エピローグ
目を覚ますと、朝の淡い光がカーテンの隙間からさしこんでいた。薄明るい室内は、彼の香りで満たされている。
暖かな温もりがまだ隣に在ることに安心して、あたしはゆっくりと伸びをした。
そうだ、今日は日曜だった。
「おはよう」
「あ、起こしちゃった?」
あたしは智くんに寄り添った。
「さっきから起きてたよ。ミミの寝顔を見てた」
「そんなの見なくていいよ」
恥ずかしいから、いちいち言わないで。
「朝飯食べるか?」
「ん〜ん、まだこのままがいい」
「そっか。俺も」
智くんの腕があたしの体を包み込む。すっぽり収まって、こんなにも居心地のいい場所、他にはない。
「生きるのに、権利とか意味とか、そんなの必要なかったんだね」
「急にどうした?」
あたしは首を振る。
「ううん。こっちの話」
ふっと、智くんが何かを思いついたみたいな顔をした。
「そういえば、佐山 響さんの話が聞きたいな」
「えっ?」
「もうペットじゃないんだろ?俺、響のことは何も知らない」
今なら、話せるかもしれない。苦しくて、泣いてしまうかも、取り乱してしまうかもしれないけど、智くんにだったら。
辛い過去は、消しされなくてもせめて乗り越えて。そうだね、智くん。
「あたしね……」
あたしはゆっくりと話し始めた。自分の過去を、産まれた時から、ゆっくりと記憶を辿って。
それは、佐山 響という一人の孤独な女の子の物語。決して楽しいものではないけど、智くんなら受けとめてくれるって信じてる。
こんなあたしを拾ってくれた智くんだから。
最後まで話しきった時、あなたはどんな顔をしているかな?
あたしは初めて本当の意味で、人に心を開こうとしているんだと気付く。
ありがとう、智くん。
あたしは今、幸せです。
愛してくれて、ありがとう。
――ありがとう。
-END-
今まで読んで下さった読者様、心からのお礼を申し上げます。皆様のおかげで、長い時間はかかってしまいましたが、なんとか完結することが出来ました。
皆様の心の中に、少しでも何かを残すことが出来たなら幸いです。
本当に、ありがとうございましたm(_ _)m