってきた。その目は、完全に色欲に負けた、年相応の男子高校生の目をしていた。

 「別に?というか、お前。あんな超絶美少女知ってたんだったら紹介……」

 「……あ?」

 月美の方を見ながらそう言いかけて、耕介は口を閉じた。

 勇樹のちょうど後ろにいた護から、言い知れぬ威圧感を覚え、これ以上何かを言ってはいけない。いや、それどころか彼女に手を出そうものなら、命がないとすら感じさせる雰囲気があった。

 「……もっぺん言ってみ?」

 「なんでもないですごめんなさい!!」

 「わかればよろしい」

 護から、恐ろしい雰囲気がなくなり、その顔には菩薩のように穏やかな微笑みが張り付いていたが、その奥底には、不動明王のように憤怒に歪んだ顔が見えた。

 ――月美(あの子)に手を出すのはやめておこう。俺の命がいくつあっても足りない……

 九尾と対決する前に、耕介はこれ以上あるのかというほどの恐怖心を、人間から、それも同い年の男子から植えつけられた瞬間だった。


 そして、同じことは少し離れた場所にいた月美たちにも起きていた。

 「さすが、桜よね。学園の外にも友達がいたなんて。それも現役巫女さん」

 「今は巫女でもなんでもないよ。一介の霊能者だよ~」

 彩の言葉に、少しくすぐったいものと、一抹の寂しさを胸に抱えながら、月美はそう返す。そんな月美のことはそっちのけにして、彩は護たちのいる方へと視線を投げる。

 その視線の先には、護がいた。

 「……よく見れば、あの人、いい男よね……今度、アタックを」

 「……あ~や~さ~ん~?」

 「――ッ!」

 彩のつぶやきが聞こえてきたのか、おどろおどろしい月美の声が、聞こえてきた。

 その響きに、彩はぎぎぎ、と音が出そうなほどゆっくりと首を動かし、月美を視界に捉えた。そこには菩薩のようなほほ笑みを浮かべる月美がいた。

 しかし、その微笑みはあくまで仮面であるということが、彩の本能が告げている。その仮面の下には、般若のような形相の顔が見えたような気がした。

 「な……なんでもないです……」

 「護に手を出したら、怒るよ?」

 「わかりました(Yes, Mam)!!」

 なぜか兵隊風の返答をし、彩はびしっと敬礼をした。

 それだけの恐怖心が、彩に植えつけられたようだ。

 ――これからが思いやられる……

 ――これから大丈夫かなぁ……

 勇樹と桜は互いの友人たちと護と月美とのやりとりを見ていて、心の内で、そうつぶやいた。

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