七、
サラマンダーの悲鳴がした方向を見ると、スライムに取り込まれ、消化されそうになっている姿が目に入った。
「サラマンダー!」
その様子を見て、桜は叫び、サラマンダーを送還した。
厄介な相手が消えたことを悟ったのか、より多くの分裂体を地面に落してきた。そのうちの数体が、月美の体の上に落ち、月美を取り込もうとした。
「くっ……禁っ!」
月美は自分の体を包むように結界を施す。
結界のおかげで、肉体にダメージを受けることはないが、保護されていない範囲は別の話だ。スライムの消化液で、徐々に着ていた服が溶け始める。
――はやく、なんとかしないと……
月美はスライムの体内で、どうにかこの状況を打開しようとしていた。
だが、下手に口を開き、言葉を紡ぐと、そこからスライムは侵入を試みるだろうということは、容易に想像できていた。かといって、符はいま手元にはないし、それを入れている荷物はこの位置からはかなり遠い場所にある。正直、厳しい状況と言わざるを得ない。
そうこうしているうちに、月美の服は徐々に溶けていき、すでに下着が見えそうな状態になっている。
「……!!」
月美は思わず、胸と下腹部を腕でかばう。この場にいるのがいくら女性だけとは言え、やはり、野外で裸体を晒すというのは、あまり気分のいいものではない。
もしやこのスライムは、いまの自分の状況を楽しんでいるのではないだろうか。月美の頭の中に、そんな考えがよぎったとき、何かが割れる音が聞こえてきた。音のする方向を見ると、そこには、物理的にはありえない現象が起きていた。
何もない空間に、黒い線がひかれている。ただの線ではない、ある一点を中心に、それはひびのように広がっている。そして、それは今も少しずつ広がりを見せていた。
ふいに、ぱきん、という鋭い音が響いた。それと同時に、線が消えると同時に、空間が「割れた」。
そして、割れた空間の向こうから一人の少年が飛び込んできた。
「火神招来!」
少年は飛び込んでくるなり、言葉を紡ぐ。すると、少年の腕を炎のうずが包み込んだ。少年はその腕をまっすぐこちらにむける。
すると、炎のうずが蛇のように伸び、こちらに向かって飛んできた。
炎の蛇はスライムの中へ躊躇なく突入すると、月美を守るかのようにとぐろを巻く。そして次の瞬間、スライムの体が弾け飛んだ。
もちろん、全てではなく、月美を包み込んでいた一部だけであったが、それでも月美が再び肺に空気を送り込むには十分すぎるくらいであった。
そのまま、蛇は月美を包んだまま、少年の隣へと舞い降りた。
「……間に合ってよかった」
月美は耳に届いたその声に、ほっと胸をなでおろした。隣にいた少年が、心の内で、ずっと呼んでいた名前を持つ少年、護だったから。
護は月美の様子を見て、羽織っていたコートを彼女の肩にかける。
まだ若干、消化されきっていない部分が残っているとは言え、月美の現在の状況は、あまりよろしいとは言い難い。
まして、年頃の乙女がするような格好ではない。
「ありがとう」
「どういたしまして。それよか、行けるか?」
「もちのろん」
護の問いかけに、明るく答えながら、月美は立ち上がり、護のコートに袖を通し、ボタンをかけた。
準備が整ったことの確認すると、護は独鈷杵を取り出し、身構えた。




