ep.028 pm11:59 北海道札幌市中央区 すすきの交差点
pm11:59 北海道札幌市中央区 すすきの交差点
皐月がすすきの交差点でタクシーを拾おうとした時だった。
一発の弾丸が皐月の髪を掠める。
サイレンサーを着けているのか、発射音は聞こえない。
あと数センチズレていれば、確実に今頃骸になっていたはずだ。
《えっ、何?敵!?》
皐月はとっさに全身の筋肉を緊張させ、左斜め後ろに跳ぶ。
《まさか、追っ手?ありえない》
皐月の顔に珍しく焦りが・・・。
仕事は完璧のはずだった。
素早い動きで路地に逃げ込む。
セカンドバッグからコルト・ガバメントを取り出し安全装置を外すと、先程撃たれた場所をチラ見した。
追撃する銃弾はなく、何も無かった様に交差点は賑わっている。
その時だった。
背後から声がする。
「皐月、乗れ!」
皐月が振り返ると、路地の先に氷室が黒い日産・シーマの助手席のドアを開け、呼びかけていた。
皐月は躊躇う事なく、シーマに飛び乗る。
二人を乗せたシーマは、重たい咆哮を挙げススキノを後にした。
「相手が下手くそで良かったな、皐月」
氷室が追っ手を振り切るかの如く、信号を無視し路地を抜け、右に左にシーマを操る。
皐月は、サイドミラーをチラリと見て、
「完全に巻いた様です。助かりました、氷室さん。しかし、何故、氷室さんがススキノに?」
氷室はポケットからタバコを取り出すが、空だったのでクシャっと握り潰すと、
「急なミッションでな。尤も視察だけだったんだがな・・・」
皐月は、軽くため息を吐き、
「迂闊でした。相手がただのチンピラの集団だと・・・」
氷室は顔を引き締め、
「想定外の事は、幾らでも起こりうるもんさ。ほら、ホテル着いたぞ」
シーマは、札幌クイーンホテルの裏に到着した。
皐月が礼を言って降りようとすると、氷室は皐月の右腕を捕まえ、
「今回のお前のミッションで、何か困った事があれば言え。俺は、明日は非番だ。それに・・・」
「それに?」
皐月はゴクリと息を飲む。
氷室は皐月の腕を離し、寂しく笑うと、
「それに今となっては、俺の身内は教え子のお前だけだ。もうあんな悲しい思いは、二度としたくないんだ」
心の叫びだった。
m皐月は改めて頭を下げ、ドアを閉めながら、
「了解りました、氷室さん。その時は遠慮無く」
氷室は頷き、
「あぁ、皐月。それでいい」
シーマは皐月に見送られ、闇に消えて行った。
皐月はホテルの部屋の前で、ルームキーを取り出そうとセカンドバッグを開ける。
中で携帯がメールの受信を知らせる為に光っていた。
《おそらく徳ね・・・》
カードキーと携帯を取り出す。
キーを差し込み部屋のドアを開け、同時に携帯のメールを確認した。
《あらあら、徳はちゃーんと約束守ってるじゃない・・・。えっ。そんな・・・》
徳からの報告は、皐月を固まらせるには充分な内容だった。




