死神さま、紹介される
「死神さまの昴さんです」
柚希が紹介すると、翔に胡乱げに睨みつけられた。
相澤柚希は特異な体質をしている。簡単に言うと飛び出し体質だ。
頭で考える前に条件反射で体が動くのはもちろん、簡単に魂が体から飛び出していく。いわゆる幽体離脱というやつである。
たぶん小さなころから少なからずそういった体質だったのだろう。
よく怖い夢を見ては双子の姉に泣きついていた。あれは眠っている間に魂だけが抜け出していたのだ。
霊体だけになったとき、柚希はこの世のものならざるものの存在を見る。
一般的に言う幽霊だったり、妖怪の類いだったり。
その体質が明確なものとしてなったのは、一年前に姉の桃華と事故に遭ったときだ。
桃華は死に、柚希は魂が体から抜けやすくなった。
あの日からどうしても叶えたい願いがあり、柚希は死者を迎えにきた死神の昴のもとで仕事を手伝うことにした。
それが放課後にしているアルバイトだ。
仕事の報酬は、いつも柚希が首にかけている十字架。これは魂が勝手に体から離れていかないための、昴特製の道具である。
「それ、本気で言ってんのか」
話を聞いた翔が、渋面になって柚希を睨みつけてきた。
もとから愛想の欠片もない翔だからか、そうやって睨みつけられると妙な迫力がある。
「本気だよ。さっきのわんちゃんも、自分が死んだことが納得できなくてこの世に留まっている子なの」
給湯室で淹れたコーヒーを、翔の前に置きながら頷いた。
柚希が犬に「お空に行くんだよー」と説得しているとき、急に翔が話しかけてくるものだから心底驚いたものだ。
霊体である柚希も死んで魂だけになった犬も、普通の人には見えないのだから。
翔は柚希とは違った、また別の特異な体質をしているようだ。
――視る力。普通にしていてもこの世のものではないものを視る眼だ。
柚希が初めてそれを知ったのは、夜中に霊体で人の家の屋根から屋根を渡って移動しているときだった。
たまたま翔の家の隣家の屋根にいて、翔の部屋の前を通って、翔が窓の外を見ていたから起こったことだった。
決して目が合わないはずなのに、間違いなく視線が絡んだ。彼は驚きの表情を浮かべた。
だから柚希は翔に視る力があることを知ったのだ。
本当に偶然のことだった。なにせ柚希は翔がどこに住んでいるのかも知らなかったし、興味がなかったので自転車通学か電車通学かさえも知らなかったのだ。
柚希は昴の前にもコーヒーを置き、翔の向かいへ座った。
自分のマグカップに角砂糖五個とミルクを三つ入れる。
「高坂くん。改めてお願いします。わたしの仕事を手伝って!」
「嫌だ」
ぶれない即答に、柚希はがっくりと項垂れた。
けれど彼は多少の興味くらいは持ったようで、自分のコーヒーに砂糖とミルクを一つずつ入れながら口を開いた。
「そもそも死神の仕事って、なんでそんなことしてんだよ」
「ああ、死神の仕事を誤解しないでくださいね。一般的に皆さんが持っているイメージとは少し違いますから」
窓際のデスクから昴が口を挟む。
「死神はただ、迷える魂を冥界に送るだけですよ。生きてる人間の寿命を縮めたり刈り取ったりとか、そんな乱暴なことはいたしません」
疑わしげな目を向ける翔に、昴は肩を竦めた。
「人の運命を変えるのは人だけです。そして人の運命は移ろいやすい。一ヶ月後に癌で死ぬはずだった人間が衝動的に飛び降り自殺をしたり、車に轢かれるはずだった人がたまたま呼び止められて立ち話ししたおかげで事故を回避したり、その全部に関与してたらいくつ体があっても足りませんってば。超勤なんぞ巫山戯んなです」
「超勤じゃなくても昴さん仕事しないじゃん。私にばっかり働かせないで少しはやってよ」
「嫌です。僕、仕事嫌いなんですもん」
にっこり笑う昴に柚希は少し唇を尖らせて訴えるが、身も蓋もない理由を堂々と言い切ってしまうのが、昴という死神だった。




