【あなたと私】21
商業施設のレストランで、二人でパスタを食べていた。
「ねえ」
「なに」
「このみのどこが好き?」
樹は食事の手を止めた。
「なんでそんなことお前に言わなきゃいけないんだよ」
「気になるから」
楓子は樹を見ている。
「そんなの、このみだけが知ってればいいだろ」
「ふうん」
楓子は納得してない様子だったがそれ以上は聞かずに食事に戻った。「美味しいね」と楓子が言う。樹は「そうだな」と答えた。
食事を終えた二人は遊戯施設の受付をしてプラネタリウムの個室に入った。
部屋の真ん中に設置された丸いソファーに樹が先に腰掛けて、隣にくっつくように楓子が座る。樹はちらりと視線を送りはしたが何も言わず、ソファー脇のリモコンを操作して部屋の電気を消した。
小さな音で音楽が流れ、部屋の天井、壁、床まで三百六十度星空が映し出される。まるでソファーだけが浮いているようなその迫力に、楓子は「うわあ」と感嘆の声を上げた。
ゆったりとした声でナレーションが流れ始める。
ちかちかと光る星を、樹はゆっくりと見回した。横目で楓子の顔を見る。楓子の目は星の光を反射してきらきらと光っている。
「綺麗だねえ」
「そうだな」
「このみに見せたかった?」
「そうだな」
十五分ほど経ってから、樹が自身の左手を見た。その上に、楓子の右手が乗っていた。
「おい」
「間違えてないよ」
楓子はきっぱりと言った。
「間違えたんじゃないよ」
樹はしばし黙って「お前」と言った。しかしその続きを阻むように楓子が「ねえ」と言った。
「私とここに来ること、このみにはなんて言ったの?」
「何も言ってない」
樹は嘘を吐いた。このみは緊張して、画面をじっと見る。
「何も?」
「用事があるから出かけるとは言ったけど」
「それだけ?」
楓子は樹に問う。
「それだけ」
樹は平然と答える。
「このみは何も聞かないの?」
楓子は身体ごと樹の方を向いて、身を乗り出している。樹と楓子の顔の距離はほんの数センチしかない。
樹が返事をする前に、楓子は「このみって」と考えるように言った。
「樹のこと、本当に好きなの?」
「さあな」
「あたしだったら、好きな人のこと、気になって仕方ないけどな」
楓子は樹を上目遣いで見つめる。
「なあ。好きってなんだろうな」
樹は逆に聞き返した。
「え?」
「好きってなんだ? ちゃんと答えられるかお前」
楓子は少し考えてから「答えられるよ」と強い口調で言った。
「好きって言うのは、その人のことを知りたいと思う気持ち。傍にいたいと思う気持ちだよ」
「ふうん」
樹の返事を聞き「ていうか」と楓子は言った。
「このみのこと、好きじゃないんじゃん。好きって言う気持ちもちゃんと分からないんでしょ樹は」
「だったらなんだ。俺とこのみは一緒にいちゃいけないってのか」
「勿体ないよ」
「勿体ない?」
樹が聞き返すと、楓子は頷いた。
「人間ってさ、誰かを愛する為に生まれてくるんだよ。その為に言葉があるし、好きっていう感情があるの。あたしはそう思ってる」




