↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界No.1の外科医、異世界転生!?  作者: 阿門 甲斐吽


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
20/22

【第20話】未来を知るということ


 天明(てんめい)六年(ろくねん)、冬(ふゆ)。


 華岡家(はなおかけ)の研究室(けんきゅうしつ)。


 一滴(いってき)。


 また一滴(いってき)。


 竹筒(たけづつ)から。


 水(みず)が落(お)ちていた。


 青洲(せいしゅう)は。


 その水(みず)をじっと見(み)つめている。


 脈(みゃく)を測(はか)るため。


 呼吸(こきゅう)を測(はか)るため。


 薬(くすり)を使(つか)ってから。


 どれほどで作用(さよう)が現(あらわ)れ。


 どれほどで覚醒(かくせい)するのか。


 その時間(じかん)を比(くら)べるためだった。


「……駄目(だめ)だ」


 青洲(せいしゅう)は竹筒(たけづつ)を持(も)ち上(あ)げた。


 水位(すいい)が下(さ)がるにつれて。


 滴(しずく)の間隔(かんかく)が変(か)わっている。


 水(みず)の高(たか)さが変(か)われば。


 落(お)ち方(かた)も変(か)わる。


 当然(とうぜん)だった。


 分(わ)かっている。


 華岡蒼真(はなおかそうま)だった頃(ころ)なら。


 こんなことを考(かんが)える必要(ひつよう)すらなかった。


 一秒(いちびょう)。


 一分(いっぷん)。


 一時間(いちじかん)。


 正確(せいかく)な時計(とけい)が。


 当(あ)たり前(まえ)のように存在(そんざい)していた。


 手術室(しゅじゅつしつ)へ入(はい)れば。


 もっと多(おお)くの数字(すうじ)があった。


 心拍(しんぱく)。


 血圧(けつあつ)。


 酸素飽和度(さんそほうわど)。


 呼吸(こきゅう)。


 体温(たいおん)。


 画面(がめん)を流(なが)れる波形(はけい)。


 異常(いじょう)が起(お)これば。


 機械(きかい)が知(し)らせる。


 青洲(せいしゅう)は竹筒(たけづつ)を見(み)る。


 竹(たけ)。


 水(みず)。


 器(うつわ)。


 今(いま)の自分(じぶん)には。


 これしかない。


「知識(ちしき)はあるんだけどな……」


 何(なに)を測(はか)ればいいか。


 知(し)っている。


 なぜ必要(ひつよう)なのかも。


 知(し)っている。


 危険(きけん)な変化(へんか)も。


 その先(さき)に起(お)こり得(う)ることも。


 知(し)っている。


 それでも。


 測(はか)れない。


 未来(みらい)の医学(いがく)を知(し)っているからこそ。


 この時代(じだい)に何(なに)が足(た)りないのか。


 嫌(いや)というほど見(み)えてしまう。


 朝(あさ)。


 新吉(しんきち)がやってきた。


「先生(せんせい)、それは?」


「時間(じかん)を測(はか)る道具(どうぐ)だ」


「時間(じかん)?」


「ああ」


 新吉(しんきち)は。


 竹筒(たけづつ)を覗(のぞ)き込(こ)む。


「これで測(はか)れるんですか?」


「正確(せいかく)には無理(むり)だ」


「では、何(なん)のために?」


「比(くら)べるためだ」


 青洲(せいしゅう)は。


 再(ふたた)び水(みず)を入(い)れる。


「同(おな)じ道具(どうぐ)を、同(おな)じ条件(じょうけん)で使(つか)う。そうすれば、少(すく)なくとも前(まえ)と後(あと)の違(ちが)いは比(くら)べられる」


