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死神さま、ご登場


 真剣な様子で言った柚希に付いてきてしまったのは、魔が差したとしか言いようがない。

 珍しいくらい静かに歩く柚希は、ときどき後ろを歩く翔を振り返ってはちゃんと付いてきていることに安心するように表情を緩める。

 誰かにそんな顔をされることに慣れていなくて、少し居心地の悪さを感じた。

 それでも翔が柚希に黙って付いていったのは、やはり人と関わることに飢えていたからだろう。


 柚希は翔を何軒か店の続く一角に連れて行くと、カフェの看板を出している店の横に入っていった。

 奥に階段があり、外から二階へと入れるらしい。

 階段を上った先にある扉の上部は磨りガラスになっていて、そこに文字が書かれている。


(すばる)死神事務所?」


 胡散臭すぎる名前に、眉間に力が入る。

 振り返った柚希はなんともいえない表情で頷いて、扉を指さした。


「開けてもらってもいい?」


 なぜ自分で開けないのか疑問に思いつつも、翔は言われたとおりにノブに手をかけた。

 捻って開けると、中は普通の事務所のような内装だった。

 道路に面した側に大きな窓があり、その前に立派なデスクがある。中央には応接用らしいソファーとローテーブル。先ほど開けた扉側の壁には本棚や大きな棚があり、その向かい側には引出付きの低い棚が並んでいる。部屋の奥には衝立があって、その横には仮眠室か給湯室だと思われる扉があった。


「おや、客だなんて珍しいですね」


 デスクに座っていた男が、顔を上げて首を傾げる。

 この世のものとは思えない美貌を持った男だった。全身真っ黒に包まれているが、暗い印象は受けない。

 一瞬男に気を取られたが、それよりも翔は中央のソファーで白いうさぎのぬいぐるみを抱き込んで横になっている少女に目を瞠った。

 思わず小動物を思い起こさせるような可愛らしい顔立ち。

 雰囲気も、髪型も、着ている服も、いま彼の横に立っている少女と瓜二つだ。

 翔は隣を見下ろした。


「おや、さらに珍しい。君、柚希くんが見えるんですか」


 驚いたような響きを滲ませる男に、柚希は頷いて駆けだした。そのまま横になる少女の体に飛び込んでいく。

 翔はここでようやく、会った瞬間彼女が周りを見回した理由も、黙って付いてこいと言った理由も、扉を翔に開けさせた理由も思い至った。

 先ほど感じた既視感。数日前に二階にある彼の自室の窓の向こうにいた柚希は、翔と目が合ったことに先ほどと同じように目を丸くしていた。

 動いていた少女の体が、眠っている少女に触れた途端消えていく。


 ――霊体。先ほど翔が話していた柚希は、魂だけの存在だったのだ。


 数瞬の空白の後、横になっていた柚希が体を起こす。

 こちらを真っ直ぐ見つめる少女はうさぎを抱きしめたまま、気まずげに首を傾げてみせた。



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