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陰陽高校生 大戦記  作者: 風間 義介
十一章、「蘇りたるは古の侵略者」
117/128

十、

 青年は大きく深呼吸をすると、護たちに顔を向け、語り始めた。

 「先に言っておくが、私はあくまで君たちに彼を再封印する方法を教えるだけだ。私が直接手を下すことはしない。それは覚えておいてくれ」

 「あぁ、わかっている。で、どうやればいいんだ?おせっかい焼のお兄さん?」

 「何、簡単なことだ。君たちが旧支配者(あいつ)と戦っている間に、私が彼を確実に退散させるための呪文を唱える」

 ようは、時間を稼げ、ということだ。

 青年は、簡単だろ、とでも言いたげに片目をつむり、護に微笑みかけた。

 「……簡単に言ってくれるな……」

 「いやいや、これが最もシンプルかつ確実なやり方なのさ。君たちの実力なら、簡単だろう?」

 「……確かにな」

 その問いかけに答えたのは清だった。

 護は清の回答に、確かにそうか、と納得した。

 いや、納得せざるをえないのだ。

 大陰陽師、安倍晴明の子孫であり、彼と同じ天狐の力を色濃く引き継ぐ半妖である護と、その妖力を抑えるだけの霊力を持つ月美。万物をなしえる根源たる四大元素である地、水、火、風の各属性の精霊を統べる王、四大精霊と契約を交わした勇樹。

 この三人と、そして彼らとうまく連携をとることのでき、霊力だけならば陰陽寮の精鋭にも引けを取らないメンバーがそろっているのだ。

 旧支配者がどれだけ強大な存在なのかはわからないが、現状、それが最も有効な策と言えるのだ。

 護はそうして無理やり自分を納得させ、ここからさらに、確実に勝利を収めるために不可欠な要素を組み込み、策を練り始めた。

 そして、その過程の中で、一つだけ、気になる要素が脳内をよぎった。

 「……現状、敵は旧支配者だけではないと見たほうがいい。俺たちで足止めしている間に、鬼ども(あいつら)にこいつの邪魔をさせないためにも、何人かは援護に回ったほうがいいと思う」

 旧支配者を退散させようというのだ。

 おそらく、かの存在を崇めるもの(深きもの)たちだけではなく、争いや絶望により生まれた、負の感情や血の匂いを好む鬼たちが妨害に入るだろう。

 術者(かれ)にその儀式の一切を任せるのなら、その儀式を安全かつ確実に完遂させるために、できる限りの支援を行う。それくらいは当然のことだ。

 そして、かつてこの星の覇権を握っていた存在と戦う以上、護衛を行うメンバーはおのずと限られてくる。

 「……清と明美、それからリーネと耕介が適任だな。というか、それ以外に思い浮かばない」

 「やれやれ……別の意味で大役を任されちまったもんだ」

 護の言葉に、指名を受けた清はにやりと笑った。

 その笑みに、護はすまんな、と困ったような微笑みを返すだけだったが、すぐに旧支配者のほうへ向きなおり、かの存在をにらみつけた。

 すでに、腰あたりまで這い上がってきている。もはや、これ以上、時間に猶予はないようだ。

 「んじゃ、行くか。相棒」

 「あぁ、やろうぜ。相方」

 同じく旧支配者に向き直った勇樹が、護の言葉に答え、肩を軽くたたいた。

 護はそれに微笑みだけを返し、両手のひらを打ち合わせ、その隙間に意識を集中させた。脳裏に思い描くのは、己の内に宿せし剣。それを思い浮かべた瞬間、護の足元に、五芒星の魔法陣が光で描かれ、同時に、打ち合わせた護の手から、光が漏れた。

 護が右手を引き離すと、その手には一振りの剣が握られていた。

 それと同時に、護の目元と額が狐の面に覆われ、髪も白銀へと変化した。

 護の変化と同時に、勇樹にもまた変化があった。

 目を閉じた勇樹は両手を一瞬だけ合わせ、両腕を広げた。その手には、青と赤の光球が浮かんでいた。それを確認することなく、勇樹は両手を頭上と下腹部に掲げた。掲げられた位置にも、緑と黄色の光球が浮かんでいた。

 四つの光球が浮かび上がったことを確認すると、勇樹は柏手を打った。その瞬間、足元に太陽と月が描かれた魔法陣が描き出された。

 「契約者の名において、汝らが霊力、汝らが知恵、我に貸し与えたまえ!」

 勇樹の言葉に呼応するかのように、四つの光球から精霊の姿が浮き上がった。

 精霊たちはすぐに光の粒子へと姿を変え、勇樹の身に着けた手甲とすね当てに吸い込まれていき、淡い輝きを宿させた。

 同時に、勇樹の髪も護と同じく、白銀のそれへと変化した。

 いや、あえて護との違いをあげるのならば、変化の仕方だった。護は、まるで炎に焼かれ、燃え尽きた灰であるかのような白さであった。対して、勇樹のそれは、昼間に輝く太陽を思わせる美しくも神々しい白。

 それは、命という炎を燃やし続けるものと、命をつかさどるもの。力を与えている存在の性質の差ゆえ、なのだろう。

 それでも、二人のその輝きは、希望へとつながる光たりえる色をしている。少なくとも、その場にいた二人を想う少女たち(月美と桜)はそう感じていた。

 しかし、それだけで準備を整えたとは言わせないとばかりに、護は懐から護符を取り出した。

 「……んじゃ、総力戦と行きますか!」

 気迫のこもったその言葉とともに、十二枚の護符を頭上へと投げた。

 すると、護符は護の頭上で、互いに一定の間隔を保った位置まで飛び、空中で静止した。

 それだけではない。護の足元には、いつの間にか十二支が記された円と、それらの文字をつなぐ線で結ばれた十二芒星が浮かんでいた。そして、その中心には、五芒星が現れ、五色の光を放っていた。

 「主との契約に従い、今ここに応え。汝らが剣、汝らが言霊、汝らが霊験を以て、わが敵を打ち払いたまえ」

 護の言葉に答えるように、頭上に浮かぶ護符が光を放ち、光の中から十二の人影が現れた。

 そして、護の足元、五色の光を放っていた五芒星の先端からは、五匹の狐が姿を現していた。

 土御門家が従える式神、十二天将。そして、護が従える天狐たち。そして、呼び出すための言霊も、儀式も執り行ってはいないが、傍らに控えた美女。

 これが、今の護が持てる、最高にして最大の戦力だった。

 そして、この大戦、最後の戦いの幕が、切って落とされた。

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