【あなたと私】22
「俺は機械だよ」
「機械だって、人間型なんだもん。おんなじでしょ」
「機械の気持ちも大事だって今、お前言ったな」
「言ったよ」
楓子は口を尖らせ、挑戦的な目で樹を見た。
「なあ、じゃあ悠真の気持ちは尊重すべきだってことだな。悠真は間違いなくお前のことが好きだ。お前の傍にいられることが幸せなんだよ」
楓子は「でも」と言った。
「あたしは今、樹の方が好きなんだけど」
樹ははあ、と深く溜息を吐く。
「樹はあたしのこと嫌い?」
樹は「別に嫌いではないけど」と答えた。
「じゃあ、あたしの相棒になってって言ったら、なってくれる? たまたま最初の相棒がこのみだっただけで、樹はこのみのこと好きじゃないんでしょ。だったら」
「お前」
樹は楓子の言葉を遮った。
「勝手だな。機械の気持ちも尊重すべきだとかなんとか言っといて、結局悠真のことなんか考えてないじゃないか。お前は機械達のことを代わりの効く道具だとしか思ってないんだろ」
「そんなこと」
楓子は否定しかけたが、言葉が続かない。
「もし最初の相棒が俺だったとしたら、お前はきっと悠真が良かったって言うんだろ」
「それは違う!」
楓子は立ち上がり、叫んだ。
「あたしは悠真のこと軽く見てるから交換したいわけじゃないもん。悠真が嫌なわけじゃない。でもそれ以上に樹のことが気になるの! それって人間でも一緒でしょ。相手が人間だったって、その人のこと一生愛していくって思ったって、途中でうまくいかなくなることだってあるじゃん! それってそんなにいけないこと?」
楓子の目から涙が零れる。
「お前は本当に勝手だな。責任も取れない癖に好きだ気になる愛してるって」
「だってそうなんだもん! しょうがないじゃん! あたしは樹が好きなの! 今、どうしようもなく、樹が好きなの!」
叫び終えると楓子はへなへなと座り込んだ。しばらく声を出さずに泣き、手の甲で涙を拭っている。
「ごめん」
突然樹は優しい声で楓子に詫びた。
このみは目を丸くした。
「泣かせたかったわけじゃないんだ」
樹は一瞬だけ目を閉じた。それから楓子の肩に手をまわし、自分の方に引き寄せた。
「俺なんかのことを好きだって言ってくれるのは、すごく嬉しい」
樹の視線には、自分の胸に収まる楓子の頭が映る。星空に照らされて、きらきらと光る黒髪。
樹が優しい手つきで楓子の頭を撫でる。このみと悠真に直接通信でメッセージが届く。
『ごめん』
簡素なメッセージを受信すると同時に、視覚映像が途切れて真っ暗になった。樹が共有情報を遮断したのだと分かった。
悠真が立ち上がり、飛び出して行った。
このみは悠真に声をかけようと思ったが、視界の端に捉えた悠真の表情を見て固まってしまった。物凄く怒っていた。
あんなに怒った悠真の顔を、このみは見たことがない。




