第37話 崩壊と飛翔(下)
眩い光に包まれた瞬間――
熱が消えた。
冷たい外気が肌に触れ、
肺が久しぶりに生きた空気を吸い込んだ。
次の瞬間、竜の背がぐっと浮き上がる。
ラグナが叫ぶ。
「つかまれ! 一気に上がる!!」
紅の翼が天へ向かって強く羽ばたいた。
――視界が、ひらける。
山の外壁。
噴き出す蒸気と風。
上空には雲が広がり、青空が顔を覗かせていた。
俺たちは、山頂を飛び越えていた。
「う……うわあ……」
ミナが口を開けたまま固まる。
「ほんとに……出られたんだ……!」
「空気が……冷たいです」
セレスが泣き笑いのような顔をする。
リーネは髪を押さえながら、
「死ぬかと思ったにゃ。ほんとに」
と呟いて肩を落とした。
俺も、胸の奥に残った竜炎の鼓動を確かめながら息を吐く。
(……帰ってきた……)
追いかけてくる崩落の音は、もう聞こえない。
それだけで、身体がふっと軽くなった気がした。
だが――
「癒やし手」
ラグナが低い声で呼んだ。
「……まだ飛ぶぞ」
「え?」
ミナが目を丸くする。
「迷宮全体の崩壊は続いている。余波が外へ吹き上がるぞ」
ちょうどそのタイミングで――
ドォォォォン!!!!!
山の奥から、爆発的な熱風が吹き上がった。
「うわっ!?」
「きゃあっ!」
「わっ……風が強い!!」
ラグナが上空へ逃げるように翼を翻す。
山全体が、まるで息をするように崩落している。
その時、下を見ていたリーネが目を見張った!
「みんな! 良かった、脱出できてたにゃ!」
「リーネっ!?」
山の麓に、数人の影が見える。
グレイフェザーの皆だ!
リーダーのマーカスが、竜の背に乗った俺たちを見て目を丸くしている。
「な、なんで竜の背中に!!?」
別方向から、数人の影が駆け込んでくる。
リーネがハッと顔を上げた。
「マーカス!? みんな!?」
グレイフェザーの皆だ!
このダンジョンで瘴気に苦しんでいた冒険者パーティ。
ラグナの封印が解け、瘴気が晴れたことで道をたどって戻って来られたのだろう。
「リーネ! それに癒やし手!!」
マーカスが息を荒げながら駆け寄る。
その後ろには、ヒーラーのリディアと他の仲間たちの姿。
「リディア……! よかった……! 動けるようになったんだにゃ……!」
リーネの声が震える。
涙混じりの笑顔で、安堵の色が浮かんだ。
リディアも息を切らせながら笑った。
ラグナが翼を動かすと、ぐん、と空高くその巨体は舞い上がる。
グレイフェザーの皆は、みるみるうちに小さくなっていった。
「良かったにゃ……みんな無事で!」
「うん、ホントにね! とっさに脱出してるなんてやっぱり優秀なパーティなんだね!」
顔を打つ激しい風の中、涙でぐちゃぐちゃになったリーネの顔を見てミナが笑う。
「笑うなんて酷いいにゃ、このバカ犬!」
「何だとぉ!」
緊張が解けたのか、久々のやりとりに俺は思わず笑みを浮かべた。
ラグナが、空の中央で羽ばたきを弱め、一度だけ背を振り返る。
崩れゆく迷宮で、黄金の光が揺れていた。
オーリアの魂が、確かにそこにいた場所。
「……さらば、オーリア」
ラグナの呟きは、風に溶けていった。
そしてラグナは、雲の切れ間を見据えて翼を広げた。
「癒やし手。あとは安全な場所まで飛ぶ。ここは……余波が強すぎる」
「了解。頼む」
「任せてにゃ!」
「ユージさん、落ちないように……!」
「ミナさん、もう少しユージさん支えて……!」
みんなの声が飛び交い、
ラグナは高く、さらに高く飛び上がった。
崩れゆく火山を背に、
空と風を切り裂いて――。
俺たちは、生きて迷宮からの脱出を果たしたのだった。
〈第37話 完〉
【次回予告】
崩壊する火山を背に、
ラグナの背で空を飛ぶ。
「街が見える。……もうすぐだ」
帰還の時。
そして――別れの予感。
──第38話(上)「空へ還る竜(上)」
おじさん、街へ帰る。




