希望の魔女 エーディト①
窓から光が差し込む明るい部屋で、その女は、毎日お茶を淹れていました。
小さなテーブルに白いクロスを敷き、女のものと、娘のものと、二人分のカップを並べ、娘の好きな林檎の砂糖煮を小皿に盛りました。
今日は疲れているのでしょう。それでも昨日より顔色がいい、そう思いながら、娘の分のカップにも丁寧に茶を注ぎ、冷めないうちに、と寝台のそばへ運びます。今日は少し眠たがりのようでした。
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娘が床に伏して半年。医者に匙を投げられてからというもの、夜になると、女は声を殺して泣いていました。娘が「こわい」とつぶやくたびに、同じだけこわかったのです。
希望の魔女エーディトがあらわれたのは、そのような夜のことでした。
うつむいていた視界の端が、光り輝いて見えました。驚いた女が顔を上げると、部屋にはまぶしいくらいに輝いて見える、黒髪の女性がいました。
薄暗かったはずの空気が遠のき、娘の寝台も、壁も、自分の手すらも、どこか遠いものになっていました。代わりに、その女性だけが、恐ろしいほど鮮明に見えたのです。
女は、彼女から目が離せなくなっていました。
「かわいそうに」
エーディトの声は、よく通りました。
「あなたたちの絶望を、私が換えて差し上げましょうね」
エーディトの喉元にあるしずく型の文様が、ひときわ輝くのを、女がうっとりと眺めていると、いつのまにか、女の手には黄金色のワインが満たされたグラスがありました。それはきらきらと輝いていて、甘い香りが鼻腔を満たします。
女がそれを飲むと、あんなにも胸をしめつけていたものが、するりと抜けていきました。女は目をみはり、すぐに娘の方を向きました。
これを、娘にも飲ませたい。それだけを思い、迷うことなく、娘の唇にそっとグラスを傾けました。
すると、娘の表情が、今までになく穏やかになったのです。
娘は、明日には起きるでしょう。明後日には歩けるかもしれない。外へ出られる日も、きっとすぐそこです。
気持ちがこんなに晴れやかで、前向きになったのは、本当に久しぶりでした。
「あなたに生きる希望を贈れてうれしいわ」
いつくしむような声を残し、エーディトの姿は消えていました。
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それからの日々、女は毎朝、二人分のお茶を淹れるようになりました。
白いクロスに、林檎の砂糖煮も添えて。
娘は長い昼寝をしていましたが、女は焦りませんでした。
起きたらすぐに出かけられるよう、毎日娘の靴を丁寧に磨きました。
春には春のコートを仕立てました。夏が来れば夏のものを。娘の好きな色で、娘の好きな形で。寝台の娘に合わせて何度も採寸し、仕立て直しました。起きたときに、ぴったり着られるように。
行き先も考えました。娘が喜びそうな場所、食べたがっていたもの、見たかった景色。思いついたそばから紙に書き留め、壁に貼りました。壁が埋まると、扉にも貼りました。
漂う異臭に気づいた隣人が扉を叩いても、女は笑顔で答えるばかり。
「ええ、娘は元気ですよ。もうすぐ歩けるようになるんです。ただ、少し眠たがりで」
ついに、隣人が町の者を連れて踏み込んだとき、部屋には丁寧に磨かれた靴が、何足も、何足も、並んでいました。壁から扉まで、行き先を書いた紙が隙間なく貼られ、季節ごとのコートが几帳面に畳まれ、積み重なっていました。
女はちょうど、いつものように二人分のお茶を淹れているところでした。
「ああ、よかった。みなさんも一緒にいかがですか? 娘が起きたら、喜びますわ」
女は、とても幸せそうでした。




