一、
護たちが異空間から出る姿を、はるか後方から見つめる影がひとつ。黒々とした肌に精悍な顔つきの青年だ。しかし、その瞳は、混沌と冒涜と憎悪を混ぜたような、重く、深い負の感情に濁っていた。
――ふむ……なるほどな
青年は顎に手を当て、護たちのここでの行動、戦術、行使する方術を観察し、おそらくまだ一部ではあるだろうが、彼らの手の内を振り返った。
若いながら、なかなかの力を持っていることは確かだろう。だが、独鈷を持っていた少年にしても、手甲を身につけた少年にしても、そして二人の少女にしても、実力はまだまだ、といったところだ。だが、それゆえに危険でもある。
あのような手合いは、時間を与えれば与えるだけ、力を蓄え、実力を身に付けていく。そして、最終的に、自分たちの驚異として立ちはだかることになる。
だが、それゆえに楽しみでもあるのだ。
決して越えることのできない壁が存在することを理解した時に、彼らが見せるであろう、絶望に歪んだ顔を見ることが。
――だが、それはまだしばらく先のこと。それに……
彼らには、あの神格を再び眠りについてもらうために人肌脱いでもらわなくては。
青年は不敵に微笑むと、溶けていくかのようにその場から消えた。それと同時に、空間全体にヒビが入り、一瞬で粉々に砕け散った。
そのあとに残っていたのは、一辺の光も入ることの許されない闇が広がっていた。
一方、その頃。
東京都内にある、とある高校の校舎裏に数名の生徒が集まっていた。その集団は、なぜか携帯電話を取り出し、互いに画面を見せ合うようにしていた。
その画面には「真星辰教団」という文字が記されている。どうやら、何かの宗教団体のホームページのようだ。
しかし、その画面を見た人間は、おそらくそれが異常なものであることに気づくだろう。会員登録を確認するための画面が表示されているが、その背景には五芒星に酷似しているが、これを五芒星と呼んでいいのだろうか、とためらわれるような紋章が画面の背景に描かれている。紋章を見ているだけで、吐き気がしそうだ。
しかし、高校生たちはその画面を見て、狂気に満ちた笑みを浮かべていた。そして、誰からとなく、低く、獣の唸るような声で、およそこの世界の言葉とは思えない言語を口にする。
「イア、イア、クトゥルフ、フタグン!」
その言葉に続き、あとの二人も同じ詠唱を繰り返した。
「「イア、イア、クトゥルフ、フタグン!」」
しばらくの間、その声は校舎裏に響いていた。しかし、それを気にかける生徒たちはいない。
むしろ、またか、とでも言いたげな視線を彼らに向けていた。




