一年五組、いつもの日常
「結局、死神の手伝いは続けるのか?」
月曜日の昼休み、ベランダに出た柚希は翔に言われて頷いた。
「体から抜け出ちゃう体質、完全に治ったわけじゃないし。クロスを借りてる間はやらなきゃ」
柚希の幽体離脱体質は、生きていくことへの執着の無さによる生気の薄さによって強まっていた。
だがこれは、もともと先天的に持っていた体質らしいのだ。
それを完全にコントロールできるようになるまでにはまだ時間がかかる。
苺ミルクのパックをベコベコ言わせながら、柚希は横目で翔を窺う。
いつもの愛想の欠片もない顔だ。
(言った? やっぱり夢? でも……)
桃華がいたことも、菅原の成仏を手伝ったことも夢ではない。
翔や昴との会話でもそれは確実だ。
(でもな、でもでもでも)
あの日から、翔の態度は全く変わってない。
もともと翔は柚希を呼ぶときに、「おい」とか「あんた」とか言うことが多いので、なんとも言えないのだが。
向こうからのアクションがない場合は、こちらから突っ込んでいくべきか。
最悪当たって砕けても知穂が骨を拾ってくれるらしいので。
「か、かかかか、か」
「なに? カラスの物まね?」
「違うし!」
柚希が叫ぶのと同時に予鈴が鳴る。
間の悪さにがっくりと項垂れた。
落ち込む柚希を放置して、翔が教室に戻るためにドアに手をかけた。
カラカラという音に混じって翔が口を開く。
「俺も手伝うからな」
「え?」
「死神の仕事。俺だってまだ、幽霊の見分け方を覚えたわけじゃない。それに危なっかしくて目を離せるかよ。言ったろ、柚希。俺はあんたがいい」
ドアを引きながら振り返った翔がにやりと笑う。
年相応の表情。まるで悪戯が成功したかのような。
「あんたもカラスじゃなくて、ちゃんと呼べるようになれよ」
ぽかんとする柚希を残して翔が教室に戻ってしまう。
じわじわと理解が及んで、柚希は頬を膨らませた。
彼は柚希が名前を呼んでみようとしたことをちゃんと分かっていたのだ。分かっていてわざとおちょくったのだ。
「酷い! ずるいっ。待ってよ、翔くん!」
柚希は翔を追いかけて教室に飛び込んだ。
いつから居たのか、ベランダでは黒猫が日向で丸くなって欠伸をしていた。




