八、
護が何者かが作り出した異空間に突入し、月美と合流したとほぼ同時に、桜と勇樹もまた、合流を果たすことができた。
勇樹は桜の隣まで駆け寄り、無事な姿を確認して、ほっと溜息をつくと、目の前の巨大な液体生物に向き直った。
「……スライムか。馬鹿にでかいけど」
「だよね……イフリートあたりでないと、たぶん全部を蒸発させられないよ」
「だから待ってたわけか」
「……来てくれるって信じてたし」
そんなやり取りをしていると、護たちがいるあたりから、清らかだが激しい気が流れ込んできた。どうやら、十二天将の誰かが神気を爆発させたらしい。
目を凝らしてよく見ると、そこには以前、土御門邸を訪問した時に出迎えてくれた青年が立っている。そして、その隣には独鈷を構えた護と、弓を手にしている月美がいる。どうやら、完全に臨戦態勢に入ったようだ。
「こっちも、負けてられないか」
勇樹はそうつぶやき、柏手を打つ。すると、彼の両手の間から光があふれ出る。勇樹はその光を両手にまとったまま、腕を大きく左右に開く。そして、右手を頭上、左手を下半身の方へと持っていき、再び胸の前で合掌する。
すると、手を止めていた位置に、突如光の球体が現れ、炎を灯しているように、陽炎が揺らめき始めた。
「契約者の名のもとに命ず!出てよ、炎をすべる巨人、イフリート」
勇樹の高らかな詠唱が終わると同時に、勇樹の背後に炎をまとった人型の何かが現れた。人間ではない、それだけは確かであろう。本来足があるべきはずの場所には足がなく、炎が陽炎となり、ゆらゆらとゆれている。
ふと、頭の中に直接、水を通したような声が響いてきた。
《どうやら、我の力が必要なようだな。契約者よ》
「あぁ。頼む、イフリート」
勇樹の言葉に応じるかのように、イフリートの姿が徐々に光の球体へと変化し、勇樹の持つ手甲へと吸い込まれていく。イフリートの姿が完全に消えると、手甲から赤い光が陽炎のように現れ、揺らめき始めた。
「桜!」
勇樹の叫びで、桜は勇樹に杖を向け、何かをつぶやく。その瞬間、赤い光が桜の方へと伸びていき、勇樹と桜をつないだ。その瞬間、桜は体が急に熱くなっていく感覚を覚えた。
だが、それを気にすることなく、桜は呪文の詠唱を続ける。
勇樹はその詠唱を背に、巨大な液体生物へと向かっていった。
スライムは天敵である炎がこちらに向かってきていることを悟ったのか、体の一部を槍状に変形させ、その鋭い切っ先を勇樹に向かって突き出していく。それを全て紙一重でよけながら、巨体へと向かっていく。
だが、イフリートの炎でも、この巨体は焼き尽くすことはできない。
――さて、どうしたものか
勇樹が勝機を見出そうと、相手の攻撃を回避しながら策を練っていると、護が独鈷の刃を地面に突き刺し、何かを唱えている光景が目に入った。そして、月美もまた、手にした霊弓の弦を引きながら、何かを唱えている。
勇樹は護が何をしようとしているのかを察し、できるかぎりスライムの注意をこちらに引きつけることに専念した。
次々と繰り出される槍を交わしながら、勇樹は二人の術が完成するのを待った。