「前(まえ)と後(あと)……」


「薬(くすり)を使(つか)う前(まえ)と、使(つか)った後(あと)。昨日(きのう)と今日(きょう)。そういう違(ちが)いだ」


 新吉(しんきち)は。


 興味深(きょうみぶか)そうに水(みず)を見(み)る。


「面白(おもしろ)いですね」


「面白(おもしろ)い?」


「はい。こんなふうに診(み)る医者(いしゃ)は見(み)たことがありません」


 その言葉(ことば)で。


 青洲(せいしゅう)の手(て)が止(と)まった。


 見(み)たことがない。


 当然(とうぜん)だった。


 自分(じぶん)がやろうとしていることの根(ね)には。


 二百年以上先《にひゃくねんいじょうさき》の医学(いがく)がある。


 青洲(せいしゅう)は。


 新吉(しんきち)を見(み)る。


「新吉(しんきち)」


「はい」


「俺(おれ)が、どうしてこんなことを思(おも)いつくのか。不思議(ふしぎ)に思(おも)わないか?」


「思(おも)いますよ」


 あまりに即答(そくとう)され。


 青洲(せいしゅう)は苦笑(くしょう)した。


「思(おも)うのか」


「先生(せんせい)は時々(ときどき)、誰(だれ)も知(し)らないことを知(し)っていますから」


「……」


 青洲(せいしゅう)の表情(ひょうじょう)から。


 笑(え)みが消(き)えた。


 誰(だれ)も知(し)らないことを。


 知(し)っている。


 その言葉(ことば)が。


 胸(むね)に残(のこ)る。


「どうしたんです?」


「いや」


 青洲(せいしゅう)は。


 水(みず)へ視線(しせん)を戻(もど)した。


「何(なん)でもない」


 だが。


 何(なん)でもなくはなかった。


 いつか。


 考(かんが)えなければならないと思(おも)っていた。


 自分(じぶん)が。


 本当(ほんとう)は誰(だれ)なのか。


 華岡青洲(はなおかせいしゅう)の身体(からだ)に。


 2025年(ねん)を生(い)きた。


 華岡蒼真(はなおかそうま)の魂(たましい)が宿(やど)っている。


 そんな話(はなし)を。


 この時代(じだい)の人間(にんげん)へして。


 誰(だれ)が信(しん)じる?


