一、
目の前に広がっているのは、炎と人間の死体と獣の、いや妖の死体。
それは、護がいつか見た光景。そして、引き起こしたくはなかった事態。こうならないために、陰陽寮から与えられた任務をこなしてきたはずだった。
「……ちくしょう……」
護は、手にした剣を支えにして膝をついていた。傍らには月美と護の式神である狐たちが力なく地面に伏していた。そして、護も、徐々に意識が闇へと落ちていった。
時間をさかのぼり、数ヶ月前。
教師たちの惨殺事件から数ヶ月経ったが、犯人は分からず、月華学園は普段通りの学校運営を行うという決定を行った。そのため、護たちは中間試験という第一の試練を突破しなければならないという状況に陥っていた。
「……めんどくさい……」
「仕方ないだろ?学校が決めたことなんだから」
「わかっちゃいるけどなぁ……」
護の応答に、清はため息をつく。護としても、その気持ちがわからないわけでもない。護も定期試験は好きではない。できることなら、定期試験なるものの存在が消えて欲しいとも思っている。だが、それまで学んだことがどれだけ身に付いたかを測り、それを利用するだけの応用力があるかどうかを知るために必要なものであることを理解しているため、しぶしぶではあるがしっかり試験を受けている。
ちなみに、清も文句を言っているが、そこそこいい成績を出している。そして、護と月美もそこそこいい成績だ。
「まぁ、あいつみたくなってないだけマシだけどな」
「だろ?」
護は明美の方を見ながらそっとため息をつき、つぶやく。その反応を見て、清は乾いた笑みを浮かべる。二人の視界に机に突っ伏し、暗いオーラを出している明美が入る。その傍らには、困ったような笑みを浮かべ、肩を叩く月美がいた。
「そういや、俺ら四人の中じゃ、あいつが一番悲惨なんだよな……」
「さすがに、今年はまずいよな?」
清はそっとため息をつく。
明美は四人の中で最も成績が悪く、毎回、補習に参加している。
「救いはないんですか?」
話が聞こえていたのか、護と清に向かって涙目になりながら話しかけてきた。月美も、助けてあげて欲しい、と視線で訴えかけてきている。
さすがに、護と清は明美がかわいそうに思えてきた。
清はそっとため息をつき、護を見る。三人からの視線が痛い。
「……うちで勉強会開くか……」
そっとため息をつき、半ば諦めたように護は呟いた。
清の、勘解由小路の邸では、四人がひとつところで勉強するには少しばかり狭すぎる。いや、それなりに広い家ではあるのだが、土御門の邸と比べると、少しばかり小さく、四人で一つところに集まって勉強するには狭い。
「あーりーがーとーっ!」
明美は絶叫に近い声と共に、護に突進してきた。
護は必死の形相で、突進してくるそれの額を手のひらで抑え、抱きつかれないよう、距離を保った。
――こいつ、これから何やるかわかってんのかな……
護はこれから彼女が見るであろう地獄を脳裏に浮かべ、心の内でため息をついた。




