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慈悲深い魔女たちの話  作者: けものへんにまし
第四章 希望の魔女 エーディト
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希望の魔女 エーディト①

 窓から光が差し込む明るい部屋で、その女は、毎日お茶を淹れていました。

 小さなテーブルに白いクロスを敷き、女のものと、娘のものと、二人分のカップを並べ、娘の好きな林檎の砂糖煮を小皿に盛りました。


 今日は疲れているのでしょう。それでも昨日より顔色がいい、そう思いながら、娘の分のカップにも丁寧に茶を注ぎ、冷めないうちに、と寝台のそばへ運びます。今日は少し眠たがりのようでした。


     ✦ ✦ ✦


 娘が床に伏して半年。医者に匙を投げられてからというもの、夜になると、女は声を殺して泣いていました。娘が「こわい」とつぶやくたびに、同じだけこわかったのです。


 希望の魔女エーディトがあらわれたのは、そのような夜のことでした。


 うつむいていた視界の端が、光り輝いて見えました。驚いた女が顔を上げると、部屋にはまぶしいくらいに輝いて見える、黒髪の女性がいました。

 薄暗かったはずの空気が遠のき、娘の寝台も、壁も、自分の手すらも、どこか遠いものになっていました。代わりに、その女性だけが、恐ろしいほど鮮明に見えたのです。

 女は、彼女から目が離せなくなっていました。


「かわいそうに」


 エーディトの声は、よく通りました。


「あなたたちの絶望を、私が換えて差し上げましょうね」


 エーディトの喉元にあるしずく型の文様が、ひときわ輝くのを、女がうっとりと眺めていると、いつのまにか、女の手には黄金色のワインが満たされたグラスがありました。それはきらきらと輝いていて、甘い香りが鼻腔を満たします。


 女がそれを飲むと、あんなにも胸をしめつけていたものが、するりと抜けていきました。女は目をみはり、すぐに娘の方を向きました。

 これを、娘にも飲ませたい。それだけを思い、迷うことなく、娘の唇にそっとグラスを傾けました。


 すると、娘の表情が、今までになく穏やかになったのです。

 娘は、明日には起きるでしょう。明後日には歩けるかもしれない。外へ出られる日も、きっとすぐそこです。

 気持ちがこんなに晴れやかで、前向きになったのは、本当に久しぶりでした。


「あなたに生きる希望を贈れてうれしいわ」


 いつくしむような声を残し、エーディトの姿は消えていました。


     ✦ ✦ ✦


 それからの日々、女は毎朝、二人分のお茶を淹れるようになりました。

 白いクロスに、林檎の砂糖煮も添えて。


 娘は長い昼寝をしていましたが、女は焦りませんでした。

 起きたらすぐに出かけられるよう、毎日娘の靴を丁寧に磨きました。

 春には春のコートを仕立てました。夏が来れば夏のものを。娘の好きな色で、娘の好きな形で。寝台の娘に合わせて何度も採寸し、仕立て直しました。起きたときに、ぴったり着られるように。

 行き先も考えました。娘が喜びそうな場所、食べたがっていたもの、見たかった景色。思いついたそばから紙に書き留め、壁に貼りました。壁が埋まると、扉にも貼りました。


 漂う異臭に気づいた隣人が扉を叩いても、女は笑顔で答えるばかり。

「ええ、娘は元気ですよ。もうすぐ歩けるようになるんです。ただ、少し眠たがりで」


 ついに、隣人が町の者を連れて踏み込んだとき、部屋には丁寧に磨かれた靴が、何足も、何足も、並んでいました。壁から扉まで、行き先を書いた紙が隙間なく貼られ、季節ごとのコートが几帳面に畳まれ、積み重なっていました。


 女はちょうど、いつものように二人分のお茶を淹れているところでした。


「ああ、よかった。みなさんも一緒にいかがですか? 娘が起きたら、喜びますわ」

 女は、とても幸せそうでした。

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