 未来(みらい)から来(き)た。


 世界最高峰(せかいさいこうほう)の外科医(げかい)だった。


 人間(にんげん)の身体(からだ)を。


 切(き)らずに見(み)る機械(きかい)がある。


 血液(けつえき)を調(しら)べれば。


 身体(からだ)の中(なか)の異常(いじょう)が分(わ)かる。


 胸(むね)を開(ひら)かずに。


 心臓(しんぞう)の動(うご)きを見(み)ることができる。


 眠(ねむ)らせた患者(かんじゃ)の呼吸(こきゅう)を。


 機械(きかい)が代(か)わりに行(おこな)う。


 そんなことを話(はな)せば。


 医学(いがく)として受(う)け止(と)められるとは思(おも)えない。


 奇人(きじん)。


 妄言(もうげん)。


 あるいは。


 人(ひと)ならざるもの。


 そう思(おも)われる可能性(かのうせい)の方(ほう)が高(たか)い。


「やはり、言(い)うべきじゃないな」


「先生(せんせい)?」


「独(ひと)り言(ごと)だ」


 青洲(せいしゅう)は決(き)めた。


 自分(じぶん)が生(う)まれ変(か)わったことは。


 話(はな)さない。


 未来(みらい)を知(し)っていることも。


 話(はな)さない。


 少(すく)なくとも。


 今(いま)は。


 その事実(じじつ)を明(あ)かすことに。


 患者(かんじゃ)を救(すく)う意味(いみ)はない。


 むしろ。


 自分(じぶん)の医術(いじゅつ)そのものを。


 疑(うたが)わせる可能性(かのうせい)がある。


 それでは。


 本末転倒(ほんまつてんとう)だ。


 午前(ごぜん)。


 一人(ひとり)の患者(かんじゃ)が訪(おとず)れた。


 五十代(ごじゅうだい)の男(おとこ)。


「最近(さいきん)、息(いき)が切(き)れるんです」


「いつからです?」


「ひと月(つき)ほど前(まえ)からです」


「歩(ある)いた時(とき)?」


「はい」


「寝(ね)ている時(とき)は?」


「それは平気(へいき)です」


「胸(むね)の痛(いた)みは?」


「ありません」


 青洲(せいしゅう)は。


 男(おとこ)を見(み)る。


 顔色(かおいろ)。


 唇(くちびる)。


 爪(つめ)。


 胸(むね)の動(うご)き。


 足(あし)のむくみ。


 手首(てくび)へ触(ふ)れる。


 脈(みゃく)を取(と)る。


 蒼真(そうま)の頭(あたま)には。


 いくつもの可能性(かのうせい)が浮(う)かぶ。


 心臓(しんぞう)。


 肺(はい)。


 貧血(ひんけつ)。


 感染(かんせん)。


 その他(た)。


 2025年(ねん)なら。


 次(つぎ)に何(なに)をするかも。


 分(わ)かっている。


 採血(さいけつ)。


 心電図(しんでんず)。


 胸部画像(きょうぶがぞう)。


 必要(ひつよう)なら。


 心臓(しんぞう)の超音波検査(ちょうおんぱけんさ)。


 だが。


 何一(なにひと)つない。


 青洲(せいしゅう)は。


 患者(かんじゃ)の胸(むね)へ耳(みみ)を近(ちか)づけた。


 聞(き)く。


 場所(ばしょ)を変(か)える。


 もう一度(いちど)。


 聞(き)く。


 未来(みらい)なら。


 機械(きかい)を使(つか)う。


 今(いま)は。


 自分(じぶん)の耳(みみ)を使(つか)う。


「先生(せんせい)?」


「もう少(すこ)し診(み)せてください」


 青洲(せいしゅう)は。


 質問(しつもん)を重(かさ)ねた。


 食事(しょくじ)。


 睡眠(すいみん)。


 仕事(しごと)。


 咳(せき)。


 痰(たん)。


 熱(ねつ)。


 以前(いぜん)できたこと。


 今(いま)できなくなったこと。


 機械(きかい)がないなら。


 患者(かんじゃ)の言葉(ことば)から。


 情報(じょうほう)を拾(ひろ)う。


 診察(しんさつ)を終(お)えたあと。


 青洲(せいしゅう)は。


 生命解析(せいめいかいせき)を起動(きどう)した。


【生命解析(せいめいかいせき)】


【対象(たいしょう):成人男性(せいじんだんせい)】


【呼吸機能(こきゅうきのう):軽度低下(けいどていか)】


【循環負荷(じゅんかんふか):軽度上昇(けいどじょうしょう)】


【全身状態(ぜんしんじょうたい):概(おおむ)ね安定(あんてい)】


【原因特定(げんいんとくてい):情報不足(じょうほうぶそく)】


「やっぱり、そこまでは分(わ)からないか」


【肯定(こうてい)】


【現在取得情報《げんざいしゅとくじょうほう》のみでは確定不能(かくていふのう)】


 青洲(せいしゅう)は。


 表示(ひょうじ)を消(け)した。


 それでいい。


 システムまで。


 何(なん)でも答(こた)えてしまえば。


 自分以外(じぶんいがい)の医者(いしゃ)には。


 何(なに)も残(のこ)らない。


 午後(ごご)。


 研究室(けんきゅうしつ)。


 青洲(せいしゅう)は。


 一枚(いちまい)の紙(かみ)を広(ひろ)げた。


 左側(ひだりがわ)へ。


 未来(みらい)なら得(え)られる情報(じょうほう)を書(か)く。


 体重(たいじゅう)。


 血圧(けつあつ)。


 心拍(しんぱく)。


 呼吸(こきゅう)。


 酸素化(さんそか)。


 体温(たいおん)。


