女神と妖の約束
時雨の元から姿を消し森の中に転移し燐を広い安全な場所に寝転がせながら内心アリアは焦っていた
「息が浅すぎる…心臓の傷が酷い よく見ると刺されたのが二回目なのか?海の中に落ちて体温も奪われたしな……」
燐の容態を見ながら手をかざしまず 濡れた体を淡い光に包み温めていく
「すまない…助けるのが遅れて…本当は妾もっと先に…助けたかったが……」
本当は時雨と言い合いをしている前から燐を見ていた 悪人を裁きながら影ながら涙を流し手を合わせる燐に心を惹かれていた
だが……人間は醜い生き物 ましてや女神だとしても姿は人間 中々助けに行けず気づけば海に落ちてゆく燐を見てようやく体が動き助けに行けた もっと早くに助ければこんな事にはならなかった…
「けど もう大丈夫 命に代えても助けてあげるから」
濡れた体が乾いたのを見計らって祈るように手を合わせ
【黒の祈り 禁断蘇生】
小さく呪文を呟くとアリアと燐の体がリンクするように黒く光り始める
すると…今まで浅かった呼吸が穏やかな寝息に変わり顔色も戻っていき身体の傷が綺麗に塞がっていく
「…成功じゃな…これで大丈夫じゃな…さて今回の代償はなんじゃろうな…」
黒の祈り これはアリアが所持する禁術に近い魔法 この魔法を使うと代償として術者は何かを失ってしまう はるか昔使った時 片目の視覚を失いある人に助けてもらい今では両目が見えている
「…あれ…?何も起きぬ…?」
すぐに代償はあの時みたいに前触れもなく奪われるはずなのに何も起きずに首をかしげる
首を傾げるアリアの後ろからパチパチと拍手する音が聞こえてくる
バッと後ろを振り向くとそこにはにこやかに笑う金色の髪を一つに結び金色の瞳の男性が立っている
「今回は代償なしにしてあげたよ 我が愛しの妻よ…」
「…誰じゃ?そなたなんか知らん さっさと消え失せろ 我が名は〝黒木アリア〟 誰と勘違いしておるのじゃ」
妻って言ってきた男に顔が青ざめながらあしらうように話す
知っている この男 だが誰だかわからない恐怖心に包まれていくこの感覚……
「……酷いな 本当は覚えているくせにリ……」
そこまで言うと勢いよく頰を掠める勢いで黒い矢が通り過ぎていく
「…さっさと立ち去れ 次は外さないぞ……」
睨みつけ低い声で言いながら闇能力で作り出した手のひらに浮かぶ闇の矢を再度飛ばそうと構える
そんなアリアの様子を見てやれやれと肩を竦めながら男は立ち去ろうとする
「君はいつまでも変わらないね 俺は君を手に入れるまで諦めないよ 生前からずっーと愛しているからね…今回の燐の助けは〝今後のゲーム〟に関わるからから 代償は消してあげたから感謝しろよな」
クスクス笑いながらアリアと眠る燐を再度見ると姿をゆっくりと消していった
「…気味が悪い…あの男…いや…私は名前を知っている……今思い出したわ…〝エリシア・スコティ〟……けど…なんで思い出したのじゃ?」
男の名前を口に出すだけで吐き気を覚え きっと思い出してもロクな事ではないだろうと感じ頭を軽くふり考えないように眠る燐の頭に撫でる 若干まだ濡れているがまぁ仕方ないかと思いながらふと考えが浮かんで来る
この記憶をいや今までの過去を封じて新たなる人生を歩ませようかと
側には必ずいる この子の人生をやり直させてあげよう
「そうじゃ…そうじゃな…あんなおぞましい愛を持った奴から殺されかけたなんていう記憶は封印してやろう…そして 普通の人生を歩ませる為にその巨大な力であろう能力は封じさせて貰おう」
眠る燐にそっと優しく触るように顔を触りゆっくりと額を合わせて
【ブラック・シール 記憶と能力の封印を…】
呪文を唱える
すると燐の顔が淡くひかり出しスルスルと包帯が出てくる 包帯はゆっくりと燐の片目を隠していく
「今から妾がそなたの親となり姉となり片割れの存在となろう…何があっても心優しいそなたを守ってみせよう…」
包帯が封印を施す姿を見ながらゆっくりと撫でる するとピクリと燐の体が動き薄っすらと目を開ける
「…あ…ありがとう……神様……私は…あなたを……────……私の名前は……─燐……」
途切れ途切れに言いながらこちらを見て僅かに笑みを浮かべながら言うとまた意識が途切れて目を閉じる
「…ありがとうか……途切れ途切れで所々聞こえなかったが……燐…あの男が呼んでいたから知っていたが良き名前じゃな…妾はな…妾はな…どうか…次こそずっと…一緒にいてくれ…妾の光になってくれ…もう失いたくないのじゃ……」
涙を零しながら封印が終わり包帯が綺麗に巻かれただ眠る燐を再度頭を撫でる
これがアリアと燐の最初の出会いだった
妖と女神が交わした〝大切な約束〟
運命はこの時から静かにゆっくりと動いていた
──この大切な約束は後に悲劇を生むとも知らずに……──
ここで燐の過去の記憶が途切れた
葛木燐の過去話はここまで
次回から新しい章に移ります




