異変2
夕食も和やかな雰囲気で終わり、部屋へ帰ると結界が少し乱れていた。
「やっぱり、私の留守を狙って誰かがここにきてますね」
「縁談の申し込みをした者達の誰か、でしょうか?」
「無くはない、ですよね。とりあえず、まだ様子見するしかないですね」
探すにしても、手がかりがないからね。
明日から少しずつ探っていくことにして、ベッドへ入った。
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次の日、以前都合があって会えなかった人と面談をして、部屋に帰ると今回はハンカチが無くなっていた。
「結界を張らずに留守にすると、何か取られるか…」
「一応、部屋の前には騎士がいるのにどうやって?」
最初の盗みがあったときから、留守の時に騎士を配置してるんだけど、何故かその騎士達は誰も見てないと言うし、でも結界には乱れがあったし今回は取られてるし…。
「透明人間?」
「アオ様?冗談を言ってる場合じゃありませんよ?」
「でも、状況からみてそれしかないですよ?」
「まぁ、そうですが…。出入りはどうするんですか?」
それなんだよね。騎士が異変に気づかないってことは、部屋のドアが動かないことと、中から物音がしないから何も気づかないってことだよね…。
「ん~、じゃあ、監視カメラを付けましょう!」
「監視、カメラ?なんですかそれ」
「私が留守の間の部屋の様子を、映像に残す物ですよ」
監視カメラは、お母さんが広めてこの辺りだと結構付けてる家が多いんだけど、リーンさんが知らないってことは、ジョイール王国まではまだ広まってないってことか…。
あっちの世界の物を紹介して驚かれるって、新鮮だからドヤ顔になるな。
「便利なものがあるんですね」
「犯罪の予防にもなりますしね」
「確かに、映像に写ってしまうならすぐに分かってしまいますものね」
「実際に、スクリプト王国ではこれが採用されて普及すると、犯罪件数が結構減ったんですよね」
「へぇ~凄いですね」
監視カメラに興味津々なリーンさんを促して、次の予定のために部屋に監視カメラを設置して、部屋を後にした。
今日は、昼食を一緒に食べる約束をアンドリューとしていたので、アンドリューの部屋へ向かった。
コンコン
「いらっしゃいませ、アオ姫様。私は、アンドリクス王子の侍従のレックスと言います。アンドリクス王子は中でお待ちです、どうぞ」
レックスさんは、少し長めの茶髪をゆるく一つに結っていて同色の目を持つ人だった。そつのない言動から、彼の有能さが現れている。
「アオ姫様をお連れしました」
「おぉ、来たか。さ、座ってくれ」
レックスさんに案内されて、席に座ると次々に料理が運ばれる。どれもこの国では見ない料理だ。
「今回は、スフィーリア王国の料理をアオに食べてもらいたくてな、厨房を少し借りて作らせたんだ」
「本当に、見たことない料理ばかりですね。美味しそう!」
「俺も腹へった、早く食べようぜ」
「アンドリクス王子、言葉が乱れてますよ」
「別にいいだろ?それに、アオはもう知ってるし」
「大丈夫ですよ、レックスさん」
「申し訳ありません」
「レックスは堅いんだよな、色々と細かいし。だから婚約者さえいないんだぞ」
「なっ!それは関係ないだろ!それにな、俺は婚約者がいないんじゃなくて、お前より先に決めないようにしてるんだ!」
「レックス、言葉が乱れてるぞ」
「はっ!失礼致しました」
「いえいえ…」
急に、言葉使いが変わって驚いてリーンさんと顔を見合わせてしまった。
「スフィーリア王国はな、自分に仕える者は自分達で見付けるのが伝統なんだ。自分の身を任せなきゃいけない騎士団とかもな。で、レックスをはじめ俺に仕えるのは、傭兵上がりの奴らでマナーとか礼儀とかからっきしだったんだ。それを奴らに身に付けさせるのも俺の役目でさ、要は人を見る目を養うってのが目的だな」
「凄いこと考えるね~」
「だよな。傭兵上がりでも、マナーの先生達にはたじたじだったよな」
「あれは、もうごめんです」
そうとう厳しかったんだな、なんかレックスさんの顔色が悪くなった気がする。
「あ、そうだ。それでアオに聞きたいことがあったんだ」
「何?」
「その傭兵上がりの奴らがな、どっかで紅白戦とかをやりたいんだと、その許可とどっか場所がないかと思ってな」
「それなら、いいところがあるよ。明日案内するよ」
「おぅ、頼むな」
その後も、楽しく食事をして私は部屋に帰る。
さっそく、リーンさんとカメラの映像を見ると…。
「これは…」
「まさか、本当に透明人間とはね…」
そこには、誰もいないはずなのに物がひとりでに宙に浮き消えていく影像が写っていた。