 血液(けつえき)。


 臓器機能(ぞうききのう)。


 画像(がぞう)。


 薬物濃度(やくぶつのうど)。


 そして。


 右側(みぎがわ)へ。


 今(いま)。


 得(え)られるものを書(か)く。


 体格(たいかく)。


 脈(みゃく)。


 呼吸(こきゅう)。


 顔色(かおいろ)。


 皮膚(ひふ)。


 意識(いしき)。


 食事(しょくじ)。


 排泄(はいせつ)。


 活動(かつどう)。


 睡眠(すいみん)。


 病歴(びょうれき)。


 患者(かんじゃ)の訴(うった)え。


 二(ふた)つを見比(みくら)べる。


「同(おな)じものは作(つく)れない」


 青洲(せいしゅう)には。


 分(わ)かっている。


 この時代(じだい)に。


 2025年(ねん)の医療機器(いりょうきき)を。


 そのまま再現(さいげん)することなどできない。


 必要(ひつよう)な材料(ざいりょう)がない。


 加工技術(かこうぎじゅつ)がない。


 電気(でんき)もない。


 製造設備(せいぞうせつび)もない。


 そもそも。


 一(ひと)つの医療機器(いりょうきき)の背後(はいご)に。


 どれほど多(おお)くの技術(ぎじゅつ)が積(つ)み重(かさ)なっていたのか。


 今(いま)なら。


 痛(いた)いほど分(わ)かる。


 なら。


 目指(めざ)すべきものは。


 機械(きかい)そのものではない。


「考(かんが)え方(かた)だ」


 青洲(せいしゅう)は。


 筆(ふで)を取(と)った。


 観察(かんさつ)する。


 測(はか)る。


 記録(きろく)する。


 比較(ひかく)する。


 再現(さいげん)する。


 未来(みらい)の医療(いりょう)を。


 そのまま持(も)ってくる必要(ひつよう)はない。


 未来(みらい)の医学(いがく)が。


 どうやって。


 正(ただ)しいものと。


 間違(まちが)ったものを分(わ)けていたのか。


 その方法(ほうほう)を。


 この時代(じだい)に合(あ)わせて作(つく)ればいい。


【SYSTEM (システム)】


【思考過程(しこうかてい)を確認(かくにん)】


【超高速学習《ちょうこうそくがくしゅう》】


【既存知識(きそんちしき)と現環境(げんかんきょう)の照合(しょうごう)】


【技術再構築条件《ぎじゅつさいこうちくじょうけん》:進行(しんこう)】


【現代技術(げんだいぎじゅつ)の完全再現(かんぜんさいげん):困難(こんなん)】


【代替技術構築《だいたいぎじゅつこうちく》:実行可能(じっこうかのう)】


 青洲(せいしゅう)は。


 表示(ひょうじ)を見(み)る。


「未来(みらい)の道具(どうぐ)を作(つく)りたいんじゃない」


【入力(にゅうりょく)を確認(かくにん)】


「未来(みらい)の医学(いがく)を、この時代(じだい)で使(つか)える形(かたち)にしたい」


【目標(もくひょう)を更新(こうしん)】


【技術再構築(ぎじゅつさいこうちく)】


【目的(もくてき):現環境(げんかんきょう)における医療技術(いりょうぎじゅつ)の再構成(さいこうせい)】


 青洲(せいしゅう)の目(め)が。


 細(ほそ)くなる。


 それだ。


 未来(みらい)から来(き)たことを。


 誰(だれ)かに話(はな)す必要(ひつよう)はない。


 2025年(ねん)という時代(じだい)の存在(そんざい)を。


 証明(しょうめい)する必要(ひつよう)もない。


 自分(じぶん)が世界最高峰(せかいさいこうほう)の外科医(げかい)だったことなど。


 誰(だれ)にも知(し)られなくていい。


 必要(ひつよう)なのは。


 その知識(ちしき)を。


 この時代(じだい)に残(のこ)すこと。


 しかも。


 華岡青洲(はなおかせいしゅう)にしか使(つか)えない知識(ちしき)としてではなく。


 新吉(しんきち)にも。


 他(ほか)の医者(いしゃ)にも。


 その先(さき)の医者(いしゃ)にも。


 使(つか)える形(かたち)で。


「そうか……」


 青洲(せいしゅう)は。


 ようやく気(き)づいた。


 未来(みらい)を知(し)っていることと。


 未来(みらい)の医学(いがく)を広(ひろ)めることは。


 別(べつ)なのだ。


 未来(みらい)を知(し)っていることは。


 隠(かく)せる。


 だが。


 医学(いがく)まで。


 隠(かく)す必要(ひつよう)はない。


 むしろ。


 広(ひろ)げなければならない。


 夕方(ゆうがた)。


 新吉(しんきち)を呼(よ)ぶ。


「新吉(しんきち)」


「はい」


「これから診察(しんさつ)の記録方法(きろくほうほう)を変(か)える」


「また増(ふ)えるんですか?」


「増(ふ)える」


「やっぱり」


「嫌(いや)か?」


「少(すこ)し」


 青洲(せいしゅう)は笑(わら)った。


「でも覚(おぼ)えろ」


「はい」


 紙(かみ)を渡(わた)す。


「患者(かんじゃ)を診(み)たら、症状(しょうじょう)だけを書(か)くな」


「では?」


「いつから始(はじ)まったか。何(なに)をすると悪(わる)くなるか。何(なに)をすると楽(らく)になるか。食事(しょくじ)。睡眠(すいみん)。排泄(はいせつ)。脈(みゃく)。呼吸(こきゅう)。できるだけ同(おな)じ順番(じゅんばん)で確認(かくにん)する」


