八、
陰陽師というものは、いや、超自然的な能力を持つ人間は、常にそれをもたない人間の好奇の目にさらされてきた。それが物珍しいものであるがゆえに、その人が自分たちには持っていないものを持っているがために。
だが、心の奥底で彼らは、その存在を危険なものと勝手に判断し、排除しようとする。姿かたちが人間であるがゆえに、表立って彼らを排除することはしない。だからこそ、何かのきっかけを求め、それを利用して、その存在を排除する。
護の場合、今回のこの事件がそれだ。
「……あいつが、わざと人を傷つけるようなことをする奴じゃないってことはわかってる。けどさ……やっぱり、辛いんだよ」
友達だった人間が、自分のそばから離れていくことが。
朱雀と天后は、護のその言葉をただ黙って聞いているだけだった。
――なるほど……二度目の試練、といったところか
いつか、こうなるかもしれないということは、十二天将の二人も予想していた。
だからこそ、何も手助けをすることができない。手助けをしなくても、自身の力で乗り切らなければ、これから先、同じ局面に突入した時に立ち直ることができなくなってしまう。
護も、十二天将が考えていることを察していたのか、何も言わずに街を見ていた。見ていることしか、できなかった。
翌日。
護は、何事もなかったかのように学校に来ていた。だが、周りの生徒たちは何かが護たちの間に起こったという察していた。
いつもなら、護を含めた四人で話をしている光景が見られるのだが、今日は四人ともそれぞれの席に座っている。互いに話しかける様子もなかった。
「勘解由小路、お前ら何かあったか?」
どうしても好奇心を抑えられなかった同級生が、恐る恐るといった感じで清に問いかけた。清はその問いかけに、そっと陰鬱なため息をついてから曖昧にぼかしながら答えた。
「まぁ、あったといえばあったな……主に護と明美の間に」
「喧嘩か?」
「まぁ……そんなとこだな」
清の答えに、同級生は意外そうな顔をした。
護と月美が喧嘩するのも珍しいが、護と明美という組み合わせで喧嘩するということも珍しい。いや、そもそも、護が誰かと喧嘩すること自体が珍しい。
護が、周囲との関わりを極力断ち切ってきたからこそ、珍しく感じてしまうのだろう。
「……嵐でも来るんじゃないか?」
「おいおい、すでにこの教室は暴風域に入ってるぞ」
ふぅっと重々しくため息をつきながら、清は明美の方を見た。どこかそわそわしているように思える。
どうやら、護が気になるらしい。無理もないといえば、無理もない。何しろ一方的に罵った挙句、結局謝ることもできないまま、一日を過ごしてしまったのだから。
――声をかけづらいってこともあるんだろうが……まぁ、あいつらのことだから。どうにかなるか
清は、ひとまず仲立ちをすることなく、彼らが自力でなんとかできると信じ、そうすることにした。