 新吉(しんきち)が。


 紙(かみ)を見(み)る。


「どうして同(おな)じ順番(じゅんばん)なんです?」


「誰(だれ)が診(み)ても、抜(ぬ)けを減(へ)らせる」


「誰(だれ)が診(み)ても……」


「ああ」


「先生(せんせい)だけじゃなく?」


 青洲(せいしゅう)は。


 新吉(しんきち)を見(み)る。


「俺(おれ)だけできても意味(いみ)がない」


 その言葉(ことば)に。


 新吉(しんきち)が黙(だま)る。


「医術(いじゅつ)は」


 青洲(せいしゅう)は続(つづ)ける。


「一人(ひとり)の医者(いしゃ)が墓(はか)まで持(も)っていくものじゃない」


 自分自身(じぶんじしん)にも。


 言(い)い聞(き)かせるように。


「次(つぎ)の医者(いしゃ)へ渡(わた)すものだ」


 夜(よる)。


 研究室(けんきゅうしつ)。


 青洲(せいしゅう)は。


 一人(ひとり)。


 新(あたら)しい帳面(ちょうめん)を開(ひら)いた。


 最初(さいしょ)の頁(ページ)。


 そこへ。


 大(おお)きく書(か)く。


「診察記録法(しんさつきろくほう)」


 その下(した)へ。


 診察(しんさつ)の順序(じゅんじょ)。


 観察項目(かんさつこうもく)。


 記録方法(きろくほうほう)。


 変化(へんか)の比較(ひかく)。


 少(すこ)しずつ。


 書(か)いていく。


 これは。


 未来(みらい)の医学書(いがくしょ)ではない。


 2025年(ねん)の知識(ちしき)を。


 そのまま書(か)いたものでもない。


 1786年(ねん)の医者(いしゃ)が。


 理解(りかい)できる言葉(ことば)。


 使(つか)える道具(どうぐ)。


 確(たし)かめられる方法(ほうほう)。


 それだけで。


 組(く)み直(なお)した医学(いがく)。


【超高速学習《ちょうこうそくがくしゅう》】


【進化条件更新《しんかじょうけんこうしん》】


【知識保有(ちしきほゆう):達成(たっせい)】


【現環境理解(げんかんきょうりかい):進行(しんこう)】


【技術再構築(ぎじゅつさいこうちく):進行(しんこう)】


【再現性確立(さいげんせいかくりつ):進行(しんこう)】


【他者(たしゃ)による再現(さいげん):開始(かいし)】


 青洲(せいしゅう)は。


 最後(さいご)の文字(もじ)を見(み)る。


 生(う)まれ変(か)わったことは。


 誰(だれ)にも知(し)られなくていい。


 未来(みらい)から来(き)たことも。


 未来(みらい)の医学(いがく)を知(し)っていることも。


 知(し)られなくていい。


 だが。


 その知識(ちしき)から生(う)まれた医術(いじゅつ)は。


 残(のこ)す。


 誰(だれ)かが学(まな)び。


 誰(だれ)かが改良(かいりょう)し。


 さらに。


 次(つぎ)の誰(だれ)かへ渡(わた)していく。


 いつの日(ひ)か。


 自分(じぶん)が知(し)っている未来(みらい)とは。


 違(ちが)う未来(みらい)へ。


 つながるかもしれない。


 青洲(せいしゅう)は。


 筆(ふで)を置(お)いた。


「これなら、できる」


 2025年(ねん)を。


 1786年(ねん)へ持(も)ってくることはできない。


 ならば。


 1786年(ねん)から。


 未来(みらい)の医学(いがく)へ続(つづ)く道(みち)を。


 作(つく)ればいい。


 その夜(よる)。


 華岡青洲(はなおかせいしゅう)は。


 自分(じぶん)の秘密(ひみつ)を守(まも)ることと。


 未来(みらい)の医術(いじゅつ)を残(のこ)すこと。


 その二(ふた)つを。


 初(はじ)めて。


 はっきりと分(わ)けた。


 そして。


 未来(みらい)を知(し)る医師(いし)としてではなく。


 この時代(じだい)を生(い)きる医師(いし)として。


 医学(いがく)を進(すす)める道(みち)を。


 歩(ある)き始(はじ)めた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。